2話
夜、池から出た私はシャワーを浴びた。
池は気持ち良いが、外にある為汚れているのだ。
パジャマに着替えて、布団に入る。
目を瞑っていると、「ポタポタ」と水滴の音と「ジャラジャラ」と鎖を引き摺る音が聞こえてくる。
「……」
私が目を開けると、部屋の障子戸に黒い影が映っていた。黒い影が障子戸をすり抜けて、部屋の中へと入ってくる。
人の形をした黒い影。まるでノイズが走っているようにその存在は朧げだ。体型からして女性だろう。
首には首輪がある。首輪には鎖が繋がれていて、床を引き摺っていた。
「また、来たの」
それが私のことをどうしたいのかは不明だ。
ただ、毎夜枕元に現れては、そこに佇んでいた。
目はついていないけど、それが私のことを見ていることが感覚で分かった。
私はじっとそれを見つめる。
普通の人だったら、悲鳴を上げて逃げ出すのだろう。けど、見慣れた私にとっては、逃げ出す必要は無かった。
***
真里と出会ってから半年が経った。
「小鳥。今日も行って良い?」
「……良いよ」
「やった! お酒もってくね!」
真里とは仲良くなり、初めて友達というものができた。
仕事が終わり、一緒に私の家に向かう。
「途中、コンビニ寄ろう!」
「うん……」
私は自転車通勤で真里は電車だった。けど、私の家に行く時は、真里は歩いて向かう。私も自転車を押して、歩いていた。
「お酒、お酒、お酒」
楽しそうに口ずさみながら、お酒をかごに入れていく。
「真里、買いすぎじゃ……」
「えー、だって今日は金曜日だよ! 明日は休み! これが飲まずにはいられるか!」
「……う、うん……そうだね」
「当然、小鳥も朝まで付き合ってね」
「えー……」
お酒とつまみを買う。
お酒が美味しいと思うようになったのも、真里のおかげだ。
コンビニを出て、買ったものを自転車のカゴに入れた。
「よっと……」
真里は自転車の後ろに跨った。
「さあ、レッツゴー」
「……二人乗りはダメだよ」
「むー、小鳥は固いなぁ」
そう言って、真里は自転車を降りた。
正直、二人乗りも楽しそうなので、真里がもう少しただをこねたらやるつもりだった。
家に辿り着くと、真里は速攻でお酒を開けた。
「かぁ……生き返る……!」
「おっさんみたい」
「何を? 永遠の女子高生に向かって失礼な!」
「……女子高生はお酒飲めないよ?」
「あ、確かに……あはは」
お酒を飲む真里は楽しそうだ。
「今日も泊まって行く?」
「もちろん! 酔い潰れるまで飲むつもりだし!」
「そっか……」
真里が泊まって行く。
そう思うだけで、心がポカポカと温かくなる。
「この焼き鳥美味しい……! ほら、小鳥も食べてみ!」
「うん……」
真里と過ごす日々は楽しい。私は真里と出会うために、今まで生きてきたと確信するほどだった。
翌朝、起きると、雑魚寝していた真里の姿はなかった。
「真里……?」
いつもなら、お腹丸出しで、涎を垂らしている。
テーブルの上に、伝言があることに気付いた。
『友達と遊ぶ約束あるから帰ります』
「友達……」
伝言が書いてあった紙を握り潰し、床に叩きつけた。
「真里の友達は私なのに……」
黒い感情が沸々と湧き上がってくる。
でも、真里は優しいから、他にも友達いるのは普通だ。
「……」
ダメだ。
こんな黒い感情が真里にバレたら、真里は私のことを嫌いになる。
「隠さないと……」
私は真里の友達。そう、普通の友達なのだ。