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第二話 2年前の夜
灯りは一つだけだった。
行灯の火が、紙の内側で静かに揺れる。
私は畳の上に正座し、向かいに母が座る。少し後ろに父が控えていた。
「ミコ」
母は声を荒げず、柔らかくも逃げ道のない呼び方で呼ぶ。
「あなたは、巫女になる準備を始めます」
分かっていた。だから私は、ただ小さく頷いた。
「三女だから、ですか」
思ったより落ち着いた自分の声に、少しだけ驚いた。
母は首を横に振る。
「期待されているからよ」
向いているかどうか、やりたいかどうか、そういう選択肢は最初から存在しなかった。
「役目は、誰かが背負わなければならないものです」
母の視線は私ではなく、もっと遠く、国や神の方を見ていた。
父が小さく息を吐く。
何か言いたそうでも、何も言わなかった。
「……分かりました」
それが一番、早く終わる答えだと知っていた。
母は微笑む。褒めるでもなく、安心でもない、静かな笑顔だった。
「いい子ですね」
その瞬間、胸の奥が少し冷えた。
泣けばよかったのかもしれない。
でも、泣くことも甘えることも、もう私は知らなかった。




