5話 四万年を超えて
白銀の台に、ナタレ姫は横たわっていた。
薄絹に包まれ、
その身は、かすかに光を帯びている。
今にも目を覚まし、
微笑むのではないかと
――そう思えるほど、顔はきれいだった。
ジゲンが宝珠を高く掲げる。
「この奇跡は、一度きり……
どうか、お願いいたします」
空気が震え、光が満ちていく。
――焼け落ちた衣が、失われた顔が、
元の姿へと戻っていく。
また、姫の微笑む顔が見たい。
ただ、それだけを祈り続けた。
そして――。
ナタレ姫の時が逆巻くように、
この世に、戻った。
「「……姫様……!」」
ジゲンが崩れ落ち、
声を殺して泣いた。
「ようやく……救えた……」
その光景を前に、
私は、泣けなかった。
胸は焼けるほど熱いのに、
涙だけが、出てこない。
ただ、姫の手を握り、誓う。
今度こそ。
この命に代えても、必ず守る、と。
*
やがて、陰世の結界が限界を迎え、
――私たちは現世へと、はじき出された。
その先に。
座して、笑う赫鬼がいた。
大地は、溶岩のように赤く熱を帯びる。
山々は抉られ、形すら残っていない。
灼熱と煙が、渦を巻く。
息を吸うだけで、喉が焼けた。
ナタレ姫は、まだ眠ったままだ。
起こすことは、できない。
私はジゲン殿に姫を託し、一歩、前に出た。
残されたのは――
私の命と、意志だけ。
炎の大地が、唸る。
赫鬼の咆哮と共に、地面が裂けた。
溶岩の波が、私へと押し寄せる。
その刹那、
赫鬼の朴刀が、振り下ろされた。
反射的に身をそらし、
刃が、頬を掠める。
「……ッ!」
天から、燃え盛る炎が降り注ぐ。
土煙を蹴り上げ、
崩れる足場を踏み抜いて、跳んだ。
地面は次々と割れ、
灼熱の空気が、全身を焼く。
――もう、陰世へ逃げ込む力は、残っていない。
肩で荒い息をつき、
震える手を、無理やり握りしめる。
集中を保つだけで、精一杯だ。
それでも私は、
全身の感覚を研ぎすませた。
赫鬼の理不尽な連撃をかいくぐり、
僅かに生まれる、隙を探す。
逃げ場は、ない。
この戦いは――
正面からの、一撃ですべてが決まる。
――死ぬ覚悟は、できている。




