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第19話 兄妹


「卵も最近値上がりして来ましたね」

「そうだな」


 二人は行きつけのスーパーで買い物をしていた。卵をカゴに入れて、そのほかにもオムライスに必要な食材を入れていく。


「兄さんは葵さんと良くここに来ますよね」

「え……なんで知っているんだ?」


 確かにトウヤは一人暮らしを始めてから、葵とこのスーパーによく来ている。


 そして、彼女の好きなものをよく作っているのだ。


「葵さんがよく自慢してきます。兄さんにハンバーグを作ってもらったとか」

「あぁ……なるほどな」


 トウヤは自分の考える可能性ではないと知り、ほっとする様子を見せる。


「何ですか。露骨にホッとしましたね」

「いや、栞はたまにこっそり俺のことをつけたりするだろ? それかと思ってな」

「何ですか。それも兄さんのためを思ってのことです。それに、兄さんはすぐに気がつくじゃないですか」

「まぁ確かに。それならいいか」

「えぇ。問題はありません」


 問題ではあるのだが、トウヤは栞があまりにも自信満々に主張するので飲まれてしまった。


 それはトウヤがそのことに対して、あまり関心がないのもあったが。


 二人は無事に買い物を終えて、帰宅した。


 それから夜になってトウヤは二人分のオムライスを作った。


「おぉ……! 美味しそうです」

「だろ? 料理はこだわっているからな」


 一人暮らしをしてからトウヤは料理にこだわるようになった。といっても、初めは葵のリクエストから始まったことではあるのだが。


「今日はふわふわ卵のオムライスにビーフシチューをかけてみた」

「ゴクリ……では、いただきます!」


 栞はパクッと一口そのオムライスを口にする。


「お、美味しすぎる……! やはり兄さんは天才料理人です!」

「いや、料理人ではないが」


 興奮する栞の言葉を否定しつつ、トウヤもまた一口。


「うん。我ながら美味いな」


 そして夢中で食べ進めて、二人はそのオムライスを完食した。トウヤは食器を洗おうとすると、栞が声をかけてきた。


「兄さん。私がやります」

「ん? 別にいいぞ。手間じゃないし」

「いいえ。これくらいはやらせてください。妹なので」

「まぁ、そう言うなら頼む。俺はじゃあ、風呂に入ってくるよ」

「分かりました」


 トウヤは洗い物を栞に任せて入浴することに。トウヤの部屋の浴室は割と広めで、今日もしっかりとお湯を入っていた。


 頭と体を洗ってから浴槽に入って、トウヤはリラックスする。


「ふぅ……やっぱり、湯は熱いのに限るな」


 トウヤはぼーっと天井を見つめながら、あることを考える。


(明日はアリアが来る日か。上がったら、住所を教えておかないとな。ただ、そうだな。栞の言う通り、彼女は昔の俺に似ているかもしれない)


 アリアの学院での言動を振り返る。


 相変わらずその容姿と清楚な雰囲気から他の生徒には人気だが、アリアは常に一線を引いている。


 また、実際に二人で話をしている際も、アリアは何かを窺っているような様子があるとトウヤは感じ取っていた。


 アリアは──孤立している。


 その栞の言葉は、トウヤの心に深く刺さった。


「まぁ、でも栞と仲良くなってくれればいいんだがな」


 そして、トウヤは風呂から上がって就寝するの準備をする。


 トウヤの部屋にはベッドと来泊用の敷布団が用意されている。


「あの……兄さん」


 パジャマ姿でトウヤの寝室にやって来たのは、栞だった。小さな声で、遠慮がちにトウヤに話かける。


「どうした?」

「い、一緒に寝てもいいですか……?」


 口元を隠しながら、栞はそう言った。


 昔はよく一緒に寝ていた二人だが、互いに成長してからはそれも少なくなっている。

 

「あぁ。別にいいぞ」


 トウヤのベッドの中に栞が入り、二人は背中を合わせるようにして横になる。


「兄さん」

「どうした?」

「兄さんはとても強いと思います。努力も才能も、おそらくは不知火家の歴史の中で随一でしょう」

「そうか?」

「えぇ。きっとそうです。でも強いからこそ、兄さんはいつか……遠くに行ってしまうのではないかと……そんな夢を見るのです」


 栞はぎゅっとトウヤの背中を抱きしめる。


「大丈夫。俺はずっと側にいるよ」

「本当……? お兄ちゃん……」


 今この瞬間だけ、栞は昔のようにトウヤのことをお兄ちゃんと呼んだ。彼女が兄さんと呼んでいるのは、あくまで対外的なものを気にしているからだ。


 こうして本心で話すときは、昔のようにトウヤのことをお兄ちゃんと呼ぶのだ。


「あぁ。俺はもう誰も失いたくはない。絶対にみんなを守るよ」

「うん……!」


 トウヤはまだ忘れていない。前世で失った仲間と家族のことを。だから、今世では大切な人を守れるだけの力をつけている。

 

 もう二度と後悔しないために。


 そして二人はそのまま、眠りに落ちるのだった。




 翌日正午。


 トウヤと栞が待っていると、部屋のインターホンが鳴る。


「はい」

「あ……えっと。アリア=ラザフォードですっ……!」


 緊張した様子でアリアがそう言って、トウヤはオートロックの鍵を開ける。


「ちょっと迎えに行ってくる」

「分かりました」


 栞にそう声をかけて、トウヤはエレベーターで下へと降りていく。


「あ。トウヤさん」

「ここまで迷わなかったか?」

「はい。大丈夫でした」


 そしてアリアを自室へと招きれるトウヤ。


「アリアさん。こんにちは」

「こんにちは。栞ちゃん」

「? 今日も制服なんですか?」


 前回会った時も、今回もアリアは制服を着ているので、栞は疑問に思って尋ねる。


「あ……その。実はこれしかお洋服がなくて」

「え……!? 兄さん。予定変更です。今日はアリアさんのお洋服を買いに行きます」

「分かった。俺もついていこう」

「いいんですか?」

「もちろんです! さ、行きましょう。私の行きつけのお店があるので、じっくりと考えましょう」


 トウヤ、アリア、栞の三人はそうして街へと繰り出していくのだったが、トウヤは突然振り向いて後方を確認する。


「兄さん?」

「トウヤさん?」


(誰もいない。が、確かに視線はあった。なるほど……相手も色々と動き出しているかもしれないな。一応、心に留めておこう)


「あぁ。すまない。さ、行こうか」


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