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失恋したはずの幼なじみ侯爵様に、こんなに愛されていたなんて想定外です

作者: 如月ゆず


 シルヴィア・メランデルには、子どもの頃からずっと好きな人がいる。


「オリヴァー様。ご無沙汰しております」

「……ああ、久しぶり。シルヴィア」


(……今日も目を合わせてくれないわ)


 重く黒い前髪を揺らしながら視線を彷徨わせるオリヴァーに、シルヴィアは胸が締め付けられた。

 シルヴィアが恋焦がれるオリヴァーは、アルヴェーン侯爵家の跡取りであり、同じ事業をしている父親同士がずっと仲の良い、所謂幼なじみだ。


 同い年の彼とは、幼い頃から、シルヴィアの妹であるクリスティーナと三人でよく遊んでいた。


 初めて会ったのは生まれて間もない頃だから、正直一切記憶がない。けれど物心ついた時には既に恋をしていた。ほとんど一目惚れに近いものだったけれど、決定的な理由もふたつある。ひとつは六歳の頃、どこからか飛んできて根付いていたタンポポが誰かに踏まれたのを見て悲しい顔をしていたこと。もうひとつはお気に入りだったカップを不注意で割ってしまったシルヴィアの目にハンカチを当ててくれたことだった。

 彼のさりげなくもあたたかい優しさが、シルヴィアをときめかせていた。


 恋に落ちてから約十年以上。

 ある日メランデル侯爵家を訪れていたオリヴァーは、シルヴィアの向かいでカップをソーサーに戻しながら気まずそうに切り出した。


「……その、クリスティーナはそろそろ帰ってくるか?」

「はい。もうすぐかと」


 そう、彼が訪ねてきている理由はシルヴィアと話すためではなく、妹のクリスティーナに会うためだった。


(クリスティーナを待つこの少しの時間さえも気まずいのかしら。……私は、会えて嬉しいのに)


 昔から今のようにあまり目が合わない上、何よりシルヴィアは一度十歳の頃に告白をして振られているのだ。


(それにしても、最近はよくクリスティーナを訪ねてくるわね。もしかして……少し前にクリスティーナが十五歳になったからかしら)

 

 少しうつむきがちに紅茶を口に運ぶ。

 左右にわけた水色の長い前髪を揺らしながら顔を上げ、再びカップを口に運ぶオリヴァーの様子をちらりと窺った。

 

 この国では男女ともに十五歳から結婚が可能となる。もちろん幼い頃から口約束の許嫁がいる貴族も少なくはないが、正式な手続きはこの年から王家の承認がもらえることが一般的だ。


 オリヴァーは幼い頃からあまり口数が多くなく社交的なほうではないが、艶やかな黒髪とエメラルドグリーンに輝く宝石のような瞳を湛え、その整った容姿と頭のよさ、この国でも三本指に入ると言われるほどの剣術の腕前を持っている。


 そして侯爵家の跡取りという立場から社交界でも人気がある。クリスティーナはまだデビュタント前だが、彼女もオリヴァーと同様に人の目を惹く容姿のため、口約束を交わしに来たとしても不思議ではない。

 

 一方のシルヴィアは、昔から注目をされないほうだった。見た目は髪色以外クリスティーナとよく似ているけれど、あまり喋ることが得意ではないからか、話しかけられてもうまく受け答えができない。そのせいか、自ら一人でいることを選ぶことも多く、オリヴァー以外の男性とは縁がないままこの年になっていた。


 けれどそんなシルヴィアも来週十六歳を迎えるからか、世間から見れば少し遅いものの、つい先週も父を通して縁談を申し込む書信が届いたばかりだ。


「失礼します」


 コンコンとノックの音がして、部屋にひとつ年下の妹であるクリスティーナが入ってくる。


 彼女は今日も、淡い金色の髪を三つ編みのように片側でひとつに結って明るい笑顔を浮かべている。落ち着いた雰囲気を持ちあまり喜怒哀楽を激しく顔に出すタイプではないシルヴィアとは対照的に、クリスティーナはころころと表情が変わる。


 太陽のようにまぶしくているだけでその場がぱっと明るく華やぐ。そんな雰囲気を持った妹のことを、シルヴィアはかわいらしく思っていた。


「お久しぶりです。オリヴァー様」

「クリスティーナ、久しぶりだな」


 その声はどこか安堵しているように聞こえて、シルヴィアの胸はまだ痛んだ。やっぱり自分と話している時とは違い、クリスティーナとは視線だってちゃんと重なっている。


「では、私は失礼しますね。オリヴァー様、ごゆっくり」

「ああ、ありがとう」


 いたたまれなくて、ボロが出る前に二人に別れを告げて部屋を後にする。

 扉を背にして、小さく息を吐いた。


(もし二人が結婚することになったとしたら、笑顔でお祝いしなきゃ)


 クリスティーナは、大事な妹だ。

 それにシルヴィアもこれから誰かと結婚するかもしれない。今お見合いの話をくれているのは次期侯爵であるアレックス。家柄も近く、周囲からの評判も高い人柄で、父や家の役に立てるならとシルヴィアとしても断る理由がなかった。


 ただ、そこに少しだけ。

 誰かの妻になれば、オリヴァーを忘れられるかもしれない――そんな身勝手で、微かな希望を隠していた。






「……すまない、シルヴィア。アレックス卿との縁談の話だが、破談にしてくれと連絡があってな」

「え……」


 父から部屋に呼ばれてそう告げられたのは、翌日のことだった。


「……いえ、仕方ありません。お父様が謝ることではないですから」

「だが……」


 普段は凛々しい父の眉が、また申し訳なさそうに一段下がる。


「シルヴィアに非がある破談ではない。先方に事情ができたらしい」

「そう、ですか」


 そう答えるシルヴィアは、思った以上にショックを受けていなかった。

 悲しいことがあるとすれば、父や家の役に立てる、という願いが叶わなかったことくらいだ。


(……私は好きな人から愛されないだけではなく、政略結婚すらできないのね)


「シルヴィア」


 名前を呼ばれて、自然とうつむかせていた顔を上げる。


「きっとお前は家のことを考えてくれているのだろうが、私はシルヴィアが幸せならそれでいいんだ。事業も安定しているし、好きな人がいるのならその人との縁談もどうにかできるよ」

「お父様……」

「昔からあまり自分の気持ちを言葉にするほうではない子だったが、何かあるなら言いなさい」


 優しい父の言葉に、胸が詰まった。

 政略結婚がほとんどの中、選択肢を貰えるというのはどれだけありがたいことなのだろう。


「ありがとうございます」


 答える脳内に、オリヴァーの顔が浮かぶ。


(……でも、オリヴァー様は私のこと好きじゃないのよね)


 それでも、もう十年以上も恋心をこじらせてしまっている。


 一度拒否をされているし、父の力を使って結婚という形はとりたくなかった。


 ただ侯爵家のいち令嬢として嫁ぐ前にもう一度想いを伝えられたら、気持ちに区切りがつけられるかもしれない。一度振られてしまったこと、彼の態度を思えば、気持ちが通じ合う可能性は低い。

 意気地なしのシルヴィアは今までどうしても踏み出すことができなかったけれど、父の優しい言葉に背中を押された気がした。


(怖がっているだけでは、何も変わらないわよね……)


 部屋を出ると、少し離れたところの柱近くで立っていたクリスティーナが、ハッとしたように顔を上げた。


「シルヴィアお姉様!」

「クリスティーナ。どうしたの?」

「その、お話が」


 青を基調とした絨毯の上を早足で駆け寄ってきたクリスティーナは、困ったような顔で、胸前で指を組んでいる。破談にされたことを知っているのか、気遣ってくれているらしい。話があるというのにまず気にかけてくれるところが優しい妹だな、とシルヴィアは沈んでいた胸があたたかくなった。


「来週の誕生日パーティーのことですが、オリヴァー様が早めに来てお姉様に会いたいそうなんです。かまいませんか?」

「え? それはかまわないけれど……」


 来週の夜、シルヴィアの家の広間で、彼女の誕生日を祝う夜会が開かれる。シルヴィアはあまり派手なことが得意なほうではないけれど、社交の場を設けようとしてくれている両親の気持ちを無下にはできない。


「クリスティーナも一緒に?」

「いえ、お姉様だけです」

「……それは大丈夫かしら」

「え?」


 心配になって思わずつぶやくと、クリスティーナが目を瞬かせた。


「あ、いえ、オリヴァー様が嫌なのではないかと思って……」

「そ、そんなはずありません!」


 クリスティーナが慌てたように首を横に振る。優しい妹だから、気を遣ってくれているのかもしれない。これ以上この話を広げると余計心配をかけてしまうだろう。シルヴィアは「わかったわ」と返事をして、クリスティーナを庭へと誘った。


 オリヴァーももちろん招待客の一人ではあるから来てくれる予定にはなっているけれど、夜会中には言えないような話なのだろうか。


(もしかしてクリスティーナとの結婚に関する相談?)


 だったら、自分からの告白は邪魔になるだろうか。それでも彼の口からハッキリと「クリスティーナが好き」と言われたらそれも区切りになる気がする。

 ひとまず先に彼の話を聞くことにしよう。振られたとしても、笑顔でオリヴァーの恋を応援しようと決めながら。

 





 パーティーの準備に追われているうちに、あっという間に誕生日の夜が訪れた。昼間は両親、クリスティーナ、そしてパーティーに来ることができない友人からのお祝いの書信、侍女や屋敷で働いていている人たちからの祝福を受けて、シルヴィアは幸せな誕生日を迎えていた。


 そして夕方。パーティーが始まる少し前に、オリヴァーが訪ねてきた。ちょうどパーティー用のグリーンのドレスを着せてもらっているところだったので、代わりに執事が客間へと彼を案内してくれた。


 ようやく準備が整ったシルヴィアは、緊張で冷たい手を握りしめながら客間の前に立つ。いつも下ろしている空色の髪はハーフアップにされ、クリスティーナからもらったパールの飾りをつけている。


 張り詰めた気を逃がすように深呼吸をして、ドアのノックした。

 すぐに中からオリヴァーの声がしてまた体が固くなった。


「失礼します。シルヴィアです」


 ゆっくりとドアを開ける。

 そしてその先に広がっていた光景に、シルヴィアは息を飲んだ。

 

 客間には、美しい花束を抱えたオリヴァーが立っていた。真っ赤なバラを中心に、水色と白の小さな花が混ざった、彼の顔を余裕で覆い隠すくらい大きな花束だ。


「あ、の、オリヴァー様……?」

「シルヴィア、誕生日おめでとう」


 中に入りながら尋ねると、オリヴァーがいつもより硬い声で言った。


「あ……ありがとうございます」


 驚きで声を震わせながらお礼を言う。すると、オリヴァーがその場に膝をつき、華やかな花束をシルヴィアに差し出した。


 大きな窓から差し込んだ陽光が、彼の頬を照らす。バラの色よりも淡く、かすかに真っ赤に色づいたオリヴァーの顔を見て、シルヴィアは息を呑んだ。


「……俺と結婚、してくれないか」


 続いた言葉に耳を疑った。


(結婚? オリヴァー様が……え、私と?)


 まるで夢の中にいるような感覚がして、すぐに返事ができなかった。まばたきを繰り返していると、オリヴァーが不安げに瞳を揺らして見上げてくる。シルヴィアはハッと我に返り、今考え得る可能性すべてに思考を巡らせた。もしかすると父が何か言ったのかもしれない。それとも……それとも……一体何なのだろうか。

 

 オリヴァーの言葉をまっすぐに受け止めようと淡い期待がちらつく。でも、彼が自分のことを好きだなんて想像がつかない。


「で、でもオリヴァー様は他に想う方がいるのでは……」

「俺が好きなのはずっとシルヴィア、ただひとりだ」


 オリヴァーの声色はやっぱりいつもより硬くて、赤い頬も相まって冗談を言っているようには思えなかった。シルヴィアの髪色と同じ空色の美しい花が、彼の手元で軽やかに揺れる。


「ずっとシルヴィアが好きだった。だが、子どもの頃の俺は一人前じゃなくて君の想いに応える資格がないと思っていたんだ」

「じゃあ、嫌われていたわけじゃないのですか……?」

「当たり前だ」

「よかった……目も合わせてくれないので、私てっきり嫌われていると思っていました」

「!」


 オリヴァーの顔が強張った。それから焦ったように口を開く。


「す、すまない。それは……シルヴィアのことが好きすぎて、うまく顔が見られなかったんだ」

「え……」

「俺の態度のせいで悪かった。だが、それくらい愛しているということを今から伝えさせてほしい」


 オリヴァーは眉を下げたまま、気持ちを切り替えるようにふうと息を吐く。


「子どもの頃からずっと愛している、シルヴィア。結婚してほしい」


 オリヴァーが人を傷つけるような嘘を言うような人じゃないことは、長年の付き合いでよく知っていた。

 夢じゃない。いよいよ現実味が帯びてきて、目の奥が熱くなった。


「ありがとうございます。嬉しいです……っ」


 差し出された花に手を伸ばすと、オリヴァーがほっとしたように目元を緩めた。バラの甘く華やかな香りが鼻先に触れて、また幸福感が増した。


「抱き締めてもいいか?」

「えっ……は、はい」

「……ありがとう。シルヴィア」


 緊張と恥ずかしさで声を上ずらせると、オリヴァーは嬉しそうに表情を緩めてシルヴィアの目元を拭う。浮かんでいた涙を拭ってくれた後、そっと体を抱き寄せられた。


 間に花があるから少し隙間はあるけれど、こんなに彼と近づいたのは子どもの頃以来な気がしてシルヴィアは感慨深かった。心臓の鼓動はドキドキと速さを増しているけれど、それ以上に長年の想いが通じたことが嬉しくてたまらない。


「実は私も今日、告白して振られようと思っていたんです。オリヴァー様はクリスティーナのことが好きだと思っていたので」

「振るわけがない。クリスティーナには相談に乗ってもらっていただけなんだ」

「よかった……もっと早く伝えていればよかったですね」

「それはこっちのセリフだ。すまない……いろいろと誤解を与えてしまって」


 申し訳なさそうな声に、そっと首を横に振った。


「今通じ合っただけで十分すぎるほど幸せです。こんなに素敵なプロポーズをしてくださってありがとうございます」

「俺のほうこそ応えてくれてありがとう。……必ず幸せにする。世界一愛しているから」

「私も、オリヴァー様を幸せにします」


 これは夢じゃない、現実だ。そう伝えるようにオリヴァーが優しく背中を撫でてくれる。


 諦めなくてよかった。心から好きな人の傍で生きていけるのだ。ずっとずっと胸にあった願いが通じた誕生日を、シルヴィアはきっと一生忘れない。


 また泣きそうな気持ちがこみ上げるのを感じながら、シルヴィアは花の香りと愛しい人の体温を感じ続けていた。







「よかったですわね。お姉様に受け入れてもらえて」


 シルヴィアに結婚を受け入れてもらえてから数日。

 我が家を訪ねてきたクリスティーナは、紅茶をソーサーに戻しながら呆れたように息を吐いた。


「ああ、本当に。夢みたいだ……!」

「その浮かれた顔をお姉様にも晒せばいいのに」

「無理に決まってるじゃないか。……かっこ悪いと思われたら困る」

「はぁ……」


 さっきまで祝福をくれていたクリスティーナは、「出た出た。出ましたわ……」とつぶやいて心底どうでもいいといった顔で目を細めている。


 シルヴィアに出会ったのは、まだ記憶もおぼろげな幼少期だった。はっきりと恋心を自覚したのは五歳の頃――庭で転んで泣いていたオリヴァーをシルヴィアが慰めてくれた時。そしてその後、庭に怪我をした鳥が迷い込んだ時。公爵を説得して最大限の治療をしていた彼女の様子を見て恋に落ちた。

 あれ以来ずっと、優しくて芯がある彼女を守りたい、一生傍にいたいと想い続けていた。


「でも、オリヴァー様がそんな調子だからお姉様に勘違いされるのですよ。私にお姉様の好きな花を聞いてきたりどんなプロポーズが喜ぶかって聞いてきたり。本当、準備にばっかり時間をかけて」

「そ、それは…………否定できない」

「でしょう。あげくに私のことを好きだと勘違いされて……困るんですよ」

「……悪い」

「と思っているなら、お姉様のことを必ず! 幸せにしてくださいね」


 咎めるようなクリスティーナの声に、オリヴァーは真面目な顔で深く頷いた。


「当然だ。俺がどれだけ彼女のことを好きか知ってるだろう」

 

 ずっとずっと、大好きだった。

 大切すぎて触れられなくて、愛しくて緊張して目も合わせられなくて。


 どうしても、まだ一人前じゃない子どもの状態で彼女の想いに応えられなかった。


 それでも――他の男に盗られたくなかった。

 だから必死に勉強して、剣術も磨いた。胸を張って彼女を好きだと言えるように次期侯爵として前に進んできた。誰にも、文句を言わせないように。自分が一番彼女に見合うように。

 

 同時に、柔らかな雰囲気と優しさで人の注目を浴びることが多い彼女に近づく男は、一人残らず排除してきた。そう、今回結婚を申し込んできたアレックスのように。


 クリスティーナ経由で手に入れた縁談申込の書信を、ぐしゃりと握りつぶす。


(シルヴィアに結婚を申し込む男はこの間の奴で5人目。まぁ、普段はシルヴィアに気づかれる前に潰してるが……)


 今回は少し対応が遅れてしまい、彼女に破談の事実を突きつけることになってしまった点が申し訳ない。


 それなのにクリスティーナから「お姉様、どうやらオリヴァー様に嫌われていると誤解されているようなんです」と聞いた時は、息が止まるかと思った。喉の奥からひゅっと情けない声が出たほどだ。


 嫌いどころか好きで好きでたまらないというのに。


(誤解されたらかなわないからな。それに俺のせいで彼女に悲しい思いはさせたくない)


 そう、シルヴィア自身は自覚がないようだが、彼女は子どもの頃からとにかく人に好かれる。聡明で優しく凛とした空気をまとう彼女には、老若男女問わず惹かれる者が多い。庭にやってきた猫にまで足にすり寄られているのを見た時は彼女の素晴らしさを再確認した。


 けれど、花に群がる虫は、度を超すとただの害だ。


「俺が今までどれだけ苦労してきたことか」

「……そうですね。お姉様に近づく男性はみーんなオリヴァー様が排除なさってきたんですから」


 すべてを知っているクリスティーナが、また呆れたように頬に手を当てた。


 今の自分は、胸を張って彼女を幸せにすると言える状態になっていた。それに、これ以上自分の弱さを理由に逃げている時間はない。だから勇気を振り絞って求婚することを考え、クリスティーナに頼み込んだ結果、協力してくれることになったのだ。それがますますシルヴィアに勘違いをさせることになったのは完全に自分のせいなのだが。


 両想いであればいいなと思っていたけれど、プロポーズに応えてもらえた時は夢のように嬉しかった。あれから数日、こうしてずっと浮かれ続けるくらいには幸せの絶頂にいた。


 これからはきちんと想いを伝えていかなければ。でも……それでも、愛する彼女に対してだけはやっぱり格好もつけたいと思う。それを許してほしいなんていうのは自分のわがままだろうか。


 



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