順調な時こそ落とし穴
上手く区切れなかった…
番が4組8匹。
幼竜が2匹。
独身竜が8匹。
そして卵持ちは2体いた。そのうちの片方が俺の竜になる予定、と言う事で俺はそれこそ必死で竜の育て方から学ぶことになった。
騎竜に乗ることを前提にした授業は、思ったよりも楽しくて毎日が楽しくなった。
竜に乗る以上槍も使えた方がいいのかもしれないけど、槍だと俺が振り回せる気がしないな、とか。
ただでさえ細身の剣を使っているのだ、長さを追求したら恐らくは重すぎて上手く動けない気がするな、とか。
剣を振り回すだけになっていて何も考えなくなっていた事に気付き、俺は苦笑しながら自分の欠点を克服して行く。
そんな風に一つ一つ、授業に打ち込み始め。
剣の腕はやはり最上級クラスレベルの特殊クラスだから俺は全然かなわなくて落ち込んだりもしたけれど、相手が引き上げてくれるので何事もなく授業も進むようになり…。
このところ空き気味だった竜舎がほぼ満杯になったともあって、騎竜士クラスは一気に活気づいて、俺もいつの間にかクラスに馴染んでいた。
元々一学年上と言う事であまり接点もなく、俺に対しての風評も大したものではなかったのか、特に嫌味を言われるでもなく。
かえって竜と喧嘩したり、竜の機嫌を損ねた時になど俺に任してくるぐらいでバランスも取れていて、俺はこの学校に入って初めてやりがいを感じ始めていた。
剣技はどうしても作業になりがちだったからな…。
竜にどうやって乗ればいいか、竜との連携はどうするか、竜に乗った際の剣の動かし方など想像もつかないような授業が多いため座学も実習も苦にならず、あっという間に卵が生まれる日になった。
…だが。
「え? 孵化を見れないってどういうことですか?」
騎竜士クラスの教官に呼び出されたのは数時間前。
騎竜の親が望んでいると言う事で、俺と生まれたばかりの幼竜を合わせ、契約できるかどうかを様子見しつつ育成も俺が受け持つことになっていたのだと言うのに、なんと王城からまったがかかったというのだ。
騎竜と言えば近衛部隊に使用されることもあるけれど、王城には王城でちゃんとした飼育舎があるはず。
何故に騎士養成学校の騎竜を横から取り上げる必要があるんだよ!?
「すまん、俺もすでに契約予定者がいるからと何度も言ったんだが…」
「…?」
「王城の神子がな。生まれてくる騎竜は勇者との縁があると予言したんだ」
「勇者と…」
…それならむしろ絶賛俺が契約できるか試したいんだけど。
だってその騎竜が勇者と行くことになったら縁が確実に出来るよな? これ。
「だから保護したい、契約者は無しにしておきたいとの仰せでな…」
「しかし勇者が顕れるのはもっと後の話じゃなかったですっけ?」
確かあの神様20数年とか言ったはず。
だからまだまだ先の話と思っていたの、だが…。
「? そんなこと誰に聞いたんだ?」
「あ、いえなんとなく?」
危ない。
勇者の召喚ってそういえば時期とか全く知らされてないよな。
国の緊急時に召喚される、って事になってて時期は不明。
いつでも旅立てるように、勇者PTのメンバーは名誉職として選抜制。5年に一度勇者とともに動けるものとして選抜大会が行われる、筈だ。
「ああ、そういえばあのカイラード家か…。そういうことも知らされることもあるのか」
「は、いえ、直接聞いたわけではないんですけど、なんとなくは?」
てへっ♪
と誤魔化しつつ先を促すと、わかったのは以下の通り。
勇者と縁のある騎竜が学校で生まれることが分かった
勇者が契約するかもしれないので契約なしの状態で王城で保護したい
そのため卵のまま王城へ移動が決まった
「あの…もう、生まれると思うんですけど?」
「そうなんだよな。母竜が卵の上から動いてくれないから動かせないんだ。それを今伝書で伝えてはいるが、恐らくは間に合わないな」
「だったら見せてくれても…」
「駄目だ。お前が幼竜見たらその場で契約者と決まる可能性がある」
「はうっ」
それが狙いですとか超言えねえ。
言えないけど見破られてるかも。卵に過度の期待をかけ過ぎていたか…!
だって触ってくれとか言うんだもん。
竜の卵は表面硬いんだけどちょっとあったかくて、少し撫でるとカタカタ動くんだぜ! 元気すぎ!
騎竜の契約は一度してしまうとよっぽどの事がない限り解除かからないしなあ。
やったもん勝ち…的な…。
「下手に契約して反逆者扱いはされたくないだろう、カイラード」
「はあ…」
「だから事故等も許されん。お前は卵が輸送終わるまで一週間、寮内以外の外出禁止だ」
「は!?」
何それ横暴。
むしろ寮破りしていいかな!
とまで思ったのだが、契約予定者だったこともあって王城から監視者まで来る始末で寮から抜けだせなくなりました。