4話
仕事が終わり、クタクタの状態で帰路についていた。
「肉体労働……しんどい……」
仕事なんて辞めたいけど、私には他にできそうな仕事はない。
ようやく家に辿り着くと、家の前には見知らぬ男性が立っていた。
痩せ型のスーツ姿の男性だった。年は三十は超えているであろう。
オールバックの髪に、細い目。
動物に例えると、狐っぽい。
その男性は私に気づくと、会釈をしてきた。
「すいません、宮村小鳥さんですよね?」
「は、はい……」
私は後ずさる。自転車を持つ手に力が入った。
「私、探偵をやっております七瀬太郎と申します」
「……た、探偵ですか……?」
「ええ、とは言っても小さな事務所なんですけど……まあ、そこは置いていて。実は相川真里さんのお母様からの依頼で、行方不明の真里さんを探していまして、手掛かりがないか、友人の宮村さんを訪ねにきたわけです」
「……」
真里を探しに……!
ドクン、ドクンと鼓動が早くなる。
「わ、わかりました……」
「ありがとうございます! では、お邪魔しても」
「だ、だめです……! その……よく知らない人を上げるのは……ちょっと……」
「ああ、これは失礼しました。紳士としてあるまじき行動でしたね。では、近くのお店でお茶でも飲みながらどうですか? 車は私のがあるので」
「……はい」
私は庭の隅に自転車を止める。
七瀬さんの車に乗り、喫茶店に向かった。
昭和を感じさせる古びた喫茶店だった。カウンターとボックス席が三つ。私達はボックス席に座った。
「あ、お代は経費で落ちるんで、好きな物をどうぞ」
「ありがとうございます」
私はコーヒーを頼む。七瀬さんはパフェとココアを頼んでいた。
「実は甘い物好きでして……」
「そうなんですね……」
そんなことはどうでも良い。
いや、もしかしたら、緊張をほぐす為に言ったのかもしれない。
「では、宮村さん。いくつか質問させて頂いても良いですか?」
「はい……」
手に力が入る。
「相川さんと最後に会ったのはいつですか?」
「えーと……去年の八月の中旬くらいだった気がします……家で一緒に飲んでて……朝になったら、いなくなってました……友達とゲームするって言ってました」
「なるほど……相川さんに変わった様子は無かったですか? 何かに悩んでいるとか」
私は口に手を当てて、少し間を空けてから答えた。
「いえ、真里は悩みと無縁な性格なので」
「確かに親御さんからも元気いっぱいで明るい子だと、言われました」
「そうですか……」
真里の両親。
真里からは一度も話は聞いたことがないけど、探偵を雇うほどだ、真里のことを大切に思っているのだろう。
それからも質疑応答を繰り返していると、店員が注文した物を持ってきた。
「休憩にしましょう」
「はい」
***
「ねえ、小鳥……これなに?」
「……首輪と手錠」
真里の首には首輪がしていて、鎖がついており、鎖は家の柱へと繋がれている。両手には手錠が嵌められている。
「何かの冗談?」
「えーと……本気だよ」
「本気?」
まだ冗談だと思っているのか、真里は笑っていた。手錠を珍しそうに見ていた。
「私は真里を監禁する」
「監禁て……なぜ?」
「真里のことを独り占めしたいから」
「独り占め? もしかして、ラブ的な?」
「うーん……ラブとは違うかも」
真里とキスやエッチをする光景が脳裏に浮かぶ。けど、私が欲しいのは違う物だ。真里とずっと一緒に居たい。ただそれだけ。
「真里が他の人と仲良くするのが嫌。私だけの友達でいて欲しいし、誰とも真里と話して欲しくない」
「……マジ?」
「うん……」
真里は自分に嵌められた手錠と繋がれた鎖を見た後、ため息を吐いた。
「小鳥の想いはわかった……けど、これはやり過ぎだと思うよ。友達を監禁なんて……普通は犯罪。今なら、何も無かったことにするから……やめようね」
「……ごめん、無理」
「小鳥……!」
「犯罪、てわかってる……けど、無理だよ。だから、ごめんね真里」
「……」
真里は状況の深刻さを理解できたのか、顔がどんどん青ざめていく。手錠をカチャカチャと動かして外そうとするが、外れない。首輪も同じように外そうとするが無理だ。
「手錠と首輪は外れないよ……」
「……ねえ、小鳥」
「うん?」
「ど、どうしたら……解放してくれる……? 要求を言ってよ……! な、何でもするから……!」
「要求は一つだけ」
私は屈んで、真里と目線を合わせた。怯え切った真里の瞳。そこには、一筋の希望が見えていたのだろう。
「私とずっとこのまま暮らすこと」
「え……」
「じゃあ、買い物行ってくる」
私は部屋から出て、障子戸を閉める。
「ま、待って……! 待ってよ、小鳥……!」
私は無視して、玄関を出る。
家がボロいため、家を出ても真里の声が聞こえてくる。
「……」
人通りはほぼゼロのため、騒いでも聞かれる心配はない。けど、万が一ということもある。
「口枷、用意しないと」
私は自転車に跨り、街に向かう。
真里の日用品を用意しないと。
せっかくの二人暮らし。楽しみだ。