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宵星の巫女―鬼封神楽―  作者: いろはにぽてと
序章・鬼と宿命の物語
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5話 四万年を超えて

白銀の台に、ナタレ姫は横たわっていた。


薄絹に包まれ、

その身は、かすかに光を帯びている。


今にも目を覚まし、

微笑むのではないかと

――そう思えるほど、顔はきれいだった。


ジゲンが宝珠を高く掲げる。


「この奇跡は、一度きり……

 どうか、お願いいたします」


空気が震え、光が満ちていく。


――焼け落ちた衣が、失われた顔が、

元の姿へと戻っていく。


また、姫の微笑む顔が見たい。

ただ、それだけを祈り続けた。


そして――。


ナタレ姫の時が逆巻くように、

この世に、戻った。


「「……姫様……!」」


ジゲンが崩れ落ち、

声を殺して泣いた。


「ようやく……救えた……」


その光景を前に、

私は、泣けなかった。


胸は焼けるほど熱いのに、

涙だけが、出てこない。


ただ、姫の手を握り、誓う。


今度こそ。

この命に代えても、必ず守る、と。



やがて、陰世の結界が限界を迎え、

――私たちは現世へと、はじき出された。


その先に。


座して、笑う赫鬼(アカオニ)がいた。


大地は、溶岩のように赤く熱を帯びる。

山々は抉られ、形すら残っていない。


灼熱と煙が、渦を巻く。

息を吸うだけで、喉が焼けた。


ナタレ姫は、まだ眠ったままだ。


起こすことは、できない。

私はジゲン殿に姫を託し、一歩、前に出た。


残されたのは――

私の命と、意志だけ。


炎の大地が、唸る。


赫鬼(アカオニ)咆哮(ほうこう)と共に、地面が裂けた。

溶岩の波が、私へと押し寄せる。


その刹那、

赫鬼(アカオニ)の朴刀が、振り下ろされた。


反射的に身をそらし、

刃が、頬を掠める。


「……ッ!」


天から、燃え盛る炎が降り注ぐ。

土煙を蹴り上げ、

崩れる足場を踏み抜いて、跳んだ。


地面は次々と割れ、

灼熱の空気が、全身を焼く。


――もう、陰世へ逃げ込む力は、残っていない。


肩で荒い息をつき、

震える手を、無理やり握りしめる。


集中を保つだけで、精一杯だ。


それでも私は、

全身の感覚を研ぎすませた。


赫鬼(アカオニ)の理不尽な連撃をかいくぐり、

僅かに生まれる、隙を探す。


逃げ場は、ない。


この戦いは――

正面からの、一撃ですべてが決まる。


――死ぬ覚悟は、できている。

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