親友だと思っていた相手は、私の幸せを妬む人だった。
「何で?なんでよ。私の方が可愛いのに、何でマリーディアに婚約者が出来て、私には出来ないの?」
マリーディア・アクト伯爵令嬢は17歳。王立学園に通っているが、親友にロディーナ・ユルテ伯爵令嬢という女性がいる。
二人は幼いころからの知り合いで、領地も隣同士、母同士が仲良くて顔を合わせる機会も多かった。
マリーディアが黒髪碧眼なのに比べて、派手な金髪に青い瞳のロディーナは可愛らしく、
王立学園でも一緒にいると、男子生徒は皆、ロディーナに先に声をかけてくるのが常だった。
ロディーナが可愛らしく対応すれば、男子生徒達は喜び、
「ロディーナ。君はいつも可愛らしいね」
「君みたいな女性と婚約出来たらいいのに」
「今日も麗しいロディーナ」
皆、ロディーナばかり褒めていて、誰も地味なマリーディアを褒めてくれない。
マリーディアは諦めていた。
自分は美人でもないし、大人しい性格だ。
だから、ロディーナがモテるのは仕方が無いと。
そんな中、父が婚約話を持って来たのだ。
現在、20歳のフェレントス・キャリド公爵令息。
今まで隣国に留学していて、婚約者を探す気にはなれなかったが、一人娘のマリーディアの家に婿入りしたいと言ってきたのだ。
金髪碧眼の凄い美男のフェレントスを見た途端、
マリーディアは恋に落ちた。
キャリド公爵家の三男であるフェレントス。
両親と出かけた、王都のキャリド公爵家は大きくて、キャリド公爵からフェレントスを紹介されて、一目惚れをしてしまった。
いい香りがする。
指先から身なりから、さらっとした髪から、全て洗練されていて。
フェレントスは柔らかく微笑んで、
「君が私の婚約者になるマリーディアだね?よろしく頼むよ」
そう言って、手の甲に口づけをしてくれた。
マリーディアはもう胸がドキドキしてクラクラして。
「よろしくお願いします。フェレントス様っーー」
その後、2人きりで公爵家の庭に咲く薔薇を見せて貰ったけれども、舞い上がってしまって、フェレントスが何を話しているのか頭に入って来ない。
フェレントスは、
「とういう訳で、なかなか婚約者を決める気がしなくて。両親にいい加減に、婿入り先を決めてくれないかと言われてね。こんな私だけれどもよろしく頼むよ」
マリーディアはコクコクと頷いて、
「よろしくお願い致します」
幸せだった。
庭の綺麗な色とりどりの薔薇の花を20本束ねてくれて、お土産にもらった。
本当にこんなに幸せでいいのかとマリーディアは思ったのだ。
学園で友達達に自慢した。
「フェレントス様はとてもいい香りがして、美男で、私、そんな方と婚約出来て本当に幸せで」
他の令嬢達が、
「まぁそれはそれは」
「よかったわね。キャリド公爵家って言えば、名門ですもの」
「羨ましいわ」
そこへ、親友のロディーナが血相を変えて、詰め寄ってきたのだ。
「何で?なんでよ。私の方が可愛いのに、何でマリーディアに婚約者が出来て、私には出来ないの?」
ロディーナの家、ユルテ伯爵家は事業が芳しくない。
ロディーナがいかにモテようとも、落ち目の伯爵家と縁を結びたがる貴族はいない。
それに比べてマリーディアのアクト伯爵家は事業が順調だ。
だからキャリド公爵家の三男フェレントスの婿入り先に選ばれたのであろう。
ロディーナに詰め寄られて、マリーディアは困ってしまった。
「お父様が探して来た縁だから、なんとも言えないわ。貴方も良い婚約者が見つかるといいわね」
そう言うしかなかった。
ロディーナは相変わらず男性達からモテる。
ただ、誰もロディーナと婚約を結びたがらないのだ。
このプルド王国では、貴族の間での家と家の利益が大きく縁結びに作用する。
だからいくらロディーナが美しく可愛くても、家が傾きかけているユルテ伯爵家と結んでも旨味は全くない。
ロディーナはイラついたように、マリーディアに当たるようになった。
「貴方はいいわね。素敵な婚約者に恵まれて。私なんてまだいないわ。誰も私と婚約をしてくれないわ」
「そうね。貴方も良い婚約者が見つかるといいわね」
「貴方、そればかり。本当にそう思っているの?そうだわ。貴方の婚約者に会わせてよ。貴方の婚約者、凄い美男なんでしょ?見てみたいわ」
「えええっ?貴方に会わせなくてはいけないの?」
「貴方と私は親友よね。今度、貴方が婚約者に会う時に私もついていくから。いいわね」
強引に約束させられてしまった。
カフェの個室で貸し切りでデートをすることになっていたのだが、ロディーナが共に来てしまって。
カフェの入り口で確認すれば、フェレントスが先に来て個室で待っているとの事。
マリーディアはロディーナと共に、中に入る。
フェレントスは驚いた顔をして、
「こちらの女性は?」
マリーディアが、
「私の友人のロディーナです」
ロディーナはフェレントスを見て、頬を染めて、
「ロディーナです。噂通りですわね。なんてお美しい」
そう言うと、椅子をフェレントスの隣に持ってきて、そこに座って。
「ああ、なんて綺麗な顔。ねぇ、私だって美しいでしょう?どう思います?」
フェレントスの手をそっと握り締める。
マリーディアはイライラした。
私の婚約者よ。フェレントス様は。それなのに……ああ、強引について来て。連れてくるのではなかったわ。
まだ二回目の交流なのよ。
それなのに……私より、ロディーナの方が綺麗だから。私よりずっと……
フェレントスは椅子をロディーナの正面に向けた。
そして、
「君は私に契約違反における婚約破棄をさせようと目論んでいるのか?王国法25条に於いて、貴族における婚約中の男女は異性と過剰なスキンシップや性交に至る行為を禁止されている。もし、違反した場合、プルド王国の裁判所で、厳重に裁かれる事になる。私は婿入りと同時に、王国の裁判所で法律に関わる仕事をしようと思っている。幸い、アクト伯爵にこの事は理解された。その私に契約違反を犯させようとはどういうつもりか?」
マリーディアは驚いた。
頭がぽうっとして聞き逃していたわ。
お父様もフェレントス様も説明を私にしていたはずなのに。
ロディーナは更に両手でフェレントスの手を握りながら、
「でしたら穏便に婚約解消をして、私と婚約すればよろしいではないですか?私の方が美人で可愛いんですから。ね?フェレントス様」
そして、マリーディアを見て、
「見ての通り、マリーディアはぼうっとしていて、顔も美人じゃないですし、貴方と結婚するにふさわしくありませんわ」
フェレントスはロディーナの手を振り払い、ハンカチで自らの手を拭いて、
「君の家に婿入りしても何か旨味があるのか?私は法律の仕事をしたいと言ったはずだ。伯爵家の建て直しの仕事等したくはない。何よりも父上が反対するだろう」
マリーディアに向かって手を差し出して、
「場所を変えて交流しようか。この女性の顔を二度と見たくはない」
「解りましたわ。フェレントス様」
二人で店を出た。ロディーナが何か喚いていたようだったが気にしない事にした。
道を歩きながら、
「ああいう女性と親しくすることはお勧めできないな。君にとってマイナスにしかならない」
「領地が隣同士で、母同士が仲良くて、自然と友達付き合いをするようになったのですわ」
フェレントスはフっと表情を緩めて、
「いや、言い過ぎだな。君の交流関係は君が決める事だ。私は堅くて、曲がった事が大嫌いで。結婚は諦めていた。法律に関する仕事につきたくて、君の父上は私の話を王宮で会った時に聞いてくれて、うちに婿に来てくれと誘ってくれたんだ。まぁキャリド公爵家と繋がりたいのだろうけれども、私の父上も賛成してくれたからこうして、君の婚約者になった。こんな性格が堅い私で良かったのか……」
「あの、フェレントス様はお美しいですわ。誰でも貴方の顔を見ただけで、見惚れていますわ」
「容姿はいずれ衰える。私は実のある男になりたい。でも、美しさが現在、武器になると思っている。だから磨いてはいるがね」
マリーディアはフェレントスに向かって、
「私こそ、おっとりしていて、綺麗でないし、どうしようもなくて。そんな私でよろしいのですか?いかに家同士の政略での婚約であっても」
フェレントスは、
「例え、政略であっても、私は君と良い関係を築いていきたい。どうかこれから先、よろしく頼むよ」
嬉しかった。
マリーディアにとって、フェレントスは理想の男性に思えた。
これから先の未来がキラキラ輝いている。
そう信じて疑わなかった。
頻繁にフェレントスは、アクト伯爵家に訪れて、父アクト伯爵の傍で、伯爵家の事業の事を教わった。
マリーディアがフェレントスに、
「法律の仕事につきたいのでしょう?」
フェレントスは、
「それでも、事業の事をまるで知らないのでは話にならなくてね。婿入りするからには、事業の上に立つのは私がやらないと」
アクト伯爵領では良質な宝石の原石が採れるのだ。
それを加工して販売している事業が王家に認められて好調なのだ。
マリーディアも事業の事を勉強している。
勿論、自分もしっかりしないと、このアクト伯爵家の為に。
そんなとある日、ロディーナが、
「今日から貴方の家にお世話になるわ。貴方のお母様には話が通っているから」
「え?どういう事よ」
「私の王都の家が改修工事をすることになったの。その間、貴方の家に居候させて貰うわ。よろしくね」
そう言ってニヤリと笑ったロディーナ。
王都の屋敷に馬車で帰ろうとしたらロディーナも隣に乗って来て。
「フェレントス様、来ているんでしょう。お会いするのが楽しみだわ」
家に戻って母に抗議した。
母はおっとりと、「だって、ユルテ伯爵夫人に頼まれたんですもの。ロディーナを預かってって。仕方ないじゃない。伯爵夫人が困っているのを見ていられないわ」
ロディーナはにこやかに、
「よろしくお願いしますね。アクト伯爵夫人」
フェレントスは最近、王都の屋敷に泊まり込んで、父に仕事を教わっている。
ロディーナを見て驚いた顔をして、
「この女性は?二度と顔を見たくないと言ったはずだが」
アクト伯爵夫人が、
「親友の娘さんなの。だから、お預かりすることになったのよ。どうかフェレントス様、大目に見てあげて頂戴」
マリーディアは不安だった。
これから一緒に暮らすことになるロディーナ。
案の定、
その夜、ロディーナが素っ裸でフェレントスの部屋から飛び出して来たのだ。
「フェレントス様が私を襲おうとしたのですわ」
フェレントスは慌てて廊下に飛び出して来て、
「この女が部屋に入って来てドレスを脱いで裸にっ、追い払ったら悲鳴をあげて廊下に出て行ったんだ」
婚約している身でありながら、不貞を犯せば契約違反で婚約破棄されるこのプルド王国。
ロディーナはメイド達にタオルをかけられ、泣きながら、
「私は被害者です。襲われただけの……」
アクト伯爵夫人はロディーナを慰めて、
「ああ、私が貴方を預かったばかりに。怖かったでしょう」
フェレントスが叫んだ。
「教会にこの女が私と行為に及んだのか審判を申し出たい」
アクト伯爵夫人が反対した。
「フェレントス様。これ以上、ロディーナを傷つけないで。教会で調べるですって?これ以上、ロディーナを傷つけるなんて。貴方が襲おうとした段階で不貞が成立しますわ。可哀そうなロディーナ」
アクト伯爵が、
「だから私は反対したんだ。ユルテ伯爵令嬢を預かるのは。いかに学生のうちの娘にまだ手をつけられないとはいえ、よその娘を襲うとは。その娘だって学生だろうっ!」
マリーディアが両親に向かって、
「お父様、お母様。私はフェレントス様を信じたいですわ。フェレントス様は我が伯爵家に婿入りする為に、事業を学んで真剣に取り組んで下さいました。それにフェレントス様は曲がった事が大嫌いな性格だってお父様だってご存じでしょう。私はロディーナの狂言だったと思っております」
ロディーナが泣きながら、
「酷いわ。貴方と私は親友のはずよ」
マリーディアはロディーナに、
「親友だったら私とフェレントス様の婚約を祝福してくれるはずだわ。今すぐ、教会で本当に襲われたのか。調べて貰いましょう。親友だったら、そうしてくれるわよね」
ロディーナはアクト伯爵夫人にしがみついて、
「教会は嫌。これ以上、私に恥ずかしい思いをさせる気?」
フェレントスは、
「この女の狂言だって信じて貰えないのか?いきなりドレスを脱いで裸になって飛び出していったんだぞ。この女」
結局、フェレントスの言い分は信じて貰えず、婚約破棄をアクト伯爵家からすることになった。
マリーディアはフェレントスとの婚約が駄目になった事を悲しく思った。
思えば、マリーディアは母にあまり可愛がられた記憶がない。
母は自分より、仲の良かったユルテ伯爵夫人と、その娘ロディーナに愛情を注いていたような気がする。
母はマリーディアと同じ黒髪碧眼であまり美しくない。
父はそんな母をあまり愛していない。他に愛人を作って遊び歩いているような父だ。
だから、母はマリーディアより、美しいユルテ伯爵夫人との友情を大切にし、遊びにくるロディーナばかり可愛がった。
何で?どうしてロディーナばかり可愛がるの?
私が可愛くないから?美しくないから?
母はロディーナを撫でながら、
「私が美しかったら、伯爵様に愛されてもっと沢山、子を産むことが出来たのにね」
と口癖のようにいつもいつもいつも。
だからマリーディアも美しい物にこだわるようになった。
フェレントスの顔を見た途端、恋に落ちたのも母の影響だ。
そんな母はロディーナの肩を持って、マリーディアの幸せなんて考えてくれなくて。
フェレントスを疑って婚約破棄をしてしまった。
マリーディアはフェレントスと結婚したかった。
彼の顔だけでなくて、正義感が強い所が好きだった。
一緒にいて、これからのアクト伯爵家の事を話し合うのが好きだった。
だから、私は……
アクト伯爵夫人である母がとある日、
「ロディーナをうちで養女に迎える事にしたわ。うちで、あのような危険な目にあったのですもの。ロディーナの家って今、事業が上手くいっていないでしょう。だから、うちで養女に迎えれば、ロディーナに良い縁が結べると思うのよ」
アクト伯爵が、呆れたように、
「まぁ、確かにユルテ伯爵は経営が下手だからな。ロディーナを迎え入れる事に反対はしない」
「よかったわ。家から良い家に嫁がせてやりましょう」
ロディーナは、アクト伯爵家の離れで暮らしている。
恐ろしい思いをした本館で暮らさせるのは可哀そうだからと。
学園では何事もなかったかのように、ロディーナがマリーディアに接してくる。
「今度、貴方と姉妹になることになったわね。嬉しいわ」
嬉しくない。貴方のせいで私はフェレントス様と別れる事になったのよ。
貴方のせいで、私は……
マリーディアは誓った。
なんとしてもロディーナが養女になるのを阻止してみせると。
そんな中、フェレントスに呼び出されて、街のカフェの個室で会う事にした。
フェレントスは、
「私は調査を続けていたんだ。このまま、罪を被るのは本意ではない。
ロディーナの行為は私に対する婚約破棄を目的とした名誉棄損だ。
メイドから証言を得ることが出来た。メイドのマリーという女性が私にこの鍵を渡してくれた。私の部屋の合鍵だ。鍵を内側からかけていたのに、あの女が鍵を開けてはいってきたんだ。そしていきなりドレスを脱いだ。その合鍵が事件の後、あの女の部屋を掃除していたら見つかったんだ」
「まぁ、マリーが。彼女が証言をしてくれるかしら」
「我が公爵家が庇護すると言ったら証言をしてくれると」
マリーは先日、突然、辞めたメイドだ。
この件があったから辞めたのか……
「ロディーナに正式な召喚状を送る。王宮で裁判を行い私の無実を証明して見せる」
フェレントスは立ち上がって、マリーディアの手を両手で握り締めて、
「私は君と結婚したかった。君と一緒にアクト伯爵家を盛り立てていきたかった」
「貴方が冤罪だったとはっきりすれば、父に頼んで再び婚約を結ぶ事が出来ますわ」
そう、絶対にロディーナなんかに負けない。
フェレントスが頼もしく思えた。
絶対にフェレントスと再び婚約を結んで見せる。
数日後、ロディーナに召喚状が届いたとのこと。
ロディーナは学園でマリーディアに、
「どういうことよ。私は襲われたのよ。フェレントス様に。それなのに今更?貴方、何か知っているのでしょう」
「フェレントス様は貴方に嵌められたのよ。私はフェレントス様の事を信じているわ」
ロディーナに睨まれた。
周りの男子生徒達は、
「召喚状?あの女、被害者じゃなかったのか?」
「疑われているらしいぞ。キャリド公爵令息を陥れたとしたならただではすまないな」
「ああいう女には関わりたくない」
あからさまに、男子生徒達は距離を取った。
女子生徒達もロディーナのしたたかさは知っているので、元々、遠巻きにしている。
マリーディアも、
「友達の不幸を願う貴方とは友達でも何でもないわ」
そう言って他の令嬢達と仲良くした。
フェレントスとの幸せを壊したのだ。
許せない。許せないわ。
数日後、王宮にロディーナが現れた。
ユルテ伯爵夫妻も、マリーディアも、アクト伯爵夫妻も、皆、出席する。
裁判長がロディーナを目の前に立たせて、
「虚偽の証言をすると罪が重くなります。貴方はフェレントス・キャリド公爵令息に襲われたと証言しましたね?間違いはありませんか?」
ロディーナは平然と、
「はい。間違いありません」
フェレントスが書類を手に立ち上がる。
「鍵が内側からかけてあったはずだ。私の部屋へどうやって入ったんだ?」
「嘘よ。鍵がかかっていなかったわ。貴方に呼ばれたから私は部屋に入ったの」
「鍵は開いていたというのか?」
フェレントスは懐から鍵を取り出して、机に一本の鍵を置く。
「これは私の部屋の合鍵だ。メイドが貴方の部屋で見つけたと言っている」
出席していたユルテ伯爵夫妻、アクト伯爵夫妻達が顔を見合わせる。
ロディーナは平然と、
「知らないわ。こんな鍵……」
「私の部屋は鍵がかかっていた。君は先ほど『鍵はかかっていなかった』と証言した。しかし実際、この鍵で開けたのだ」
さらにメイドを呼んだ。
「証人、マリー。君が何を見つけたのか話して欲しい」
マリーは震えながら、
「私はロディーナ様の部屋の掃除中に、この鍵を見つけました。何でこんな所に鍵があるのだろうと不審に思いました」
裁判長が、
「神に誓って間違いないと言い切れますか?」
マリーは頷いて、
「はい。言い切れます」
フェレントスが、
「ユルテ伯爵令嬢に婚約しろと言われた事がある。だから、今回の事はユルテ伯爵令嬢の狂言だ」
ロディーナは喚いた。
「マリーに嘘を言わせているんだわ」
「鍵を作ったという業者を突き留めてある。ここへ」
震えながら一人の中年の商人が現れて、
「このお嬢さんだ。鍵を渡されて合鍵をと言われた。覚えている。特徴的な首元の黒子。このお嬢さんです。複雑な鍵でよく覚えていたんだ。この鍵の形状は貴族様の屋敷で使う部屋の鍵の形状だから大変だったなと」
ロディーナは商人に向かって、
「人違いよ」
「でも、その首元の黒子と、そうだ。財布。財布が赤かった。赤の皮の財布だ。それも高級な」
ユルテ伯爵夫人が真っ蒼になった。
「赤の皮の財布っ……あれは学園用に私が買って娘にっ」
ロディーナが、
「お母様。余計な事をっ」
フェレントスが、
「以上です。この女の証拠は出そろっております。私への名誉棄損でユルテ伯爵家を訴えます」
ユルテ伯爵夫妻は崩れ落ちた。
ロディーナもその場に膝をついて、涙を流して。
「悔しかったんですものっ。マリーディアが幸せになるのが悔しくて」
マリーディアは、
「貴方がやった事はキャリド公爵家を敵に回したという事だわ。覚悟をすることね」
フェレントスがこちらを見て、微笑んでいる。
頼もしいと、フェレントスに対して愛が増した。
フェレントスの無罪がこうして確定した。
そんなロディーナを庇ったアクト伯爵夫人をアクト伯爵は非難した。
「とんだ女狐を養女にするところだった。ロディーナなんて迎え入れたら大恥だ。私はこれからキャリド公爵家に謝罪に行く。二度と、ユルテ伯爵夫人とその娘と交流するな」
社交界からは、アクト伯爵夫人はロディーナの事で判断力がないと非難されて、出席しづらくなった。
他の夫人達からも嘲笑されて。
「私は悪くない。私は悪くないのよーー。夫が浮気をするのが悪いのっ」
取り乱した為に、屋敷に閉じ込められることになった。
アクト伯爵は、キャリド公爵家に謝罪をしたが、アクト伯爵家の評判は地に落ちていて、キャリド公爵は、
「今更、再婚約?ハハハ。お前の所の評判は落ちていて、再婚約する旨味はない」
とすげなく追い返そうとした。だが、フェレントスが、
「父上。私はマリーディアと再び婚約をしたいと思っております。まだまだアクト伯爵家の事業は我が公爵家に取って魅力的ではないでしょうか」
「お前がどうしてもと望むなら。婚約を再び結ぶ価値を私に示せるか?」
「示します。父上。必ず私の力で」
「それなら許そう」
こうして、フェレントスとマリーディアは再び婚約を結ぶ事になった。
アクト伯爵は病んでしまった妻に対して、思う所があったのか、愛人関連を綺麗さっぱり清算し、屋敷の中でぼんやり過ごしている妻を気遣う生活を始めた。
マリーディアは母の元を訪れて、
「お母様。具合は如何ですか?」
アクト伯爵夫人は微笑んで、
「貴方には悪い事をしてしまったわ。ロディーナを可愛がって貴方に対して母として、冷たく当たってしまって。ごめんなさいね。母親失格だわ」
母が一気に老け込んだ気がして。マリーディアは母の手を取って、
「私は再びフェレントス様と婚約を結ぶ事が出来ました。どうか、お母様は安心して静養に励んで下さいね」
「有難う。マリーディア」
そう言って母は涙を流した。
ロディーナは学園を退学することになった。ユルテ伯爵家が今回の事で評判を落として事業が更に悪化した。キャリド公爵家に高額な慰謝料を払った事も原因だ。
娘を学園に通わせる事が出来なくなった。
問題を起こし、公爵家を怒らせたロディーナは、遠方の親戚の元で下働きをしているらしい。
他の令嬢達からの情報でそれが解った。
噂では美しさは見る影もなく、苦労しているとの事。
ロディーナなんてもう、どうでもいい。もう二度と、彼女とは会いたくない。
マリーディアはそう思った。
フェレントスと今日もカフェで交流する。
フェレントスはとても美しいけれども、内面もとても素敵だという事が解った。
彼は努力家で、真面目で、ちょっとお堅いけれども。
今回、法廷で戦う姿はかっこよかった。
フェレントスはケーキを食べながら、
「法律家になるのは諦めたよ。今回の事件で、解決に時間がかかってしまった。これからは、君と一緒にアクト伯爵家を盛り立てる為に全力を使うよ」
そう言ってくれた。
「夢をあきらめていいの?」
「私は器用じゃないからね。でも、領地の為に、曲がった事を見かけたら徹底的にまっすぐにするために努力はするよ。私と君の幸せの為に」
そう言ってにこやかに笑うフェレントスは相変わらず美しかった。
色々あったけれども、これからの人生、この人となら乗り越えていける。
そう思ったら幸せで。
美味しいケーキを愛しい人と一緒に食べながら、幸せを味わうマリーディアであった。




