先生と俺
タイトル的には女教師の方がどれだけ需要があるのかと思わないでもなかったけど作者がおっさん好きでした。残念。
4年生ともなれば、クラス単位での動きは多くなる。
最上級クラスは実習の多い、騎士見習いとして王城へ入り始める。
だが上級クラスに転落した俺に待っていたのは、基礎からのやり直しだった。
なんで基礎? と思いがちだが、思い出してほしい。
何故クラスが転落するのか。それは付いていけないからだ。
つまりクラスを一つ落とす事でついていない実力の部分をやり直し、上のクラスへ押し上げ戻す目的を持つ。
なので最上級クラスで既に習ったことの繰り返しになるのだ。
「ユリス・カイラード。なぜ君はクラス落ちしたんだ?」
「ついていけなくなったからですが」
「だが…、お前はこのクラスに来てからの成績は、ほぼ上位から動かず最上級クラスの動きとなんら遜色ない。確かに体力などの平均値は低いと思うが…ついて行けないほどではないだろう? 悪い事は言わん、クラスを戻せ」
「…」
担任にそう呼び出されたのは、クラスが落ちてから割とすぐだった。
なるべくならこのままにして欲しいと首を振る俺に、煩わしそうに説得してくる教師。
まさに平行線。
「…なぜ最上級クラスが嫌なんだ? 手を抜いてクラス落ちしたのか?」
「そんなことはしていません」
「じゃあ、なぜ落ちたんだ」
「…」
説明しづらいと言うより、説明出来ない。
早い話が実習点が低すぎて平均値を割ってしまい、落ちたのだ。クラスが。
理由? 実習になるとファティマが近くに来るからだよ。実習点は常に赤点だったよ。
うん、そんな理由喋れるわけがない。馬鹿にされるのがオチだ。
というより人のせいにするなんて騎士の風上にもおけんとか言われそう。現実を見ろ教師。
大体にして騎士であっても魔法実習は有り、魔法耐性に関しても実習がある。
ちなみに俺に関してはこの授業、0点である。生活用の火すらつかないので荷物が増えるし、簡易的な策敵も不可能。
よってこの2科目の実習点が響き、平均点を割ってしまうのだ。
なお、騎士学校の科目は以下の通り。
剣技・剣技実習・野外実習・乗馬・魔法耐性学習・魔法実習・礼義作法・一般知識+選択授業2つ
5年になると、さらに細かいクラス分けが発生し専門知識を習得することになる。
で、俺は5年時の騎竜士クラスを狙っているため、最上級クラスと上級クラスを行き来するよりはクラスをとどまっていた方が都合が良いのだ。
騎竜士クラスの条件は、竜に好かれるかどうかと、協調性に関してなので…。
ぶっちゃけ2番目のスキルが著しく損なわれていると思われる俺は、これ以上波風立てたくない。
加えて最上級クラスは無条件で騎士団見習いになる可能性があり(指名制)、俺の風評を知っているだろうサルートが気を回して指定してくる可能性がぶっちゃけ否定できないのだ…うん…。手紙に騎竜士になりたいな☆とは書いているものの、アイツ文字通りに読んでくれるかどうかは不安だからな…。
なんだかんだいって過保護みたいだし…。
「カイラード」
「はい?」
だんまりを続ける俺に、教師が呆れたように声をかける。
「お前には目的がないのか? 最上級クラスになりたいと言う」
「最上級クラスよりは騎竜士クラスに入りたいです」
「……は?」
ああ、そうか。
サルートの事は別に言ってもいいんじゃないか、コレ?
しかしコネがあると言ってるも同然なので、それはそれでなんか問題ありそうな気がするな…。
後ぶっちゃけ最上級クラスに戻りたくないのは気まずいからの一言に尽きる。
1ヶ月経って俺もだいぶ落ち着いたものの、俺はどんだけ追い詰められていたんだろうなひと月前は。
「…カイラードは騎竜士になりたいのか?」
「あ、はい。そうです」
「…ちなみに騎竜士はまず大前提として竜に好かれなければならんのだが…それは知っているのか?」
探るような目つき。
先ほどのめんどくさそうな動きはどこへ行ったものか、思案するように俺を見る教師に俺はそのまま言葉をつづけた
「それは大丈夫です。騎竜には会ったことないですが、陸竜には懐かれましたし。動物には嫌われた事がないので!」
「…は? 陸竜に懐かれた…?」
唖然としたように口を開く教師に、俺は首を傾げる。
そういえば陸竜の御者にも驚かれたな。竜に懐かれるのって実は相当な特殊技能?
ここは駄目押しだろうか。
「この学校へ来る時に竜車に乗ったんですけど。その時に陸竜に懐かれるのは珍しいし、騎竜士を目指した方がいいんじゃないかと勧められまして…」
「…。なるほどな…。そうか、カイラードは確か乗馬の授業は常に満点だったか…」
「はい。馬に触るのも好きです」
頷く教師にもうひと押し! とばかりに言葉を重ねると。
教師は一つ頷いた。
「神の加護持ちか…ふむ…、確か今の騎竜クラスには加護持ちもいないし、騎竜も減少傾向にあるから…うん…なんとかなるかもしれないな」
「?」
「なあ、カイラード。騎竜士になりたいのなら飛び級しないか?」
「飛び級…ですか?」
飛び級。
この学校では加入年齢が特に決められていないため(下限は10歳だ)、年齢によって飛び級が可能になる。
俺は下限より2歳年上で入学しているため、本来なら卒業年齢15歳を超えた16歳に今年なる。
つまりは5年生になる事が出来るのだ。単位を満たしていれば。
「正直今のクラスだと役不足感が否めない。最上級クラスは王城のエリート養成クラスとも言われているのに対し、こちらは警備隊や郊外に派遣される部隊になる可能性の高いクラスだしな」
「はあ」
「だが、騎竜士は元々人数が少なく、なれればエリートコースだ。これなら特に文句も出ないだろう」
文句ってどこからだよ。
と思いつつ教師を見ると、ほっとしたように肩の力を抜いていて意地悪がしたくて俺に最上級クラスに戻れと言っていたわけではない事にようやく気付く。
もしかして、板挟み? 表情を見てそう思い……俺はある可能性に思い当たった。
「もしかして…実家から何か、言われています、か」
「……ああ、まあ、子供の動向は親としては気になるだろう?」
「……すみませんでした」
噂であれほどやめる・やめないを言われた俺だ。
両親に話が行き、圧力がかかったとしても何ら不思議はない。
「とにかく、だ。騎竜士クラスの担任には話を通して見る。この時期は生徒の騎竜を捕まえるのに忙しい時期だが、年々減少傾向にある騎竜を捕まえるのに苦労しているとも聞いている。
神の加護はハッキリ言って泣いて喜ぶ話だからな。まず大丈夫だろう」
「! 本当ですか!?」
「ただ5年生は丸ごと1年を受けなきゃいけないクラスだから、5年生を1年10カ月ほど過ごすことになると思うが、それは構わないか?」
「はい、大丈夫です。4年での授業の足りないクラスは補習を受けます」
むしろ竜と戯れる時間が増えるのなら大歓迎だよ!
一般常識と礼儀作法の時間は寝たくて仕方ないレベルだったしサボっても卒業試験にはおそらく影響しない。
入ってきた時とは打って変わってご機嫌になった俺に、教師は苦笑して。
もう帰りなさい、と職員室から出された。
その後の俺は自分でもわかるほどご機嫌で。
寮に帰る道すがら、とうとう狂った…とか囁かれたのは全く別の話だ。
失礼だな!!!
そしておっさん好きの作者のため次の閑話はおっさん視点です←