第15話 初任務
現在の時刻は午後六時。
そろそろ日暮れの時間だが、これからが退魔師の活動時間と言っても過言ではない。
今日はちょうど、デュオによる任務が始まる日だった。
トウヤとアリアは集合して、挨拶を交わす。
「トウヤさん。今日はよろしくお願いしますね」
「あぁ。こちらこそ、よろしく頼む」
トウヤはスマホを取り出してから、今回討伐する夜魔を確認する。
「今回の対象はステージ5か。まぁ、問題はないだろう」
「トウヤさんは実戦経験があるのですか?」
「多少な。一応は御三家出身だから、ある程度はな」
「へぇ。そうなんですね」
二人は会話をしながら、歩みを進めていく。
「それと、この前は改めてありがとうございました」
アリアはトウヤに感謝を述べる。
「いや別にいいさ。あのくらいなら特に問題はない」
「本当に、とても嬉しかったです。その……もし機会があれば、また一緒にお出てかけしてもよろしいですか?」
じっとアリアはトウヤのことを見つめる。トウヤもそれを特に断る理由もないので、了承することにした。
「あぁ。時間があるときにでも、また日本を案内しよう」
「やった! ありがとうございます……!」
そんなアリアの様子を見て、トウヤは彼女がスパイ活動をしているとは思えなかった。
(まぁ、念の為に今後も注意はしておくが)
そして二人はさらに歩みを進めていき、目的地に到着した。
「この辺りのようですね」
アリアは改めてスマホを確認して、周囲を見渡す。一般的な住宅街であり、ここはその近くにある公園だった。
それほど大きい公園ではなく、遊具がいくつか点在している。
しかし、夜ということもあってどこか独特な雰囲気が漂っている。
「被害はそれほど大きくはないが、実害は出ている。手早くの処理しようか」
「はい」
トウヤとアリアはデバイスを展開しようとする。
トウヤは無銘を完全に解放せず、ただ鞘から刀を抜く。
「トウヤさんのデバイスは刀ですか」
「あぁ。ま、それほど大したものじゃない。魔力で刀剣を強化できるだけだ」
「なるほど」
嘘は言っていないが、本当のことも言っていない。流石にここでトウヤも無銘の本領を発揮するわけはない。
そして、アリアが手にしているのはアタッシュケースだった。少し大きめのもので、彼女はそれを右手に持っていた。
「それがアリアのデバイスか」
「えぇ」
アリアはデバイスを解放する。
「裁縫断章──起動」
アタッシュケースがパカッと開いて、アリアはその中から小さなハサミを取り出した。
「──大鋏」
そう言葉にすると、その小さなハサミは巨大なハサミへと変貌した。彼女の身長と同等のハサミの大きさは、流石に圧迫感があった。
金色に輝くそのハサミは、この夜の世界を照らしつける。
「ハサミか」
「えぇ。これが私のデバイスです」
「なるほど」
トウヤはじっとそのデバイスのことを見つめる。デバイスは国ごとに特色があり、日本は刀剣などが多い。しかし、海外になるとその傾向も異なってくる。
トウヤはまじまじとそのハサミを見つめるが、アリアは少しだけ顔を赤くする。
「ちょ、ちょっと見過ぎです……」
「あぁ。すまない。珍しくてな」
トウヤが軽く謝罪をすると、アリアは意識を切り替える。
「では、早速夜魔を探しましょうか。私も日本の夜魔と相対するのは初めてなので、緊張しますが」
アリアの手は微かに震えていた。巨大なハサミを持つだけの膂力はあるが、それでも緊張感は存在する。
トウヤはチラッとその様子を窺う。
(面白いデバイスだな。それに、おそらくはあのケースの中にあるものを使用できるんだろう。ハサミはその一部ってところか?)
そして、二人の目の前には夜魔が出現する。それは狼型の夜魔であり、体には濃い魔力を纏っている。
『グルウウウウウウ……』
狼たちは二人を囲むように展開して、逃げられないように徐々に迫ってくる。そして、タイミングを図って狼がアリアとトウヤに飛びついてくる。
「──遅いですね」
アリアは巨大なハサミを開き、それを一瞬で閉じる。鋭利なハサミによって、狼は一刀両断されて一気に粒子へと還っていく。
トウヤもまた襲い掛かる狼を捌いていた。最小限の魔力だけで身体強化をして、狼を斬り裂いていく。
「ふぅ。こんなものですかね」
「あぁ。そうだな」
互いの実力は相当のもので、手早く夜魔の処理を終えた。
「では、無事に終わったと報告しておきましょうか」
そうアリアが言葉にした瞬間──ドン、ドンと大きな音が響いてくる。
「あれは──」
二人の目の前に現れるのは、獅子と呼ばれる夜魔だった。
「あの形態……獅子か」
二人の前に突如として現れた夜魔は、獅子である。体には真っ青な炎を纏い、口からは鋭利な牙がはみ出している。
「確か……あの夜魔はステージ4ですよね?」
「あぁ。だが、限りなく3に近い。基本的には魔境深夜帯にしか出現しない夜魔だが。やるしかないか──」
ここ数年、夜魔による脅威は年々増していっている。
それによる影響かとこの時のトウヤは考えていた。
そして二人は、突如として出現した獅子と相対するのだった──。