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036_上野ダンジョン攻略配信_③


 平和だ。


 現在、メインのワイプにはサラから送られて来る映像。小さい方のワイプにはイオちゃんの映像を流している。


 イオちゃんのほうは相変わらず銃を乱射しての無双中。ときおり剣や魔法も飛ばしている。対象に視線を向けもしないのに急所を必中とかおかしいにも程がある。いったいどれだけモンスターを殺す研鑽をしてきたのか空恐ろしいくらいだ。


 そしてサラはというと、非常に間の抜けた状況となっていた。


 相対するはゴブリンの8体パーティ。要となるのはゴブリンシャーマン。いわゆる魔法使いゴブリンなのだが、現状、まるっきり使い物にならなくなっている。


 それをいうならば、他のゴブリンも似たような状況だ。


 ゴブリンたちすべてが笑いの発作に襲われているのだ。


 【笑い転げる土偶】。サラが見てみたいといっていたトラップ型の魔物だ。丁度それが配置された部屋で、サラはゴブリンの一隊と遭遇したのだが、そこでそのトラップが発動したわけだ。


 玄室内を笑い転げまわる土偶。それにつられ笑うゴブリン共。


 笑うゴブリンなどというレアな絵面は見ものではあるが、見ていて気持のいいものでもない。


 一方、サラはと云うと、土偶が転げまわり始めたと同時に自身に【鎮静】を掛けたのか、それとも外部音声を遮断する【遮音結界】を張ったのかは分からないが、とにかく土偶の影響は受けてはいなかった。


 そしてひとこと。


《メギ〇ラオンにございます》


 確か、ゲームに登場する魔法だっけ? 本当になにをしているのよこの妹分は。まぁ、ただその呪文を口にしているだけで、実際に発動しているのは単なる爆轟魔術だけど。これまで他にも《イオ〇ズン》とか《ティル〇ウェイト》とか云っていたけど。



:サラちゃんふざけ倒してね?

:やりたい放題

:魔法が見れて満足です

:魔術じゃね?

:イオちゃんの魔法動画にあったね



『サラは魔術師ですから、使っているのは魔術ですよ。魔法というのは、魔術をテンプレート化したもので、ほぼ応用が利かないモノのことをいいます。詳しくはイオちゃんの動画で確認してください』



 ん? サラ、土偶を拾ってる。良く出土する土偶とは違い、いっさい欠損のない土偶だ。


 ……なんか、額に指を当てて顔を顰めてるけど。


『サラー、その土偶はー?』


《……【笑い転げる土偶】です》


『いやいや、それは分かっているけれども』


《ですから【笑い転げる土偶】、のアイテム版です》


『は?』


《魔力を込め、投げつけると起動し笑い転げ始め、周囲を笑いの坩堝に陥れるデバフアイテムです》


『それ、自爆アイテムじゃないの?』


《対策をしていないと、投擲者も影響を受けるでしょうね。まぁ、耳栓程度でなんとか……。いえ、あの転がり方にも笑いを誘う視覚効果があるので、手榴弾のように物陰から放り込むのが正しい使い方なのかもしれません》



:ひでぇ

:なんという扱いにくさ

:でもこれ、魔法使い対策にはいいよね

:現状だとライフルでの狙撃ぐらいしか対策ないんだろ?

:そもそも近づくのが困難

:まず物陰を探すところから始めます、だからなぁ

:ゴブリンシャーマンくらいならどうにかなるけど

:初手メ〇ミとか飛んでくるし

:現状、盾を構えて突撃が最適解だしな



『魔法使いの脅威を理解している人が多くてなにより。分かりやすくいえば、手榴弾を無限に投げて来る、あるいは連射型ショットガンを持ってるモンスター、最悪は無限ロケラン射撃(ぶっぱ)が魔法使いと思っておけば、対処法も思いつくのではないかと。デバフ魔法を使ってこられると厄介ですけど。【眠りの雲】的なものといえば想像しやすいのでは?』



:え、スリープクラウド!?

:某TRPGの禁呪だ

:え、ガチであるの?

:実在したらヤベェ



『さすがに【眠りの雲】は実在はしていませんけど、【酸の雲】とか、もっと実際的な【電撃の雲】とかはできるらしいですよ。特に後者は麻痺を引き起こしますから、普通に詰みますね。魔法を使うモンスターと戦う際はお気を付けください。まぁ、リッチとか上位のヴァンパイア相手でもなければ、そんな魔法が飛んでくることはないでしょうけど』



:え、マジ

:なんで知ってるの?

:つか、いるのそんなモンスター



『イオちゃんはリッチと遭遇したことがあるみたいですよ。まともに戦うと死ぬほど面倒臭いから、有無を言わさずまっすぐ突っ込んでぶん殴って仕留めるのが一番早い、とのことですよ。要は、魔法を撃たせるな、とのことですね』



:そんな無茶な

:でもイオちゃんやってんだよなぁ

:さっき突撃してたし

:そこから無双状態だし

:ミニティラノの殺し方がえぐかった

:口ん中に剣をぶち込んだ奴な

:あれから平和だ

:ゴブリンの大群を処してるのが平和?



『まぁイオちゃんですしねぇ。ただ、なんで縛りプレイをしてるのかは聞きたくはありませんね。怖い答えしか返ってこないでしょうし』



:え、縛りプレイなの!?

:考えてみたら部屋の中央で仁王立ちなんだよなぁ

:仁王立ちと云うか仁王浮遊

:そういや不動だ



『うーん……この分だと、今回の探索終わりまで冗長な感じになりそうですねぇ。折角ですし、なにか質問あります? できれば今回のここまでの攻略でなにかしら疑問に思ったこととか。私に答えられる範囲でなら答えますよ』



:テイマーにはどうしたらなれるの?

:パンツ何色

:魔物溢れってどうして起こるの?



『お約束なセクハラ質問は無視しますよ。テイマーは誰でもなれます。条件さえ満たせば。魔獣の心をへし折った際、魔獣がそれを望んだ場合ですね。かなり運任せですよ。なんのかんので相性があるみたいなんですよ。今回のRDパンダはイオちゃんを師事したかったのでしょうね。

 魔物溢れの質問が来ていますね。丁度いいのでしっかりと説明しましょう。


 モンスターはダンジョンの特定複数の玄室に周期的にポップします。そして玄室には定員……というべきでしょうか。それがあります。時間経過により玄室は定員数以上のモンスターがいる状態になります。そうなった場合、モンスターは徒党を組んで玄室から出、ダンジョン内を徘徊し始めます。いわゆるワンダリングモンスターというやつですね。

 これが繰り返され、やがてフロアの定員数を超えてモンスターだらけとなるわけですが、そうなると起こるのがモンスター同士の殺し合いです。


 魔物型と魔獣型で殺し合いがはじまります。ときおり異様に強い個体がいたりしますが、こういった事情により鍛えられた個体ですね。


 基本的に魔獣型のほうが魔物型より強いため、最終的にフロアは魔獣型で埋め尽くされます。そうなった場合、余剰となった魔獣は上の階層へと溢れます。


 フロアのモンスター許容量は下層ほど少ないため、最下層から徐々に魔物溢れは上に上にと上がってきます。そしてダンジョン全体がモンスターの許容限界を超えると、ダンジョンは強制的に余剰分のモンスターを外部へと吐き出します。もちろんすべて魔獣型、というわけです。魔物型はダンジョン外では姿を維持できませんからね。


 これが魔物溢れの原理です。魔物溢れと云っていますが、正確には魔獣溢れですね。とはいえ、魔物溢れというのがJDEA……日本語での正式名称となっていますので、私たちもそれに倣っているということですよ』



:ハクちゃんありがとう!

:ん? 魔獣で埋め尽くされる?

:そういや、イオちゃんやサラちゃんが討伐したのって

:みんな〇体が残ってるな

:え、本当にヤバいんじゃね?



『まぁ、これからイオちゃんたちが定期的に始末していくでしょうから、魔物溢れはどうにか抑えられるんじゃないでしょうかねぇ。もちろん、他の探索者さんたちも頑張ってくださるでしょうし。そもそもモンスターの間引きが探索者のお仕事ですしね』



:心配だけど……

:イオちゃんのこの無双っぷりを見ると安心だな

:上野自体は初心者が経験を積むのに適してるしな

:本格的な魔物の間引きは自衛隊にお任せかな



 ……。

 ……。

 ……。



『まさか4層に溜まったモンスターをほぼ一掃するとは思いませんでしたね』


:イオちゃんすげぇ

:【魔寄せの指輪】こえー

:指輪は拾っても鑑定するまで嵌めるのやめよ



 かくして本日の配信は終了……なんだけれど。


 ふむ。サラのほうからの映像送信がそのまんまだな。よし。


 BGMを切り、マイクをミュートにする。ついでにサキエルにふたりに配信が続いていることが露見しないように手を打ってもらう。


 と、そうだ。サラのスマホを遠隔操作してミュートにして、配信の音声が流れないようにしておこう。……うん。配信付けたまんまですっかり忘れてるみたいだ我が妹分は。


 なんだか微妙に抜けてるんだけれど、これが5世代型ってことなのかな?


〔配信は終了といいましたね。それは嘘です。ということで、基本ミュートの状態で配信を続けます。あ、送られて来る映像の音声は若干下げますので、皆さんのほうで音量調整をお願いしますね〕


 画面に字幕のように文章を書きだす。とりあえずこれで視聴者とはコミュニケーションをとれるだろう。



:ん? ハクちゃん?

:え? なにをする気なの?



〔この方が面白いと私のゴーストが囁いているんですよ。問題ありません。丁度取引の関係でJDEAの方がこちらに来ていまして。事務所内の撮影許可を貰いました! ふふふ、抜かりはありませんよ〕


 地上に戻ったサラたちは、まっすぐダンジョンエリカから出て、上野ダンジョン事務所へと向かう。


 そして帰還の報告をすると、なぜか所長室へと呼び出された。


〔ふふふ。私の勘が当たりましたね。トラブルの予感ですよ。前回のライブ配信に続き、今回もなにかしら大変なことになりそうですね〕


 そんなことを打ち込んだところ、冗談じゃなしにトラブルとなった。話から察するに、この武内なる所長は配信をみていたのだろう。


 だがイオちゃんたちと話している現状、その音声は聞こえてこない。すでにブラウザを落としているのか、それとも――


 竹内の後方にみえる執務机の上に、羽がひらりひらりとひとつ落ちていくのが見える。


 なるほど、サキエルがしっかりとやってくれたようだ。


 かくして、武内所長はやらかした。


 なんだろうね。どうしてこういう搾取万歳なのが出世してるんだろうね。正直者は馬鹿を見るって言葉があるそうだけど、それは真理と云うことなのかな?


《ったく。ガタガタとよくもまぁ回る口だな》


〔あ、イオちゃんキレた〕


:うわぁ

:ひでぇ

:あからさまに強盗じゃん

:これまでもやってたのかな?

:だろうなぁ。手慣れた感じだもん

:被害者ー! 被害者さんはいませんかー!

:訴えるならいまだぞー

:便乗詐欺師が出そう

:イオちゃん!?



〔残念。上野ダンジョン終了のお報せです。魔物溢れは要請を受けた探索者さん頼みですねぇ。イオちゃんが宣言したので、我ら神令家は今後上野ダンジョンにはいっさい関わりません。やー、念書とはいえ、しっかりと神令の名で記しましたからね。どこぞの国じゃあるまいし、所長のクビを挿げ替えたところで、この念書はなくなったりしませんからね。念書自体に効力などさしてありませんが、我々がするかしないかだけですしね。国家が介入してくるのならば、とっととこの国を捨てるだけです。我々にはすでに前科がありますからね。さしたる問題ではありません〕



:ちょっ!?

:あーあー、どうすんだよこの親父

:どうやっても責任取れねーじゃん

:せっかく神令が戻ったのに!!

:JDEAはどうなってんだよ!



〔昨日お会いした本部のみなさんはしっかりしていましたよ。松戸事務所の方々もしっかりしていたそうですし。これはもう、それなりに人気のところの所長は増長して懐を肥やしてるってことなんでしょうかね? そもそもマジックバッグを奪ってどうする気だったんでしょう? あれ、イオちゃんがあっちで10年以上一線級で仕事をしていたにも関わらず2つしか手に入らなかったものですからね。それを高飛車に馬鹿にしながら寄越せとか。人間性終わってます。

 あ、こっちに来ていたJDEA職員さんは、武内所長の言を聞くや血相を変えて飛び出していきました。多分、品川へ向かってるんじゃないでしょうか〕



:ガチで終了のお報せじゃん

:このおじさん、どうするんだろ?

:コピー用紙代www

:うわぁ、剣が山になってる

:まだ出て来る

:2万本以上だもんなぁ



 ふたりは事務所を出、そのまま地下鉄駅ホームへと着替えもせずに移動した。


 さて、そろそろ配信が続いていたことを暴露しよう。


 またしても遠隔操作でサラのスマホのミュートを解除してと。よし、会話に合わせて乱入だ。


『サラリーマンみたいだねぇ。まぁ、定時上がりのサラリーマンなんて希少種だろうけど』


 私がそういうと、ふたりは驚いたように声を上げた。


 ふはは。計画通り。


 さて、ちょっと話して今度こそ配信を終わりにしよう。



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