こじれた冒険者組合
人間は人生の冒険者だ。
人生というものは、ときにこじれやねじれを含む。
「いらっしゃいませ」
その冒険者は、糊で貼り付けられたような疲弊を顔に浮かべて入ってきた。
私の受付カウンターにやってきて、大袈裟に肘を置いて口を開いた。
「ネージャってやつを消してくれ」
聞き返したら、もう一度大きい声で言ってやろうか、と逆に私を脅してきた。
遠慮します、そう言って私は椅子から立ち上がる。
もう一度軽く礼をして、どのような理由で、と丁寧に聞いた。
「ネージャってやつがよ、俺の仲間を騙しやがった」
騙り系の加害者情報だ。
すぐさまノートに書き記して、新しい質問をした。
「なるほど。ネージャさんはどういった方ですか?」
ノートをパラパラとめくってみたが、ネージャの情報は入っていない。
素性も明らかでなければ、犯罪歴も騒擾歴も見当たらない。
男は、大きくため息を吐いて口を小さく開けた。
「小せぇ女だ。こんくらいの、ゴミみてぇな顔した女だ」
そう言って、男は自らの半分くらいの高さに手のひらを浮かべた。
小さい女、ゴミみたいな顔。
ノートに書いたのはいいものの、この特徴は伝わりようがない。
諦めた顔で鉛筆を机に押し付けていると、男は困り顔で口を開いた。
「何が不服だってんだよ」
ゴミみたいな顔では特徴として不十分です、とはっきり伝えると、男はやれやれと口に出してカウンターに置いていた肘を外した。
こちらに人差し指を差し向けて、銃を握るような仕草をしてしゃがれ声で囁いた。
「小さい女。丸顔。鼻が低い。唇が薄い。目が細い。ネージャって女だ。俺の同僚だ。いや、同僚だった。俺の仲間たちを騙して死なせやがった。意図的に事故に遭わせやがった。そうだ、そう、殺してくれ」
男は早口で捲し立てて、満足したように肺に残った息を吐き出した。
「あなたの同僚を殺したと。それでは話が変わってきますね」
そうだろ、とギルドに響き渡る大声で吐き捨てて、男はもう一度右肘をカウンターに乗せた。
ノートに書いてあるゴミみたいな顔という文字列の上に二重線を引いて、顔の特徴とその罪を書き並べる。
「聞き忘れていましたが、あなたのお名前は?」
俺はリューベックだ、リューベック、とご丁寧に二回も教えてくれた。
ハンザという組織の首長だということだ。
その組織では、確かに五人が十日間という短期間で亡くなっている。
「早くあいつを殺してくれ」
初めて涙目を見せたリューベックは、右手を腰にやって俯いた。
ギルドで人情は出してはいけない。
しかし、人生というのはときに人情を要求する。
「できる限り、早く」
リューベックは涙を流しながら呟いた。
人生というのは、ときに真理だけでは成り立たない時がある。
私はリューベックに同情した。
「サー、できる限りのことを尽くして彼女を消去しましょう」




