表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/89

閑話 生徒と俺

先生と俺の先生視点です。

暇つぶしにでも客観視点をお楽しみください。

この学校には自分に自覚のない問題児が一人いる。

名を、ユリス・カイラードという。


彼は入学からして普通ではなかった。

なにせ入学締め切りが終わった後に、王族からねじ込まれてきたのだ、入学自体が。

通常途中入学を受け付ける事はあるが、急いで入れろ的に言われる事はまずない。

幸い授業が始まってすぐのことだったので、入学時の不備があり遅れた…という誤魔化しで受け入れる事は出来たが。


そこまではまあ、王族に由縁のある名家故仕方ない、と済ませる事は出来るだろう。

入学金も何ら問題はなく、むしろ我を通すと言う事で多く払われたくらいだ。


だがしかし。

問題は彼のその資質だった。


剣の腕は現第一師団団長の息子であるサルート・カイルロット殿につけられていたというだけあり、基礎はしっかり終わっており、年齢よりむしろ腕はよいくらい。

12歳と下限年齢を超えて入るものの、平民であれば入学金を支度するのに時間がかかり軽く15歳を超えて入学するものもいるこの学校にとっては些細な事。



ただこの少年は、魔法が一切使えなかった。

そう、いわゆる魔力0…前代未聞の、魔力なしだったのだ。



人間は魔力を持っている。魔力を持たない人間はむしろいない。

その基準で合わせているこの学校の授業は、当然ながら魔法関係の科目が2科目ある。

この科目、彼は点を取る事が出来ない。

そもそも魔法をぶつける事自体が恐ろしすぎて出来ないのだ。


何度も言う。

彼は名家の出身である。

騎士のたかが修行程度で命を落とされては困るのだ。しかもそれを不慮の事故でした…等とすまされるわけもない。

最初から提示されているのだから。


よって彼の2科目は0点。

10科目中2科目0点である。100点満点で言えば、800点を取っても平均して80点が最高と言う事である。


苦悩がお分かり頂けるだろうか。

他の科目の点数が上位であっても、彼の得点は常にハンデを背負っているのだ。頭が痛い。


実習に置いて0点になるのであれば知力で慮ればいいではないか。

そう思った君、いるだろう。

甘い。

そう、甘いのだ。


この少年、魔法が使えない癖に魔術師の名家の出身なのである。

なんだって、と言いたくなる。

なんだって魔術師の名門から魔力0の子供が生まれるのかと。

しかも彼、神童と呼ばれたほどの頭の良さなのだ。普通の騎士見習いが太刀打ちできないほど、魔法関係の理論と知識は精通している。


そう…。

彼の追試を実習ではなく学習にしてしまうと今度は…。

彼は満点を取ってしまうのである…。


実習で0点なのに理論は100点とか!!

しかも問題見てこの理論間違ってます、こうした方が魔力消費も少ないし実用的です、とか主張してしまうレベルなのだ!!(そして実際取り入れられた)


喧嘩売ってるのか、と言いたい。

理論が間違わなければ必ず発動するレベルの魔法しか騎士団では使用・習得義務がないのだから。


しかし彼は真面目だった。


大真面目だった。むしろもっと力抜きなさいと言いたくなるくらい真面目でいい生徒だった。

これでまだ…頭でっかちのかわいげのない子供と言うのであれば叱りようもあるし、クラスに溶け込んだのであろうが…。

この少年、真面目すぎて…あまりに真面目すぎて、友人との距離を測りかね、実習を落第してしまい、その友人と決裂して孤立してしまったのである…。


彼は気付いていないと思っているかもしれない。

しかし俺は気づいていた。

担任は気付いてなかったようだが、上級クラスと言う暇なクラスに配置されている俺はサボりながらよく実習を覗いていたので知っているのだ。


彼の友人、ファティマ・ソーガイズは別の意味で俺の中では問題児だった。

彼女は才能にあふれるあまり、相手の都合を考えない少女なのだ。

担任はエリートクラスの期待の星だ! とか言って彼女の横にいる彼とアリスという少女が被っている被害に関してまるで気づいていないようだったが。


見るからに細く、体力もそう多くない彼に向って、実習前にグラウンド100周を要求しているのを見た時にはつい別の用事を彼にいいつけたほどである。

またある時には、実習中に彼の獲物を取っているのを見てなんで彼はそれを言わないかな、と思ったくらいだ。



おそらく彼女を傷つけたくないのだろうな。

うん、なんというあおいはる。しかしそれは言ってやれ。

どちらもかわいそうすぎるだろう。

しかし担任でも何でもない俺はどうする事も出来ないし、本人も反論する気がないのでは仕方ない。


…そう思って、静観していたのだが。

まさかその後彼女の暴走が悪化して彼がクラス落ちするとは正直思わず、知った時には激しく動揺した。

どう考えても事故としか思えない。

そしてクラス落ちして俺が師事した途端、なんと言うかやはりというか…実習点が元の点以上にさっくり戻ったため、最早言葉も出なかった。

これで彼女との確執がなければ実際はすぐに戻せるはずだったのだ。


拒んだのは彼だ。

元のクラスには戻りたくないのだ、と彼は言った。


本来ならその意思を汲んでやりたい。

元に戻ったところで最上級クラスの中心ファティマとやり合うのは見えている。

しかも彼女自身が非があると理解しているかは非常に怪しい。

だったらまあ、それなりの地位を確立しているこのクラスでも良いのではないかとは思える。

彼、あんまり身分とか職業に拘ってる感じないしな。



だ・が・し・か・し。



それで終わらなかったのが彼の出身名家。

カイラード家の横やりであった。


曰く、何故クラス落ちするのか。

曰く、魔法に関して使用できない事を証明しているのに赤点扱いとはおかしい。

曰く、平等にしているのか。


恐らくは在校生から、醜聞に近い何かも伝わったのであろう…。

即刻最上級クラスに戻さなければ退校させるとまで言ってきたのだ。

これにはさすがに教師全員が頭を抱えた。


今更採点方法を変えるわけにも、彼だけ特別扱いするわけにもいかない。

大体クラス落ちして1カ月で元の成績に戻るのだ、どう考えても授業内容じゃなくてクラスの関係性で落ち込んでいるのは既に誰の目から見ても明らかだ。


となれば…。

後は彼のやる気次第ではないか…。


そして今度は校長も含め、全員が机に突っ伏した。


『やる気』

入ってきてこの方、彼から感じた事がない物体である。



彼はとにかく大人しい。

礼儀正しく、教師には敬意を払い、時間には正確。

だがしかし、自己主張と言うものが非常に乏しい。

大抵に置いてファティマが横におり、これがいいあれがいいという我儘に付き合って、そしてそのままこなしてしまうような少年である。

彼に主体性はあるのだろうか。

っていうか少女が強すぎて彼の印象薄すぎる。どうにもならない。


俺は今日こそ彼を理解しようと決意を固め。

そして彼をまた呼びだした。








無理かこれは。

と、いつも通り最初は思った。


何度聞いても同じ、クラスは戻りたくないという言葉。

この問答はすでに1週間は続いているのだ。

俺もいい加減疲れている。


今日こそは彼の真意を聞きだすべく、俺はなぜ落ちたのかと聞いてみた。

ここでファティマの存在が口から出れば、なんとかしようもある。

彼女には悪いが、いじめに近いものと判断し近寄らないように確約させることも手としては考えていた。


だが。

彼はダンマリで一向に口を開こうとはしない。

俺は仕方なくもう一つの知りたい事を聞いてみた。


「お前には目的がないのか? 最上級クラスになりたいと言う」


やる気。

彼のやる気はどこにあるのだろうか、と。

俺はなんとはなしに聞いた…だけ、だったのだが。


「最上級クラスよりは騎竜士クラスに入りたいです」

「…は?」


帰ってきた答えはいい意味で期待を裏切ってくれていた。

騎竜士クラス…つまり5年の別クラスが目標だと彼は言ったのだ。

それはつまり、彼のやる気はそこにあると言う事に他ならない。


確認してなりたいのかと聞いてみると、存外しっかりとした答えが戻ってくる。

後は…。

適性の問題。


話を聞きだしてみれば、なんてことはない。

彼は普通に自分の適性を見抜き、やりたい職業もすでに決まっていたからこその静かさだったのだ。

これには逆に驚かされた。飛び級を示唆して見ると相当乗ってきて、目が輝きだしたのだ。

こんな表情は3年間見ていても初めての事で有り、こちらをやる気にさせてくれるものだった。


彼が希望した内容は、そう難しい事じゃない。

むしろ適性があるなら願ってもない進路だ。

騎竜士クラスの担任は俺が知る限りでは相当デキタ奴だし、騎竜士自体もカイラード家から文句の出そうにないクラスだ。

適当に『飛び級するため準備段階でクラスを落とした』ぐらいに言って誤魔化しておけば何とかなるだろう。あのクラスは特殊クラスなので授業自体が最上級クラスとは全く異なるからな。


話を終え、帰りなさいと告げ。

帰っていった少年の後姿を見て俺は苦笑する。


…かわいいもんじゃないか。


初めてみた少年の笑顔は歳相応で、何ら他の生徒と変わりがなかった。

気負い過ぎていたのは教師の方かもしれないな…と思いながら、俺は事態を収束すべく、ようやく動くことにしたのだった。

上級クラスの先生は案外ユリスの味方。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ