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第14話 デート


 トウヤとアリアの二人は並んで繁華街の中を進んでいく。


「先に俺の用事を済ませてもいいか?」

「はい。大丈夫ですよ」


 そうしてトウヤは家電量販店の中へと入っていく。キョロキョロと周囲を窺いながら、アリアもそれについてくる。


 トウヤが購入予定のハンディタイプの掃除機は、四階に置いてある。二人はエレベーターに乗って、四階まで上がっていく。


「えっと……左側に乗るのが普通なんですよね?」

「あぁ。東京はそうなっているな。ただ、関西になると右側になるから、要注意だ」

「へぇ。そうなんですね」

「といっても、明確なルールがあるわけじゃない。みんななんとなく、空気を読んでそうしているって感じだな」

「な、なるほど……勉強になります!」


 そして二人は四階にたどり着き、トウヤはすぐに目的のものを購入する。


 本当であれば、その掃除機を箱ごと持って帰るつもりだったが、今回はアリアがいるのでトウヤは宅配の手配を済ませた。


 スムーズに購入から配送まで済ませると、トウヤはアリアの元へと戻ってくる。


 アリアはただじっと、その場で周囲の様子を窺っていた。


「待たせたな」

「いえ! その……日本って、どこもこんな感じなんですか? なんだか、すごいキラキラしているというか」

「んー、まぁ都会はそうかもな。田舎になるとここまで騒がしいことはないと思うが」

「ふむふむ」


 そして、二人は並んで歩き始める。


「さて、俺の用事も終わったし、どうする? 有名な観光名所でも行こうか?」

「いえ……その。ここを色々と見て回りたいです」

「そうか。分かった」


 アリアの要望に応えて、トウヤはこの周りを見て回ることにした。トウヤが向かったのは、たこ焼き屋だった。


「これは……?」

「たこ焼きだ。ちょうど昼時だし、いいと思ってな。少し座って待っていてくれ」

「……はい」


 アリアは椅子に座って、じっとその場で待機する。


 トウヤは手早く注文を済ませて、二人分のたこ焼きを持ってくる。さらには、二人分の飲み物も持ってきて。


「お茶でよかったか?」

「お茶……はい。それで大丈夫です。その、色々としてもらってありがとうございます。本当に」

「別にこのくらいなら問題はない」


 アリアの目の前には出来たてのたこ焼きが置かれる。ソースとマヨネーズの香り、さらには上に乗っている青のりと鰹節も組み合わさって非常に食欲をそそる。


「えっと……フォークかお箸は?」

「このつまようじで食べるんだ」

「この小さな棒で?」

「あぁ」

「な、なるほど……日本はやっぱり凄いですね……」


 アリアは緊張しながら爪楊枝を持って、そしてたこ焼きを一口。とても遠慮がちに食べると、彼女は目を大きく見開いた。


「ん……! お、美味しい……! 美味しすぎます……!」

「そうか。それは良かった」

「は、はふ。でもとっても熱いですね……ふぅ。ふぅ」

「あぁ。火傷には気をつけろよ」

「はい!」


 アリアは夢中になってたこ焼きを食べ、トウヤはその様子をじっと見つめていた。それはまるで、本当に子どものような無邪気さがあったからだ。


「不知火さん。本当にありがとうございます。とても美味しかったです」

「呼び方はトウヤでいい。俺もアリアでいいか?」


 トウヤはその方が呼びやすいと思ってそう提案した。


「えっと……いいんですか?」

「あぁ。その方が呼びやすいだろう」

「分かりました。では、トウヤさんとお呼びいたしますね」


 食事を終えた二人が次にやって来たのは、ゲームセンターだった。アリアは流れている音楽の音量、きらびやかに光っているその空間に驚いていた。


「うわぁ……ここ、凄いですね」

「ちょっとうるさいけどな。さ、色々とやってみようか」


 トウヤの提案によって、アリアは色々となゲームを経験する。中でもクレーンゲームは気に入ったようで、自分の金をかなりつぎ込んでいた。


「うぅ……取れません……」


 アリアはすでに数千円も使ったが、狙っている犬のぬいぐるみを取ることができなかった。


「仕方がない。俺が取るか」

「え……?」


 トウヤは百円を入れて、クレーンを的確に動かしていく。すると──トウヤはたった一回で目当ての犬のぬいぐるみを手に入れる。


「俺が取ってしまったが、良かったか?」


 そう言ってトウヤは、そのぬいぐるみをアリアに差し出す。


「え……でもこれはトウヤさんが取ったもので……」

「いいさ。欲しかったんだろう? 貰ってくれ」

「は、はい」


 アリアは遠慮がちにそのぬいぐるみを受け取る。彼女はじっと、その犬のぬいぐるみの目を見つめる。


「ふふ」


 彼女はとても嬉しそうに笑みを浮かべる。


(さて、少し探ってみるか)


 そう思ってトウヤはアリアに質問を投げかける。


「アリア」

「はい。なんでしょうか」

「改めて、どうして俺を誘ったんだ? 特に親交もなかったのに」


 彼女は一瞬だけ眉をひそめるが、すぐにその質問に答えた。


「親交はありませんでしたが、その……トウヤさんは他の人とは違う何かがあるような気がしたんです。それに興味を持って、という感じですね」

「……そうか」


(嘘を言っている様子ではないが、本当のことを言っているわけでもなさそうだな。ま、これ以上の追及はやめておくか。あまり警戒されても意味はいないしな)


 そうしていると、トウヤに話しかけてきたのは──葵だった。その後ろには栞もいた。


「あ! と、トウヤ。偶然だねぇ〜」


 葵は明らかに目が泳いでおり、声もかすかに上擦っていた。


 そんな葵の横腹に栞は、「露骨過ぎです」と呟いて軽く手刀を入れる。葵は「う……!」と声を漏らして、後方に下がっていく。



「兄さん。奇遇ですね」

「あぁ。そうだな」


 といっても、トウヤも二人がついて来ていることは途中で気がついていたが。


「初めまして。トウヤ兄さんの妹の栞と申します」

「あ……えっと。アリア=ラザフォードです」


 アリアは二人が現れてから、ずっと動揺していた。視線は定まらず、忙しなく髪の毛を触っていた。


「アリアさん、とお呼びしても? 私のことも栞で構いません」

「栞ちゃん……で、いいかな?」

「はい。それにしても──」


 栞はアリアのことを見つめるが、それは悪意のある視線ではなかった。むしろ、キラキラと尊敬する瞳をしていた。


「アリアさん。本当に美人ですよね」

「え?」

「肌も綺麗だし、顔のパーツも全てが綺麗に整ってる。手足のバランスも完璧だし、本当に美しいと思います」

「えっと。あ、ありがとう?」

「せっかくなので、一緒にプリクラでも撮りませんか?」


 ぐいぐいとアリアに迫っていく栞のことを、トウヤと葵は少し離れて見ていた。


 トウヤは葵に単刀直入に尋ねる。


「で、いつからついて来てたんだ?」

「う……ば、バレてた?」

「途中からな」

「あははは。邪魔してごめんね?」

「いや。別にいいさ。みんな一緒の方がいいだろう」

「そう言ってもらえると助かるかな。それにしても、栞ちゃんがラザフォードさんのことを凄い気に入っているというか」

「みたいだな」


 そして四人で揃ってプリクラを撮ることに。アリアは初めてだったので、緊張していたが栞が先導することで無事に撮影が完了。


 その後はそのデータを共有し、連絡先の交換も全員で済ませた。


「では、私たちはこれで。行きますよ、葵さん」

「あ。ちょっと待ってよー!」


 そして残されたのは、トウヤとアリアだった。


「私たちも解散しましょうか。改めて、本日はありがとうございました」


 アリアはとても丁寧に頭を下げて、トウヤに感謝を述べる。


「妹が迷惑をかけて済まなかったな」

「いえいえ。それでは、私はこれで。また学院で、トウヤさん」

「あぁ」


 アリアとは逆方向にトウヤは歩みを進め、彼もまた帰路へとつく。



 †



 アリアが帰宅すると、すでに日は暮れていた。


 彼女は自身の部屋に戻ってくると、持って帰ったぬいぐるみをソファの上に置く。


「可愛いなぁ……ふふ」


 彼女は笑みを浮かべ、そのぬいぐるみのことを見つめる。


 ただ──アリアの部屋は、あまりにも物がなかった。


 必要最低限の家具だけで、彼女のこだわりなども全く反映されていない。


 ただただ、あまりにも無機質な部屋だった。


 そして、アリアはメッセージアプリを起動してトウヤにメッセージを送る。


「今日、は、ありがとう、ございました」


 葵と栞にも感謝のメッセージを送信する。


 アリアはスマホの操作に慣れていなかったので、そのフリック入力はとても遅かった。


「ふふ」


 とても嬉しそうに、慈しむようにアリアは四人で取ったプリクラの画像を見つめる。


 アリアの笑顔はぎこちないものだったり、半目になっているものもあった。


 それでも彼女は十分に喜んでいた。


 そこには自分の見栄えよりも、大切なものがあったから。


 ちょうど、その時だった──


 ピンポーン。


 インターホンがなると、アリアの顔は真っ青になる。


 彼女はただじっと、玄関の方向を向く。


 ごくりと喉が鳴り、手にはじんわりと汗がにじみ始める。


 来訪者が誰なのか。アリアはそれを分かっていた。


「──様……」


 アリアの口が震えながら、その音を生み出す。



 ピンポーン。ピンポーン。


 ほとんど家具のない空虚な部屋で、インターホンは飽きることなく無機質な音を繰り返す。


「……」


 ピンポーン。ピンポーン──。


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