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第1夜

「早速ですが説教から始めますよ。ナルさん、夕方、音楽室に『出ましたね』?」

 笑顔の中に怒りを含んで、御崎 啓人みさきけいと先生は優しくおっしゃった。

 常に笑顔を保つ先生だから、表情からは心境を読むことが難しいこともあり、それゆえにナルは、悪びれた様子もなく、けろりとそれに答えた。

「そこにピアノがあったから弾く! ってのがジョーシキでしょ?」

「残念ながら非常識です。なのでナルさんは罰としてポイントをひかせてもらいますね」

 先生の表情は変わらないけれど、声に少しだけ力が加わった気がした。

 けれどそれに気づいたのは他の生徒達で、張本人の真紅 鳴流しぐれなるは全然、全くそれに気づかず、がたんと席から立ち上がった。

「あんな大変な思いしてやっと弾いたのに、ポイント引かれるの?! やだ!」

「どこの小学生ですか。いいですか、約束しましたよね。あなた達は、日中出てきてはいけない、と」

「暇なのにー!!」

 3年7組。夜の教室に、ナルの叫びが木霊して、窓が強風に吹かれたようにガタガタと音を立てた。

「ナルちゃんおちついて。先生に退治されちゃうよ」

「はっ」

 隣の席の早衣 さよりこいの優しい声音に諭されたように、ナルは我に返って自分を落ち着かせる為に深呼吸した。

「さて、それでは今回の課題です」

 まだナルの深呼吸は終わっていなかったけれど、先生はかまわず話を進めだした。

「このあたり界隈の犬猫の霊魂を捕獲・拘留して下さい。このキャリーバックに入れてくれれば転送されますからね」

 いつの間にかどこからか出てきた人数分のキャリーバックに手を添える。虫取り編みもあるような気がするのは気のせいじゃないかもしれない。

「せんせーい」

 後ろの席の方で、元気よく手を挙げたのは佐川 大和さがわやまと

「はいヤマトさん」

「カイワイってなーにー?」

 指されても特に席から立つこともせず、自分の抱いた疑問を声にした。

 先生は気にとめもせず、それはと説明しようとすると、違う声にそれを遮られる。

「そんなことも知らないの? ヤマトはやっぱりバカね!」

 完璧に復活したナルだった。

「えー。じゃあナルは知ってるのかよ」

「もちろんよ!」

「何?」

「そ、それを女の子の口から言わせるつもり?!」

 ばっと顔を赤く染めたナルを見て、ヤマトと、“界隈”の意味を知らなかった生徒以外の皆が、首をかしげた。

「……ちなみに、ナルさんが何を頭に思い浮かべているか解りませんが、界隈とは、その辺り一帯という意味です。ですから、学校付近の犬や猫を捕まえて下さいね」

 先生の解説に、ナルの目が見開いた。

「えっ、ラブホテルの事じゃなかったの?!」

 ナルの赤い顔がますます赤くなる。もう少しすれば煙が出ると思うくらいに。

「どうして未成年だった君たちにラブホテルに行けと言うんですか。全力で阻止しますよ。行かないで下さいね?」

 今度の先生の微笑みには畏怖というものを感じ取れたナルは、萎縮して縮んでしまった。恥ずかしいやら情けないやらで涙が出てきそうだ。

「ぎゃはは! ナルおまえ最高の勘違いだ! おもしろいぜ! 生まれ変わったら漫才師だな!」

「うっさいヤマトしね!」

「残念もう死んでますー」

 ヤマトは教卓まで一気に駆け抜けて、キャリーバックをひとつ手にしたかと思うとそのまま教室の窓から外へ飛び出して行ってしまった。

「はい。皆さんも出発しましょうか。夜明け前までには帰ってきて下さいね。不用意にお札には近づかないこと。あと、人を驚かせてもダメですよ」

 一人一人にキャリーバックを手渡しながら、先生は生徒を送り出していった。生徒はヤマトが出て行った窓や、普通に扉や、壁をすり抜けて外に出て行く生徒もいた。

「気をつけて、いってらっしゃい」



 明央高校、3年7組。夜。

 生きている人間がすべて学校の敷地から出て行ってから現れる彼らは、察しの通り幽霊である。

 人間は死ねば成仏して閻魔大王の元で裁かれたり、親に先立って死亡した子供が賽の河原で石積みをしたりという話が有名だけれど、彼らは気がついたらそのどちらでもなく、ここの教室にいた。

 先生が言うには、ここでの課題をこなしてポイントを溜めると、生まれ変わりを希望する際にひとつだけ融通を聞いてくれる、らしい。

 それは場所だったり。

 関係性だったり。

 性別だったり。

 一番多い要望は何かと聞くと、先生は少し楽しそうに「なんだと思いますか?」と聞いた後、今となっては珍しい真面目な表情に変わって教えてくれた。

 それは、人間に生まれ変わること。

 生徒達は疑問に思う。

 人は人に生まれ変わるものだと思っていたから。

 可能性だけなら何にでも生まれ変わりますよ。と、いつもの笑顔に戻った先生は見て来たように言った。



「思ったより大変だわ……」

 額の汗を拭う動作をして、ナルは呟いた。

 先ほどから猫や犬の霊を見つけては追いかけ、逃げられ、撒かれて、見失っての繰り返し。

 霊とはいえど、能力的に人型はやはり不利なのだろうか。

 しかもコイと一緒に行動していたはずなのに、いつの間にかはぐれてしまった。

 自分の悪い癖だとナルは思う。

 目の前の一つのことに集中しすぎてしまう。

「おっ。ナルだ」

 角を曲がると、なにやら異様な雰囲気のヤマトが道の真ん中に佇んでいた。

「あ、あんた、何? それ……」

 ナルの目に飛び込んできたのは、ヤマトの頭から生えている猫耳と、頬から生えている猫ひげと、腰から生えている尻尾。

「男のあんたがそんな格好しててもぜんぜん萌えねえー!」

「うるっさいにゃ! 誰も萌えなんか狙ってねえし!」

 ヤマトが叫ぶと同時に、ヤマトの体から猫が一匹ぴょーんと飛び出してきた。

 猫は華麗に着地して、一度ヤマトの方をちらりと見てから、さっさと向こうの方へ逃げていってしまった。

「ナルの所為で一匹逃げられた!」

「私の所為?!」

 一匹ずつ捕まえてキャリーバックに入れていくのが面倒になったヤマトは、見つけては自分の体に閉じこめていくという、すごくいいアイデアを思いつき、実行している。ちなみに猫派なので猫しか追わない。

「まあいいや。ナルのキャリーバック貸してくれよ。俺あっちに置いて来ちゃってさあ」

「え、ないわよ」

「なんで!?」

「コイに持っててもらったんだけど、はぐれちゃったんだもん」

「つかえねえー」

「なっ、自分はどうなのよ! 学校の物無くすなんて信じられない」

「無くしてねえし。置いてきたんだってさっき言った筈だけど? ちゃんと人の話聞いてくださーい」

「支給品置き去りにするなんて信じられない」

「友達に荷物持ちさせるなんて信じられない」

「荷物を持ってくれる友達もいないなんてかわいそう」

「ろくに考えないで行動しちゃうナルの面倒見させられてコイがかわいそう」

「あんたにコイはやらないわ!」

「どうしてそうなった?!」

「ヤマト、コイが好きなんでしょ?」

「そんなふうに見たことねえよ!」

「あんな可愛くていい子を好きにならない男子なんて男じゃないわ」

「ナルのその言い分だとコイと出会った総ての男がコイを好きになってることになるぞ」

「そうよ? 先生だって例外じゃないわ。でも先生は大人だから、手を出すことができなくてやきもきしてるのよ」

「おまえ病気だ」

「なんで?」

 女の子は恋バナが好きだとは言うが、ナルのそれは度が過ぎるくらいだ。しかもコイを溺愛していて、彼女が絡むとさらにヒートアップする。

「ナルがコイとつきあえばいいんじゃね?」

「は?」

 真面目な顔つきになったナルを見て、さすがに冗談が過ぎたかとヤマトが様子を窺っていると、ナルは少しの間考えて、くるりと踵を返した。

「ちょっと告白してくる!」

「待てナル落ち着け!」

「人の恋路をじゃまする人は馬に蹴られて死ぬのよ!」

 ナルの何かのスイッチが入ってしまった。

 目をぎらぎらさせて走っていこうとするナルは変態そのものにしか見えなくて、そんな風にしてしまった責任を、少しだけヤマトは感じていた。

 タッと軽く跳んで、ナルの行く手を阻むように着地する──つもりが、目測を誤ってナルの真上に降りてしまった。

 体の中に入っている猫たちの所為で身体能力が上がったのか、いつもの自分の感覚で動けなかったから少し押さえて跳んだのだが、さっき逃げていった一匹分かただのミスか、足下に見えたのはナルの後頭部で、空中でどうこうするより落下速度の方が早く、危ないとも言う暇もなくヤマトはナルに衝突した。

 ナルはヤマトに踏まれて地面に突っ伏し、ヤマトはナルに馬乗りになって漫画的に誤解を生む体勢になるはずだったが……そうはならなかった。

「あれ?」

 ヤマトは一人でそこに突っ立っていた。

 周りを見ても、上を見ても、もしやと思って地面をなめるように見ても、ナルの姿はどこにもない。

「どこ行ったー?」

 もう一度辺りを見回していると、耳元で声が聞こえた。

『ヤマト』

 ナルの声が。

 実際には耳元で聞こえたのではなく頭に直に響いた音で、慣れない感覚に、ぞわぞわとつま先から頭の先に鳥肌が駆け抜けて、ヤマトは身震いした。

『あんた、猫みたいに私まで取り込んだわね』

「うわ、マジ?! 俺の中にいんのおまえ。気持ち悪りぃー!」

『自分でやっておいてその言いぐさは失礼ね! このっ』

「おわっ!」

 ナルのかけ声と連動して、ヤマトの体が勝手に動いた。

 すたすたと普通に歩いていく。

『普通に自分の体みたいに動かせるわー。おもしろーい』

「やめろマジで」

 ヤマトがナルの暴挙を止めようとして、進んでいる足を変なタイミングで止めたから、ヤマトの体は派手に転んだ。

『なにやってんのよ』

「おまえの所為だろ。早く出て行けよ」

 ヤマトは言いながら体を起こそうとしたけれど、なぜか体はうつ伏せたままぴくりとも動かなかったどころか、両足がぱたぱたと楽しそうに動き出した。

 効果音をつけるなら、“ルンルン♪”だろう。

 ヤマトがそれを止めようと足に力を入れた隙に、今度は上半身だけで腕立て伏せを始めた。しかも超高速。

「ナルー!」

『あはははは!』

 今度はヤマトの体が道路をごろごろ転がる。

 その間に2、3匹猫がぽろぽろとこぼれ出た。

 ヒゲと尻尾がそれと同時に無くなってしまう。

「また逃げてった! 捕まえろよ!」

『まだ5匹はいるわよ?』

「残ってるからいいとか、そういう問題じゃ無えんだよ。わかんねえかなあ!」

 ヤマトが本気でキレそうになったとき、どんと体が何かにぶつかって回転が止まった。

 何にぶつかって止まったか確認する前に、ヤマトの体は大きく跳ねて、すとんと屋根の上に降り立った。

 またナルが変な動きをと一瞬思ったヤマトだったが、そうじゃないことにすぐ気づく。

 体の中に残っている猫たちが警戒してざわついている。

 さっきまで自分が転がっていたと思われる場所にある人影と、地面に突き刺さった大きな鎌。

「あれ? その制服……ケイトんとこの生徒か」

 人影が鎌を抜きながらヤマトを見て言った。

 ヤマトもナルも驚いていて言葉が出ない。

 自分たちは幽霊で。

 その人はなんだか黒を基調にした服を着ていて。

 手には大きな鎌。

『し、死神よあれ?!』

「やっぱりそう思う!? 俺たち成仏させられる?!」

 一瞬でパニックに陥る二人を見て──その人から見ればヤマト一人しかいないのだけれど──彼は楽しそうに笑った。

「人間相手はやっぱり鎌持ってると楽だなー。コレ見ただけでわかってくれるし。使いづらいんだけどね大きすぎて」

 自分たちと同じ歳ぐらいのその男の人は、目つきはキツイのに人懐こく笑うその様子から、人が良さそうには見えるのだけれど、ヤマトの中にいる猫たちが警戒を解かない。

「大丈夫。間違って『上に送らない』ように、君たちはその制服着てるんだから」

「でもさっき思いっきり俺のいる場所に鎌刺したよね?!」

「……事故ならしょうがない」

「事故!」

 そんなので死にたくない。いや、死んでるのだけれど。

「ごめんごめん。だって稀に見るイレギュラーだったから、興奮しちゃって。魂が一カ所に集まるなんて事件だよ。超危険。早く体から出した方がいいよ。嫌なら俺がさくっとやってあげる」

 男は鎌をヤマトに向けて、これもまた楽しそうに、でも獲物を見るような目で、笑った。

 ヤマトも、ヤマトの中から見ていたナルも、身の危険を感じて慌てて分離しようとするけれど、なぜかうまくいかない。

 ナルと会うまでは、同じように捕まえていた猫をキャリーバックに入れる為に普通に体から出していたし、さっきまでぽろぽろ猫がこぼれて出て行っていたのに、意識しすぎているからか、慌てているからか、どうすればいいか解らなくなってしまった。

 その様子を見ている男の人が黙ってにこにこしたままなのがすごく怖い。

「おいナル、早く出ろよ!」

『どうすればいいか解らないのよ! ヤマトが早く出してよ!』

 二人の気持ちが伝染したのか、猫たちも暴れ出して、いよいよ収拾がつかなくなってしまった。

「てつだおうかー?」

 軽く鎌を振って呼びかけられる。

 焦らせないで欲しい。今、頑張ってるんだから。

 っていうかこのままでは殺られてしまう!

 2人プラス5匹の思いがシンクロして、ヤマトはその場から逃げ出した。

 もう誰が足を動かしているのかわからないけれど、できるだけあの人から遠くへ。

 屋根を跳んで電線を越えて塀を走って壁を抜けて、遠くに、もっと。

『ねえヤマト』

「何? 出て行けそうか?!」

『ううん。違うこと』

 逃げるのをやめてちらりと後ろを確認したところで、ナルは話しかける。

 逃げている間考えていたことを。

『ヤマトの体が使えるうちに、合法的にコイといちゃつこうかと思って』

「何考えてんだおまえはあああ!」

 足が明らかに違う意図で動き始めた。

 けれど、ヤマトがその歩みを止めようとしている所為で、体が後ろから引っ張られて前に進めないような、泥に足を取られて動きづらくなっているように鈍い動きだ。

「逃げてもさ」

「!」

『?!』

 そんな変な動きをしている中、今度は頭の上から、彼の声がした。

 顔を上げると、先ほどのシチュエーションとは逆に、ヤマトは道路の真ん中で、鎌を担いだ彼は屋根の上からこちらを見ていた。

「その魂の塊ひっさげてたら、どこにいてもわかるって」

「ぎゃー!」

『きゃー!』

 脱兎のごとく2人は逃げ出した!

 これはもう条件反射だ。

 逃げては追いつかれ、逃げては見つけられ、そんなことをしているうちに。

「やばい。そろそろ朝だ。帰らないと」

『え、もう?!』

 ヤマトがどこかに置いてきてしまったキャリーバックを探しに行く余裕ももう無く、いそいで学校に帰らないと夜明けまで間に合いそうにない時間になってしまった。

「とりあえず学校に向かうぞ」

『ラジャー!』

 2人の息が合ってさえいれば、猫の力も借りて、すごいスピードでヤマトの体を進めることができた。地面や壁や塀を蹴って、飛んで一直線に目的地へ。

 だから、彼に追いつかれる前に、夜明けより前に、みんながぞろぞろと学校に帰ってきている頃に、普通に学校に到着した。

「あっ、ヤマト君」

 普通に空を浮遊して帰ってきたヤマトの姿を見つけて、下からコイが手を振った。

 キャリーバックを2つ持っている。1つはナルの分。

「ナルちゃん見なかった? はぐれてから逢えなくて」

 ヤマトの目が。

 正確にはヤマトの体を乗っ取ったナルの目がカッと見開いた。

 ヤマトがやっべえ! と思っている間に、ヤマトの体はコイに向かってつっこんで行く。

「コイ! ちゅーさせてえ!」

「っきゃあああああ!」

 ばっちーん!!

 コイの見事な平手打ちがヒットして、ヤマトの体は回転して吹っ飛んだ。

 勢いついて回転した体から、遠心力に沿うように5匹の猫が飛び出ていった後、最後にナルの体が飛び出てきた。

「あれ? 出ちゃった……?」

 地面にめり込んでいるヤマトの姿を見て、ナルは自分がヤマトの体から脱出できたことを知った。

 これであの死神から追われなくて済むと安堵したのと同時に、落胆もした。もう少しヤマトで遊びたかった。

「ナルちゃあん」

 泣きついてきたコイは、ヤマトからナルが出てきたことに気づいていないようだったから、黙っていることにした。

 コイの肩に手を添えても、なぜか先ほどまでの変態的に強い欲望はナルの中に産まれなかったから。

 これはあれだ。男の中に居たから、男の感情が、もしくはヤマトの感情が自分をおかしくしていたに違いないと、ナルは勝手に解釈してから、コイの頭を撫でてやる。

 ヤマトの体に入る前に告白しに行こうとしていたことは都合良く忘れた。

「よしよし。怖かったねー。ヤマトは変態だねー」

「ナルおまえ……」

「ちょっと、コイに近づかないで」

 冷たい視線を投げかけてから、ナルとコイは校舎の中へ入っていった。

 ヤマトは一人、怒りたいのか泣きたいのか呆れたいのか自分でわからなくなってしまったまま、二人の入っていった昇降口の方を呆然と眺めていた。

 このあとナルとヤマトは、危ないことをした罰として、みんな平等にもらえるはずだったポイントをもらうことが出来ないということはまだ知らない。





「ジン、お世話様でした」

 生徒が皆無事に帰ってきたのを確認して解散してから暫くした後、ヤマトとナルと鬼ごっこをした彼が、ケイトの元を訪れた。

 あの大仰な鎌の代わりに、キャリーバックを一つ持って教室に入ってくる。

 ヤマトが置いてきた物を律儀に回収してきてくれたのだ。

「おまえのとこの生徒、自由すぎねえ? 魂の融合、危ないからやめろって言っとけよ」

「そんな器用なことできる子がいたんですね。驚きです」

「いや、出来るとか出来ないとかじゃなくて」

「そうですね。僕のミスですね。すみません」

 キャリーバックをケイトに渡した後、ジンは近くの机に腰掛けた。

 ケイトは特に怒りはしなかったけど、少しだけ不快そうに目を細めた。

「いつまでこんなことやってるんだ?」

「いつまでもやりますよ。人手不足ですしね」

「ふん。お節介だよな、おまえは」

 ケイトは大量にあったキャリーバックをキレイに片づけて、忘れ物がないか入念にチェックする。

 ぐるりと一週教室を見回ったのを見定めて、ジンは言った。

「話があるんだけど、いいか?」

「いいですよ。でも移動しましょう。もうすぐ朝ですよ」

「じゃあ、いつもの場所で」

 ジンは言うや否や、姿を消した。ふわりと、まるで成仏したかのように。

 そして日が昇る少し前に、3年7組の教室は静かになる。

 教室の戸を優しく閉めて、ケイトは廊下を静かに歩く。

 今日の夜、また無事にみなさんに会えますようにと、淡く願いながら。


はじめまして。小説の投稿は初めてです。なおやと申します。

いきおいで書いた第1話です。

……だいじょうぶだろうか。


 この話の舞台となっている『明央高校』は、同サイトで投稿している「あおいの」さんの小説の舞台と同じものですが、作品自体につながりはありません。

 明央高校の舞台を使わせていただくことは、あおいのさんに了承済みです。

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