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宵星の巫女―鬼封神楽―  作者: いろはにぽてと
1章・見えざる刃、牙の残影
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27話 はなむけの告白

「……ここは」


ショウメイがサクラの木陰にゴザを敷き、腰を下ろす。


「そない見渡して、どないしたん」


「もっと妙な場所へ連れて行かれると思っていました」


「なんやそれ。

 ここは、ええとこやろ……」


私はナタレ姫を偽る従者として、姫衣の裾を整え、隣に座る。


「桜が多いですね」


「フシミ来るたび、ここに登った」


「お一人で?」


「いや。サモンとや」


その名に、胸が鳴った。


「その度、果し合いや。

 負けっぱなしやったけどな」


ショウメイは笑い、掌の花びらを指で転がす。


「……サモン様のことを、お聞きになりたいのですね」


「宇治での最後や。どうやった?」


「……自ら、死を選ばれました」


「そうか」


「笑っておられました。

『行く末に幸あらんことを』と」


一瞬、ショウメイは黙り込む。


「……あいつらしいわ」


風が吹き、サクラが舞う。


「鬼に取り込まれても、宝珠も無しで意識があったんか」


「はい」


「ほんま……あっぱれや」


それ以上は言わない。

だが、指先が僅かに震えた。


「……なぜ、宇治で、

 私と共に蠢鬼(しゅんき)と戦わなかったのですか」


少しの間。


「人の頃から、勝てん相手やった。

 丸腰のあいつに、刀持ってもな」


「あなたほどの達人が……?」


「あいつに勝てる人間は、おらん」


拳が握られる。


「……今のわてなら、

 違ったかもしれん」


言葉が切れ、

次の瞬間、拳が地を打った。


花びらが跳ね、土が沈む。


「届いたかもしれんのに……!」


「もう、この世におらん……

 二度と、会えん……」


石が砕け、粉塵が零れる。


「サモンだけやない。

 姉も、家族も、里の者も……皆、鬼火で死んだ」


「……」


「なんで、わてだけ生きとるんや」


私は答えられなかった。


そっと背に手を伸ばす。


――この者は、本心で傷ついている。


それだけは痛いほどに伝わってきた。


その瞬間、ショウメイが顔を上げる。


「……もう、残っとるんは」


私の両手を包み込む。


「姫と、わてだけや」


近い。

逸らされない視線。


「奇跡やと思わんか」


「ショウメイ……様……?」


「なぁ。

 付き合うところからでもええ。

 一緒に、生きてくれへんか」


言葉が出ない。


『油断させ、懐に入れ』


ジゲンの声が、頭をよぎる。


それでも。


分厚い掌に握られた自分の手を、私は見下ろす。


「……私は」


――偽りの姫でしかない。


答えは、ない。


サクラが舞い、春の光が差し込む。


ショウメイの言葉は、確かに胸に触れていた。

だが、それに応える余裕は、私にはなかった。


胸に残るのは、昨夜の敗北。

覆された力の差。

屈辱と、まだ消えぬ悔恨。


――私は、まだ立ち上がれていない。


ショウメイを見つめ返すその瞳に、

宿っていたのは恋ではない。


次こそは、と誓う

消え残った焔だった。

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