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宵星の巫女―鬼封神楽―  作者: いろはにぽてと
序章・鬼と宿命の物語
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10話 再会

静まり返った部屋に、

戸口から淡い光が差し込んだ。


山吹色の衣に、白金の羽衣。

金の髪の少女が、そこに立っていた。


額には、光を宿した宝珠。


十傑(じゅっけつ)の鬼――

ジゲンだ。


少女は一礼し、静かに口を開く。


「クオン殿。

 お体の具合は、いかがですか」


「……少し、だるいだけだ。問題はない」


その声に、

ナタレ姫の体が、わずかに強ばるのが分かった。


「あなたは……

 赫鬼(アカオニ)(しば)った方ですね。

 なぜ、ここに?」


ジゲンは、迷いなく答えた。


「クオン殿に、助力を願いに来ました」


「だめです」


ナタレ姫が、即座に首を振る。


「もう、クオンを戦わせることはできません」


ジゲンは、少し困ったように微笑み、名を告げた。


「私は、かつて山科の里を治めていた者です。

 名を、ジゲンと申します」


その瞬間、

ナタレ姫の瞳が、ぱっと輝いた。


「え……?

 山科を、治めていた……?」


姫は、私とジゲンの顔を、交互に見比べる。


私は、落ち着いた声で告げた。


「姫を生き返らせた鬼は、ジゲン殿です。

 若返っているのは、鬼の依代となったためです」


その言葉を聞いた瞬間、

ナタレ姫は、思わずジゲンへ駆け寄った。


「……本当に?

 本当に、ジゲンなの……?」


涙をこらえきれない笑顔が、こぼれる。


ジゲンは、目に涙をため、うなずいた。


「――はい。この宝珠は、

 依代となった者の魂を守るためのものです」


「姫のお父上――八国(ハッコク)様が、

 最後の力で、私に託してくださいました」


ナタレ姫は宝珠を見つめ、

小さく、息を吸った。


「……お父様……ありがとう……」


ジゲンが、一歩前に出た。


ナタレ姫より、ひと回り小さな体で、

まるで母を求めるように――胸へと、抱きつく。


ナタレ姫は、一瞬だけ息をのむ。

それから、そっと身をかがめ、

ジゲンを包むように、抱き返した。


小さな背に、顔をうずめる。


その仕草は、

姫ではなく――母のよう。


「……おかえりなさい」


ジゲンの声は、震えていた。


その一言に、

長い年月が、詰まっているかのよう。


私は、何も言えなかった。

ただ、その光景を、静かに見つめていた。


だが――あまりに、長い。

その空気を、私は裂いた。


「……赫鬼(アカオニ)は、どうなった」


ジゲンは、ゆっくりと首を振る。


「……縛っています。

 ですが……私では、抑えきれません」


「……やはり、か」


「クオン!」


ナタレ姫が、強く声を上げる。


「だめよ。もう、戦わせられない」


私は、わずかに笑った。


「どのみち――逃げ場はないのです。

 奴が動けば、皆が巻き込まれる」


ナタレ姫は、少し考え――

やがて、決意したように言った。


「……分かりました。

 なら、私も行きます」


そう言って、

姫は自ら白の半面を手に取り、顔に当てた。


私は、息をのんだ。


(なぜ……姫が、従者の半面まで……?)


理解できない。

だが、止めることも、できなかった。


二人に支えられながら、

私は重い体を引きずるように、立ち上がる。


――戦いは、まだ終わっていない。



そのころ――


囲炉裏(いろり)の前で、カヲルが魚を焼いていた。


「あの人らがおらへんかったら、

 うちら、今ごろ灰やったかもしれへんな」


火が、ぱちぱちとはぜる。


「――せやから今夜ぐらい、

 腹いっぱい食べてもろたら、ええねん」


魚の脂が落ち、

香ばしいにおいが広がる。


暗がりで魚を焼く明るい声は、

かえって(おそ)ろしく(ひび)いていた。

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