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スプーンの底

作者: 豆苗4

「どんな人間でも皆同じだ。くりくりの目ん玉が2つこっきりついているのだから」

「ついていなかったら? 」

「耳が2つついて……」

「ついていなかったら? 」

「鼻が1つ……」

「ついていなかったら? 」

「口が1つ……」

「ついていなかったら? 」

「頭が1つ……」

「ついていなかったら? 」

「手が2つ……」

「ついていなかったら? 」

「足が2つ……」

「ついていなかったら? 」

「………」

「………」

「身体が……」

「もしも身体が心が精神が魂が…ついていなかったら? 目が耳が鼻が口が頭が手が足が身体さえも、人間だと認められる全てが欠落していたとしても、それでも人間だと、そうでなければならないと、そう主張するとでも言うのか! 」

「そうだ」

「では聞こう。人間の要件とは? 」

「……自明だよ」

「そんなはずない。君には見えないのか? 今にも崖から落ちそうになっている憐れな子羊の群れが。導師を失い散り散りになってしまった迷える子羊が。見えないとでも? 」

「見えているさ。君が見ているのと同じように。君が今まさに言った通りのことそのままだよ。例え君が迷える子羊だったとしても、崖から落ちそうになっていたとしても、悠久の大地が君を支えていることに異論はないだろう? 人間から、人間たらしめるものを全て日の元に引き摺り出し、遍く功罪を曝け出し、人間性やら何やらを全て捧げた後に残ったもの。それが我々の人間らしさを担保する唯一のものだ」

「そんなことしたら何も残らないではないか」

「そうだとも。君がそう望むなら何も残りやしないのさ。身体も心も精神も況してや魂でさえも」

「じゃあ一体何が残るって言うのさ。搾りかすか? 」

「搾りかすか…それも良いかもしれないな。さっぱりしてて」

「……」

「別に何でも構いやしないのさ。何かが残ろうとも何も残らなかろうと。それが粉々になった氷砂糖だろうと、半分に千切れたあんぱんだろうと、白いキューブだろうと」

「……」

「ただそれが小ぶりなスプーンからこぼれ落ちない方が良いに決まってる。『ない』と言うのは『ある』と言っているのと一緒だ。『ない』というのは満杯のスプーンに一欠片の砂糖を落とすのと同じこと。だから、スプーンをひっくり返すんだ。何が落ちて、何が失われていったのか。それが分かるまで、何度でも」



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