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宵星の巫女―鬼封神楽―  作者: いろはにぽてと
1章・見えざる刃、牙の残影
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28話 十ノ型

姫衣装を羽織った偽りの姫――

私は、御剣ショウメイの前に立っていた。


だが胸に灯る熱は、恋ではない。

剣を前にした者同士が、互いを量る時に生じる緊張だ。


私は従者クオン。

今は、ナタレ姫の身代わりとして、この場にいる。


ショウメイが敵か味方か。

その答えは、剣の中にしかない。


「ショウメイ様」


名を呼び、私は一礼する。


「これから申し上げることは、駆け引きではありません。

 条件も、目的も、すべて明かします」


「……なんや?」


ショウメイの目が、わずかに細まった。


「私はあなたの“型”を知りたい。

 そして――あなたは、私の“型”を知る」


「ほぉ」


「互いに、手加減なしで戦う。

 勝敗が出た時、私はあなたを判断します」


沈黙ののち、ショウメイが問う。


「わてが術を晒す。

 対価は釣り合うんか?」


「はい。

 命を削る剣も含め、すべて差し出します」


ショウメイは、笑った。


「……正直やな、姫さん。

 ええで。正々堂々、丸裸でやろうや」


「それで、わてが勝ったら――どうなる?」


「その時は、

 あなたが剣で示した答えに、私は従います」


ショウメイは、短く息を吐いた。


「……ええ度胸や」


こうして、剣の交換が始まった。


ショウメイは、自ら編み出した二十の型を示す。

意味も、欠点も、隠さずに。


私はそれを、ただ受け取った。


やがて、私の番。


捨て身の剣。

命を削る術。

その危うさも含め、すべてを示す。


ショウメイは、途中で止めなかった。


「……なるほどな」


低く、納得した声。


「姫さんの剣は、生き延びるためやない。

 身を斬って、誰かを守る剣や」


「はい」


ここまでは、対等だった。


「ショウメイ殿。

 あなたの言う“軽さ”とは、何ですか」


ショウメイは剣を構える。


「剣と剣が当たる前に生まれる、わずかな隙。

 そこへ――先に入るために必要な姿勢や」


私は、まだ分からなかった。


「……完全には、理解できません」


「それでええ。

 分からんまま振るった方が、剣は正直や」


決闘は、正面から始まった。


互いに、相手の型は真似しない。

自分の剣で、真正面から挑む。


刃が交わる。


その中で、私は気づく。


軽さとは、間合いではない。


刃も、足も、思考も――

自ら重くしているから、遅れるのだ。


息を吐いた。


刃の重さが消え、

身体の輪郭が、薄れる。


その瞬間――

ショウメイの剣が、初めて遅れた。


私の太刀が、無意識に彼の型をなぞる。


一の刃で、二の刃を弾く。

重ねる。

繰り返す。


気づけば、

私はショウメイを止める“型”を生んでいた。


彼が示した二十の型は、削ぎ落とされ、

私の中で――十の型として収まっていく。


次の瞬間。


刀が触れ合う前に、

ショウメイの膝が落ちた。


「……負けや」


振り上げた刃は、もう振るう理由を失っていた。

悔しさは残る。

――それでも、私は勝っていた。


「見事や」


「あなたの剣が、私を導きました」


剣士同士、自然に手が交わる。


夜。鍛冶の館。


鍋を囲み、笑いが生まれる。

だが、緊張は消えきらない。


その夜の温泉。


私は、今日の出来事をありのまま、ジゲンと姫に話した。

彼に、嘘の匂いは感じない、と。


その時――

竹柵が倒れる音。


ショウメイが現れ、深く一礼する。


何も言わず、柵を越え、去っていった。


「……聞かれていましたね」


「ええ。

 ですが、隠すことはありません」


ナタレ姫だけが、顔を赤らめて湯に沈む。


彼の剣は、嘘をつかなかった。


因縁は、まだ終わらない。


私達はまだ知らなかったのだ。

本当の見えざる刃が、刻一刻と迫っていることを。


宵の空に、凶星が静かに瞬いた。

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