5話
七瀬さんは運ばれてきたパフェを見てスプーンを手に取った。生クリームを掬い取り、一口食べる。
七瀬さんと口元の端が上がり、眉尻が下がった。
「甘い物を食べている時が幸せですね。このために、仕事をしていると言っても過言ではありません」
「そ、そうですか……」
パフェを食べる七瀬さんを見ながら、自分も甘い物を頼めば良かったと後悔する。せめて、コーヒーにたっぷりのミルクと角砂糖を投入することにした。
「では、改めて質問をさせていただきます」
「……はい」
それから、私は七瀬さんの質問に答えていった。
辺りはすっかりと暗くなり、私は七瀬さんに家まで車で送ってもらった。
「本日はご協力ありがとうございました」
「いえ……真里は私に取って大切な友人ですので」
「そうですか。また、機会があればお話しを伺うこともあるので、その際はご協力お願いします」
「もちろんです」
七瀬さんの車が去っていく。
完全に車のライトが消えるまで見送り、私は庭に入った。
池の前に立ち、池を見下ろす。
池には月の光が反射していて、幻想的な風景を作り上げていた。
「真里……」
***
真里と二人暮らしして、一ヶ月が経った。
職場では真里が突然来なくなり、会社の人達が心配していたが、一ヶ月経つと落ち着いてきた。連絡が取れない真里は無断欠勤扱いとなり、退職になるみたいだ。
真里の経歴に傷をつけてしまったが、これから一生真里を養うつもりなので、問題はないだろう。
「宮村さん……相川さんが辞めた分、仕事はあるんだから、しっかりやってくださいね」
「……はい」
相変わらず、会社での私の扱いは冷たい物だった。真里のように誰とでもコミュニケーションを取れれば、こうはならなかっただろう。
それでも、私達の生活の為にしっかりと働かないと。
「ふぅ……疲れた」
家に帰り、玄関を開けると、初めて嗅ぐ臭いがした。
臭いは家中に広がっていき、居間の方へ行くと、臭いが強くなっていく。
「真里……?」
障子戸を開けると、真里は床で寝ていた。
「こんなとこで寝てると、風邪引くよ」
起こそうと手を伸ばし、私は真里の左手首から血が出ていることに気づいた。近くには包丁が転がっていた。
「え……?」
頭が真っ白になる。
「え、え、え」
状況が理解できてくるが、私の脳は理解を拒んだ。
「ま、真里ぃ……」
私は真里の身体を揺さぶる。真里の頬に触れると、温もりはなく、冷たくなっていた。
「……」
目からは涙が溢れていく。声にならない声が漏れる。
いつまでそうしていただろうか、目が痛くなり、声が枯れて喉が痛む。
床に転がった血のついた包丁を手に取る。
「ま……り……」
私も真里と同じところへ行きたい。左手首に包丁の刃先を向ける。
「もし、私が死んだら……」
例え、誰かに死体を発見されたとしても、真里と私は友達で同じお墓に入ることはない。
それに、真里の死体は警察が持っていき、最終的には家族に送られるだろう。
「嫌……! 渡さない……!」
真里は私だけのものだ……!
身体から力が湧く。
私はホームセンターに行き、ブルーシートと太めのチェーン、重りを買う。
家に帰った私は真里の死体をラップでぐるぐる巻きにし、さらにガムテープで巻いた。その上からブルーシートで巻き、チェーンも巻きつける。
「重い……!」
真里を引きずりながら庭に出る。雑草を掻き分けながら、池まで進み、池に真里を沈めた。チェーンに重りを括り付けて、浮かばないようにする。
ブルーシートが沈んでいることを、庭からはっきりと見ることができる。
「石で隠そう……」
私は庭に散らばった石を集めて、ブルーシートの上に落としいく。
ブルーシートが隠れて、見えなくなった。
「……ふぅ」
池の淵に腰を下ろした。
真里が死んでしまった。私が生きる意味がなくなったと同義だ。
「……寂しいよ……」
真里の身体はここにある。けど、もう声も一緒に笑うこともできない。
全ては私の我儘のせいだ。真里を独り占めしたいが為に監禁し、日に日に精神的にやつれていく真里を目の前に何もしなかった。
「ごめんね、真里……」
真里の未来は明るい物なのだ。誰かと結婚して家庭を築いたかもしれない。どこかの会社に就職してバリバリ働いていたのかもしれない。そして、たまには愚痴を言いにお酒を手に私の家に来ていたかも。
全てはあったかもの未来。それを私は奪ってしまった。
後悔にかられるも、また同じ状況になっても監禁をしただろう。
私は服を着たまま池に入る。
「真里」
真里の身体に手を伸ばすが、ブルーシートと石で覆っている為、触れることはできない。
それでも、ここに真里がいる。
「私もずっとここに居るから……いつまでも、一緒にいようね」