005_APPENDIX:或る神とその従者の会話
■APPENDIX:或る神とその従者の会話
「あれ、どうしたの? 珍しくため息なんてついて」
「マスター、心外です。私だってため息を吐く時くらいあります」
「いや、いつもはそれを通り越して頭を抱えてるじゃない」
「……誰のせいですか」
「最近はやってることが落ち着いたから、もうそんなことないでしょ」
「それはそうですが」
「で、どうしたのさ」
「いえ、与り知らぬところで、またしても破滅神が生まれかけていたようで」
「は?」
「あの神の置き土産です」
「あー。こないだぶっ殺した奴のね。なに、まだやらかしてたの?」
「はい。自身の分身モドキを造っていたようです。他の神を喰らいまくる傍迷惑な神を育てていたようで」
「は? 喰う? え、私じゃないんだから。他の神にそんなこと出来る訳ないハズなんだけど?」
「圧倒的力の差で、まるごと取り込み消化するという、荒業をしていたようです」
「あー……。本来なら出来ないようなことをやっちゃったのね。でもそれ効率悪そう」
「実際悪いです。で、ここで神の本質と云うか、無駄なプライドがありまして。その破滅神モドキに襲われても、被害に遭っている神はそのことについて一切上に報告しません。プライドを優先するのです。そして喰われて死んでいます」
「ダメじゃん。そんな時こそ『神様助けて!』って云わなきゃダメじゃん」
「はい。ダメです。そのせいで手を付けられないレベルになりかけていたのですが、手を出してはならない神に喧嘩を売って、その本体は滅ぼされました」
「あ、トカゲの尻尾切りみたいなことをして逃げたのね。この場合、逃げたのは尻尾の方みたいだけど」
「そうです」
「ちなみに、それを倒した神様って?」
「【白】様です」
「【白】?」
「はい。ウチで隠居している、あのマッチョ爺です。まったく。自分にミスはないと無駄な自信をもっているから、詰めを誤るのです。その逃げた尻尾がまたしても力を無駄につけ、ふたつの世界を滅ぼし掛けました」
「なにやったの?」
「神を喰いまくるのはリスクが高いと学習したのか、弱い神1体を喰い殺し世界を強奪。世界に存在する生命から魂を吸い上げ、己の糧として力を付け始めました。力をつけた速度が尋常ではないので、そのふたつだけでなく、他の世界にも力を吸い上げる機構を作り上げた可能性があります。それに関しては現在調査中です」
「え、ヤバくない? それって輪廻の輪をぶっ壊したってことでしょ?」
「最悪の事態でもマスターが出張ればそれで終わります。ご安心ください、今回の騒動の中心たるトカゲの尻尾は始末を完了しています。いまは事後処理中です」
「あ、うん」
「トカゲの尻尾の始末の為に【青】様が向かわれました。ただその時点でトカゲの尻尾の力は【青】様の力を僅かに上回っていたのですが、トカゲの尻尾が力を得るためにばら撒いた機構の影響により、不運な人間がその場に転移、トカゲの尻尾に多大なダメージを与えるという人間にあるまじきことを行い、結果、【青】様がトカゲの尻尾を滅ぼすことに成功しました」
「うわぁ。他所の世界の人間は凄いねぇ」
「かつてのマスターのようです。ちなみに、地球からの転生者です」
「は?」
「元日本人です」
「ちょっ!?」
「まぁ、地球と云っても、第2地球ですので、マスターの同郷ではありません」
「第2? どういうこと?」
「マスターというイレギュラーが生まれたということで、実験的に地球のコピーが各難易度ごとに生成されました。マスターの作り上げたVRダンジョンを参考に生誕からの歴史を一気に進め、オリジナルの地球とほぼ一緒の年代となったところで実体化させた世界です。歴史に関しても、地球の産業革命直前までは同じとし、以降を独自成長させています。もっとも、オリジナルより20数年ほど遅れてはいるようですが。ちなみに、彼のいた地球の難易度はハーデストです」
「ハーデスト……。あれ? 難易度って、イージー、ノーマル、ハード、ゴッドレスの4段階じゃなかったっけ?」
「新設されました。魔法は限定的に解禁されている世界です。ゴッドレスでいうところの超能力者や霊能者が確立している程度に抑えられているようですね」
「霊能力って、除霊的なもの? ゲームで云うところの聖職者?」
「いえ、サイコメトリーと遠視のようなものです」
「あー。遺留品から行方不明者を探すみたいな」
「そうです。超能力の方は、弱い念動などですね。転移はできません」
「ふーん……。ゴッドレスも生成されたの?」
「ゴッドレスは現状のがあるじゃないですか。マスターの故郷ですよ。そもそも難易度ゴッドレスなど、どの神もやりたがりません。あまりにも無茶すぎて。
さて、その【青】様を救った英雄ですが、トカゲの尻尾に打撃を与えた際に消滅しています。自爆特攻のような事をしたそうですので」
「また無茶なことを。つか、今時そこまで覚悟の決まってる日本人なんてそういないと思うんだけど?」
「詳しくは聞いていませんが、島津あたりの血でも引いているのでしょう」
「あー。あのバーサーカー一族。撤退だといって、敵軍を中央突破するような連中だしね」
「えぇ。で、【青】様がその功績をもって彼を生き返らせたのですが、これまで世界管理に関わる暇のなかった【青】様……というか、【青】様の従者となった私の妹がやらかしまして。ちょっといろいろとレクチャーをしてきました。さらに次世代型試作最終ロットである最新の妹を、生き返った彼の精神を支えるためにも付けました。必要となりましたので。【青】様は彼を神不在の世界の管理神とする予定でもありますし」
「なるほど。でも、準神がサポートにつくって、よっぽどじゃない?」
「男性であったのに女性として復活させられたんです。我が妹の痛恨の凡ミスです」
「は?」
「それも幼女にされました。いい大人がそんな状況で復活させられたら、なにかしら精神の問題を抱えるやもしれません。ですので、妹にしっかりと彼の世話をするように、速成ですが教育してきました。多分、神と成るのに不適格な状況になることはないと思われます。現状ではかなり尖ってはいますが、マスターとは別ベクトルで確固とした信念をもつ、希少な人間ですので」
「なるほど。やらかした妹の不甲斐なさに嘆いていたと」
「私が抜けてより結構な時間が経つというのに、いまだこの体たらくとは、嘆くばかりです」
「まぁ、心配だろうから、ちょくちょく見に行ってあげるといいよ」
「はい、ありがとうございます」