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宵星の巫女―鬼封神楽―  作者: いろはにぽてと
1章・見えざる刃、牙の残影
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26話 宇治残香譚(再投稿)

再投稿にあたってのお知らせ(修正版)


本作は、クオン視点に変更し再投稿しております。

物語の内容自体に変更はありません。


また、表現の一部に分かりにくい箇所があったため、

意図が伝わりやすくなるよう簡素化しております。

あらかじめご了承ください

稽古を終え、一行は刀工の館へ戻った。

だが、ショウメイだけは中へ入れなかった。


「部屋が無い」

そう言われただけだ。


困った顔のショウメイを見て、ジゲンが弟子に声をかける。


「離れの小屋でも構いません。

 もう一度、私と頼んで下さいませんか」


しばらくして二人が戻った。


「……好きにしろ、とのことです」


「助かりますわ」


ショウメイは頭をかき、軽く笑った。


――翌朝。


中庭に朝日が差し、砂利を踏む音が響く。


「姫さん、行きまっせ」


「……はい」


返事をしたのは、姫ではない。


私は姫衣装の襟を正し、息を吐いた。

早く終わらせたい。姫ごっこも、この任務も。


これは仕事だ。

ショウメイが敵なら――斬る。それだけ。


その判断は、すでに始まっている。


風が止み、意識が過去へ引き戻される。


宇治を発つ前夜。

グンシ邸の奥座敷で、私とナタレ姫、ジゲンは向かい合っていた。


「お二人とも、よく聞いてください。

 ショウメイは、裏切り者やもしれません」


ジゲンは前置きなく告げた。


「里が飢饉に陥っても、

 ショウメイの御剣家だけが、毎年豊作でした」


「……それは、存じています」


ナタレ姫が、静かに頷く。


「さらに、御剣家の近親が噂を流しました。

 桜塚家――ハッコク大領は鬼に操られていると」


「そんな……なぜ……」


姫の肩が、わずかに震えた。


「里の者たちは疑い、怯え、

 ――そして、火刑の夜に至りました」


ナタレ姫は顔を上げ、問う。


「……あの夜、

 私に刃を向けてきた者の中に、ショウメイもいたのですか」


「いえ」


ジゲンは首を振った。


「刃を向けたのは、

 飢えと恐怖に追い詰められた者の一人です」


沈黙が落ちる。


「……飢饉で民が苦しんでいたことは、私も承知していました」


ナタレ姫が、自ら言葉を継ぐ。


「だから父上には、

 年貢の取り締まりを辞するよう求めたのです」


一瞬、言葉を切り――


「あの火刑の日に里へ赴いたのも、

 ただの邪鬼払いの儀式だったというのに……」


そして、はっきりとジゲンを見る。


「それでも、なぜ今になって、

 この話を打ち明けるのですか」


ジゲンは目を伏せ、短く息を吐いた。


「……多くを失われたお二人に、

 すぐに話せることではありませんでした」


一拍。


ナタレ姫は、静かに異を唱えた。


「ですが、ショウメイは

 サモン様の友だと聞き及んでいます」


「その方が裏切り者など、

 私には、どうしても思えません」


さらに、重ねる。


「それに、ジゲン。

 ショウメイが黒だと断じる確証はあるのですか」


ジゲンは、分の悪そうな顔で答えた。


「……ありません」


その視線が、私へと向く。


「だから、確かめたいのです」


「……従者の私に、か」


「ええ。

 姫の影武者として、ショウメイに近づいてください」


「油断させ、懐へ入る。

 それが、あなたの役目です」


私なら、出し抜ける。

斬る覚悟も、逃げる術もある。


適任としか言いようがない。


「そして、判断してほしい」


一拍。


「――ショウメイは、(じゃ)か。(いな)か」


――それが、すべての始まりだった。

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