プロローグ・姫と従者
従者――玖音は、すでに瀕死だった。
白き面の下から漏れる吐息は浅く、細い。
縄に縛られ、地に伏した身体は、もはや自力では動かない。
「……クオン……」
私は膝をつき、その名を呼んだ。
返事はない。ただ胸が、かすかに上下するだけ。
――毒だ。
神楽で捧げられた供物に、仕込まれていたのだ。
民を信じ、里のために祈り、舞った。
その果てが、これだというのか。
「騙されるな、鬼だ」
「火で厄を燃やすのだ」
篝火の向こうから、そんな声が重なって聞こえる。
白き半面の従者、クオン。
私に仕え、舞を支え、刃を振るい、
この身を守り続けてきた者。
何の罪もない、
その命が――今、尽きようとしていた。
私は震える指で、彼女の胸元を探る。
そこに忍ばされた、小さな木筒を掴んだ。
――解毒の薬。
父に願い出てまで、クオンが用意していたものだ。
だが、唇に触れても、彼女は口を開かない。
もう、自力では飲めない。
「……クオン」
私は覚悟を決め、薬を口に含んだ。
そして、そのまま唇を重ねる。
命を分けるように、薬を流し込む。
――祈るように。
しばらくして、かすかに喉が動いた。
痙攣が収まり、胸がゆっくりと上下し始める。
助かった。
そう思った、次の瞬間だった。
呼吸が、あまりにも穏やかすぎた。
「……眠り薬……?」
これは毒を抑える代わりに、
深い眠りへ落とす薬でもあった。
――このままでは、逃げられない。
私一人なら逃げられる。
だが、クオンを連れては無理だ。
そのとき、悟った。
クオンを生き残らせるには、
同じ顔をした誰かが――
彼女の替わりになるしかない。
私は、そっと耳元で囁いた。
「私が、貴方の身代わりになります」
声は震えていた。
それでも、迷いはなかった。
白き面を、静かに手に取る。
「――生きて、クオン」
その瞬間、
私は“姫”であることを捨てた。
――囚われの外法の巫女として、
この夜に、散るために。
本作は作者によるオリジナル作品です。
執筆にあたっては、
表現の整理や推敲を目的としてAIを補助的に使用していますが、
物語の発想・設定・展開・最終的な文章は
すべて作者自身が制作しています。
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