表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第七話 一人きりの夜

私は一人で、畳の中央に座っていた。


くじが当たりだと分かった瞬間が脳裏に蘇る。

みんなの顔は、はっきり思い出せる。

期待。

困惑。

安心。

諦め。

そして、私を見る視線。


もう、一人だ。

誰も見ていない。

誰も何も言わない。


それでも、身体が固まったまま動かなかった。


「……どうすればいいの」


声に出してみても、答えは返ってこない。


国を良くする。

遅れを取り戻す。

大国に負けない国を作る。


言葉だけなら、簡単だった。

でも私は、この国のことを、全部知っているわけじゃない。

知っているのは、畑の匂いと、町の音と、夜の暗さくらいだ。


自由が、欲しかった。

でも、自由って何なのかも、よく分からなかった。

逃げたいと思う。

けれど、逃げた先の自分が、想像できない。


その事実が、胸に重くのしかかる。


「……めんどくさい」


ぽつりと漏れた言葉は、本音だった。

考えることも、決めることも、背負うことも。

全部、めんどくさい。

でも――

投げ出すことも、同じくらい、めんどくさい。


「じゃあ、どうするの……?」


この国で。

この時代で。

十歳の女の子が。

統治者にならずに、何を選べる?


答えは、浮かばない。

現代日本なら――

学校があって、選択肢があって、

「まだ子供だから」で守られる場所があった。


ここには、それがない。


視界が、にじんだ。

気づいた時には、涙が落ちていた。

声は出なかった。

泣き方を、忘れていたみたいに。


畳に落ちる雫を見ながら、私は思う。

前の世界では、もっと簡単だった。

何かを決めなくても、流れていけた。

家族も、いた。

戻れないと分かっているから、思い出さないようにしていたのに。


「……帰りたい」


誰に向けた言葉でもない。

今の家でも、前の家でもない。

ただ、役目のない場所に。


しばらくして、涙は止まった。

代わりに、妙な落ち着きが残る。

私は袖で目を拭き、深く息を吸った。

泣いたからといって、何かが変わるわけじゃない。それは分かっている。


それでも――

泣いてから立ち上がる方が、少しだけ楽だった。


「結局、やるんだろうな」

小さく、独り言がこぼれた。

それが自分だと、分かっているから。


「……ほんと、最悪」

そう呟いて、布団に顔をうずめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ