騎竜の谷の実習(16歳)
と、言う事で。
やってきました騎竜の谷。
俺の騎竜士クラスの飛び級はとんとん拍子に話は進み、あっさりと認定され。
丁度その翌日にこの年2回目の騎竜捕獲が予定されていたため、クラスの皆への紹介もそこそこに、俺はいきなり実習からこのクラスをスタートした。
このクラスはたったの20人しかおらず、前回の騎竜捕獲で騎竜を捕まえられたのはわずか2人。
残りの18名の竜を、1匹でも多く捕まえるのが今回の実習の趣旨となっていた。
春から夏は番を見つける季節でも有、野生の騎竜は比較的外を飛んでいる。
これが夏を超えるとお嫁さんの方が卵のあっために忙しくなり、旦那の方は餌をさがして飛びまわるため捕まえられなくなるそうだ。
そして子供が生まれてからはその子中心になるため人里に下りてくる事はなく。ようやく春先に見つかる時には半年ぐらいの幼竜が一緒の事が珍しくないらしい。
幼竜だと直接戦力にはならないが、一緒に育てつつ騎士も一緒になって育つ、と言うのも人気が有、巣を探して幼竜と契約するのも実習に含まれていた。
とはいえ、巣を見つけるのも至難のようだが。
大抵は両親と飛んでいる幼竜をそのまま勧誘(?)が一般的だ。
騎竜士クラスになって初めて知ったのだが、基本騎竜と騎士の関係は対等か、竜の方が若干強いのが普通だった。
騎士は契約の陣を竜に施し、竜がそれを受け入れ契約の儀を行う場合と(ちなみに破棄は騎士からではなく竜の方からだったりする竜本位の契約だが)。
対等として血の盟約…つまり契約者の血をそのまま竜に飲ませる、という儀式を行う場合がある。
ちなみに俺は陣が組めない(紙に書いてある陣に魔力を通せない)ので後者のみ。
ただ、神の加護(っていうか寵愛じゃなかったっけ? 加護加護言われてるけどあってるんだろうか)があるので、恐らく契約しなくても乗るのには不便しないだろう、ということだった。基本騎竜は頭が良いのだ。
竜の種類によっては普通に言葉が通じるしある程度話すらしい。すげーな!
「ユリス、もう少しで比較的集まりやすい場所に出る。お前が先頭になれ」
「え、はい?」
騎竜クラスの教師に声をかけられ、俺は徒歩で前に出る。
当然のことながら馬がいると騎竜を捕まえられないので、近くの村からは徒歩だ。
「俺が前に出ると何かいいんですか?」
「基本加護持ちがいると、お前を見つけた騎竜が仲間を呼んでくれる事があるからな。一番見えやすい処にいた方がいい」
「はあ…」
ああ、そういえば。
最初に会った陸竜はきゅーきゅー俺に呼び掛けてたっけ。あんな幸せそうな声を聞いたら、何事かなーと仲間がよってくるのかもしれない。
なるほど。
かわいいな竜! 少なくとも1匹2匹はよって来てくれるとありがたいな!
☆
…うん。
そんな事を思いっていた時期が俺にもありました。
「ユ、リス…お前加護ってレベルじゃないだろうこれ…」
「えーと…はい…?」
目の前にはずらりと並んだ騎竜。
白に始まり、白銀、桃色、若草色、くすんだ黄色、…うん、何匹いるんだこれは?
騎竜の逢引場所とも思われる場所にいた竜は、最初は2匹だった。
基本頭がいい騎竜は叫ばないし、こちらが攻撃しない限りはあちらも攻撃してこない。
そのため大声が厳禁となっており、俺たちは声をひそめて進んでいたわけなのだが。
騎竜が俺を見た瞬間に全員が固まる事態になった。
まず1匹。近寄るどころか突進して来た。
それはもうすごい勢いで。
「あ、あぶな!?」
「駄目だ刺激するな、全員動くな!!」
教師の怒号が響く中、突進してきた騎竜は俺の目の前で急ブレーキをかけて止まり。
そしてやったことはといえばやはりアレ。
べろん。
きゅーきゅー♪
きゅーきゅー♪
うん、ご機嫌ですね。
突進はどう考えてもいらなかったけどね。かわいいから許す。
「…大歓迎?」
「…のようだな」
呟くクラスメイトの目線を背に受けつつ、もう1匹に目線を向けるとこちらも寄ってきてやはり舐める・歌うのオンパレード。
うん、かわいいけどちょっとうるさい。
そのうち1匹、また1匹と飛んで寄って来ては俺に近寄り大歓迎的にもみくちゃにされ、その後俺たちの目的に気付くのか少しずつ離れて整列し始めたのだ。
結果、人間が18人なのに騎竜は倍近く控えている羽目になった。
…狭いよこれ!?
しかも整列してる間に意気投合したんだか、いちゃつき始めた騎竜までいるんですけど!
何このカオス!
「…終わったか?」
「えーと、たぶん」
集まってきた騎竜が全員並び終わり、命令まだー? ときゅーきゅーし始めた処で教師が威厳を取り戻す。
うん、唖然としてたよね。
俺もどうしていいかわからなかったけど、多分整列してるって事は口説いていいんじゃないかな。まだ立ち去る気配はないし。視線はすごく感じるけど。
「よし。じゃあ各自一人ずつ、描いてきた陣を持って竜に話しかけてみろ。気にいってもらえれば陣に対して何らかの反応が出る。そうしたら契約だ」
「はい!」
「彼らは特にこちらに危害を加えてくる事はないが、いやがっていると感じた場合は速やかに違う場所へ移動しろ。では、散れ!」
それから散っていった彼らは一人ずつ自分にあった騎竜を見つける事が出来たらしい。
全員が契約したところで残った竜が1匹、1匹と飛んで去っていく。
…あれ?
「俺契約してないんですけど…」
「…何やってんだお前は」
「いや、ほら。寄っていくと喜ぶんですけどなんか契約して欲しい、って感じじゃなくて。見てるうちにいなくなっちゃったというかなんというか…」
「ああ…なるほど。じゃあ波長の合うやつがいなかったのかも知れないな」
…なるほど。
そういうこともあるらしい。まあ、俺は神の寵愛(加護?)持ちなわけで、逆に相性が合うと言うのも難しい話なのかも?
気落ちしつつ、飛んで去る竜を見つめていると。
クラスの一人、クララと契約したらしい竜が俺に近寄って来た。
「…? 君は彼女と契約したんじゃ?」
「んー、なんか、ユリスと話したいみたい? なんか伝わってくる」
近くまで寄って来た桃色の竜を見上げると、きゅー、と鳴く。
そして何か…。
ん?
『こ…』
「!?」
「あれ、なんか発音が…?」
きゅー、という鳴き声に混じって聞こえる意味のある言葉。
それは馴染みのある言葉で、俺は眼を見開いて彼女(?)を見る。
「古代言語だ…」
「え。魔術師が使うあれだよね? 上位魔法を使用する時の」
『こども…契約…』
「なんて言ってるのユリス?」
「子供、って言ってるな」
「あ、この子そう言えば妊婦さんみたいだからね」
目線を下にむけると、ぽっこりと膨らんだお腹が見える。
もうじき生まれるのかな、これ。
「もしかして…子どもと契約しろ、って言ってるのかな…」
「ああ…なるほど。いいんじゃない? ユリスは来年もこのクラスにいるんだし、幼竜と契約すると一心同体みたいに動けるって聞くよ?」
「へえ…」
それもありだな。
とりあえず、生まれてから考えてみてもいいかもしれない。
とにもかくにも俺以外が騎竜を手に入れたため、実習は終わりとなり帰校した。
わかりやすいフラグが立ちました