6話 命の果て
「ジゲン殿。あとは――お頼みします」
恐れはなかった。
刀を強くにぎり、赫鬼を正面から見据える。
「私の願いは、果たされた」
一拍。
「……悔いはない。
この身を賭して――お前を討つ」
赫鬼は鼻で笑った。
「心ざしは見事。だが解せぬ。
他者のために死ぬなど……愚かだ!」
灼熱の炎を背に、私は低く言い放つ。
「鬼に、忠義の理など――分かるものか」
「……理、だと?」
赫鬼の眉が歪む。
「守る者もなく生きるなど、
死んでいるのと同じだ」
歯を食いしばる。
「……あの姫は、“虚ろ”だった私を友と呼んでくれた」
鋭く、鬼を睨んだ。
「今の私は――彼女を守るためにこそ、ここにいる!」
理は届かない。
赫鬼の口から溢れたのは、剥き出しの怒りだけだった。
「くだらん戯言を!
その脳天ごと、叩き潰してくれる!」
赫鬼は朴刀を掲げる。
天の雲をつかむように、刃へ陽が宿った。
――重い。
世界そのものが、のしかかってくる。
傾きかけた陽の光を切り裂くように唸り、
刃先が、白く灼ける。
私は、低く告げた。
「赫鬼……お前は、私の術を侮っている」
刀を、さらに強くにぎる。
「この術は、空気を熱に変えるものではない」
一歩踏み込み、叫ぶ。
「お前の刃に宿る、万物の力すら――
我が力とする術だ!」
「――陽世の術――」
限界を越えた光が、刃に集束する。
それは、自分の命が刃へ流れ込む感覚だった。
次の瞬間――
赫鬼の朴刀と、私の刃が激突した。
炎が、消えた。
代わりに、私の刀が眩しく燃え上がる。
「散れ――!!」
全身の力で、刀を振り抜く。
朴刀が弾け飛び、刃先が赫鬼の首へ食い込んだ。
光がはじけ、空気が裂け、大地が震える。
赫鬼の首から胸にかけ、真っ二つに裂けた。
黒々しい魂が――確かに、割れている。
――斬った。
だが、赫鬼は、なお立っていた。
その瞳の殺意は、揺らがない。
「……馬鹿な。
魂まで焼き裂いたはずだ!」
赤く濁った瞳が、私を射抜く。
「焼き切れておらぬ」
赫鬼は低く嗤う。
「われは炎の鬼。
魂の“熱”を越えねば、届かぬ」
自らの皮を引き裂き、
燃えさかる魂を、剥き出しにした。
割れたはずの魂の焔が再び混じり合う。
……それは、絶望そのもの。
「……これでも、効かぬか……!
化け物め……!」
力なく振り下ろした刀は、掴まれ――
そのまま、ねじ折られた。
次の瞬間、赫鬼の手が、
私の頭を押さえつける。
視界が闇に沈み、
体が宙に浮いた。
――まずい。
地面に、叩きつけられてしまう。
……あぁ。
最期に、ナタレ姫の声を、聞きたかった。
――リンッ。
その刹那、鈴の音が響き渡る。
聞き覚えがある。
懐かしく、温かい――
姫の、鈴の音だ。




