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030_上野ダンジョン攻略_③


 上野ダンジョン1層。そこは普通の迷宮型のダンジョンとなっていた。


 ただ、その作りは現代の建造物といった感じだ。雰囲気的には公共施設のような感じだ暖色に塗られたコンクリート製の建造物。そのようにしか見えない。それに加えて天井は石膏ボードのようにみえるし、おまけに蛍光灯を模した照明まである。


「地下一層……というか、普通にダンジョンの1層ですね。ここと2層、3層、そして4層も分かっている部分ははこんな感じとのことですよ」

「……まさかと思うが、ダンジョンの範囲すべてがこんな迷宮なのか?」

「そのまさかです」


 おぉぅ。


「町サイズの迷宮とか。普通なら絶対に踏み入りたくないな。遭難待った無しじゃねぇか。……あぁ、だからいまだに3層までしかマッピングできてねぇのか」

「厄介ですねぇ。いるのがゴブリンがメインだとしても、何度も戦いたくありませんからね」

「えーっと、ポップするのはゴブリンだけと思われると。あー、オークやラプトルなんかは、下層から上がって来てんだな」


 EXPにDLしておいた上野ダンジョンのマップデータを確認する。本当、よくできてるよなぁ、これ。

 いまだたどたどしい手つきが慣れたものになるのに、どれだけ掛かる事やら。


「どれも複数で行動していますから、連戦だと辛いですよね」

「銃弾、矢玉と足りなくなるよなぁ」

「姉さんは……心配ありませんね」

「俺の使ってる銃の弾丸は魔力だからな。銃の形をした魔法触媒だし。魔力量だけは徹底して鍛えあげて増やしたから、おかげで銃を連射したくらいじゃ回復量で相殺だよ」

「いかに【魔法弾】が低燃費とはいえ、それもおかしいんですけどね」

「サラも問題なくできるだろうに。えっと、この先の玄室に下への階段があるな。とっとと降りよう」


 サラが足を止めた。


「探索をしないのですか?」

「マップも出来上がってるんだし、いらないだろ。いまさら浅層部でアイテム集めもないだろうし」

「“肖像画からはみ出して来る手”とか、“笑い転げる土偶”とか見たかったんですが」


 なんだそりゃ。


「トラップかなんかか?」

「はい。展示されていた芸術作品やらなんやらがダンジョンに取り込まれた結果、魔法生物的ななにかになりましたから。より正確には、それらをモデルとして生み出されたモンスターです。基本、ポップしたその場から動かないので、ほぼオブジェですけれど」

「あー。イミテーターとかミミックみたいなもんか。……だがその土偶は意味不明なんだが」

「ある種の洗脳系能力のあるモンスターです。といっても、強力なモノではないものの凶悪なモノといいましょうか」

「は?」

「釣られて笑い出してしまうんですよ。【呪文使い】殺しであるのはもちろんのこと、普通に戦闘に影響を与えます。腹筋を崩壊させるデバッファーですね。そこにゴブリンの1隊が来ようものなら、普段は楽勝であるゴブリンが途端に強敵になります」

「地味に嫌だな、それ」

「類似のものに“踊り狂う埴輪”がいます」

「踊り狂う埴輪……」

「ダンスの種類はブレイクダンスとのことです」

「埴輪でどうやって踊るんだよ」

「無理矢理……なんでしょうか。最終的に爆散して周囲に被害を出すそうですから」

「自走式の手榴弾かよ」

「爆散後、数秒で復元して再度踊り狂うそうですよ。そしてまた爆散します」


 うわ、面倒臭ぇ。


「一応、モンスターなんだよな。ってことは、倒しちまえば無限自爆は止まるのか」

「ハンマーなどで粉砕しなければならないようですけれど。それ以上に問題なことは、あまりにもトリッキーに素早く動くため、叩き潰す前に自爆されてしまうということですね」

「厄介極まりないな」


 モンスターに遭遇することも無く、2層への階段へと辿り着いた。


「労せずして2層まで来れましたね」

「これなら探索も進みそうな気もするんだが。……3層への階段も近いし」

「このルートは下への移動距離が最短となりますね。10年ほど前まではよく使われていたルートです」

「そうなのか? それがなんで使われなくなったんだ?」

「姉さんがやりこめたパンダを突破できなかったんですよ。迂回路の方にはいわゆる中ボス枠の魔物型モンスターがいますから」

「中ボスねぇ」

「カバ、の魔物なんですが、ほぼベヘモスのような魔物ですね。これまで討伐実績はありません」


 ベヘモスはオーマにもいたが、さすがに表層にはいなかったな。一番浅いところにいた奴でも、確かレベルが5000くらいあったハズだ。表層ならかなり弱個体で生成されてるんだろうが、それでも4桁近くはあるはずだ。


「ベヘモスか……無駄にしぶといから厄介なんだよな。魔物型ってことは魔獣型よりは弱いんだろうが、死ぬまで弱ることはないってのがなぁ」

「次回にでも狩りに行きますか?」

「肉が落ちるなら行く。まぁ、魔物型から肉が出るなんてほぼないからないな」


 ベヘモス、美味いんだよなぁ。ただ狩る労力を考えると、魔物型をわざわざ狩るのはないな。


 無駄話をしつつ進み、さっさと3層へと下りる。まるでお散歩気分だが警戒をしていないわけではない。


 道中は俺が索敵して、サラが魔法で対処する形で進んでいる。4層への階段までの距離は600mといったところか。


 道中で行った戦闘は4回。いずれもゴブリンの小集団だ。


「ゲームっぽくやってみましょう」


 なんて云って、サラは国民的RPGに登場する呪文――というか呪文名を唱えつつ殲滅した。


 ただ、4戦目だけ少々毛色の違う集団だったが。


 ゴブリンの頭数は6と、これまでとさして変わらない。だが今回はそれを絶対的に統率するリーダーがいた。


 埴輪だ。


 馬型の埴輪ってあるだろう。あれに乗った埴輪だ。埴輪騎士……いや、日本産の埴輪がモデルだから埴輪武者か? まぁ、どうでもいいか。


 遭遇したのは美術館や博物館のような展示室みたいな大部屋だ。もちろん、展示用のケースだのなんだのが並んだ障害物だらけの部屋だ。


 埴輪武者は馬の機動力が障害物で殺されているため、ほぼ置物だ。だがゴブリン共にとってはこの障害物は願ったりだろう。


 有利に戦える。そう、連中は思ったに違いない。


 だが相手をするのは魔術師(自称)のサラだ。


 爆轟魔法を部屋の真ん中に放り込んで終わった。まったくもって身も蓋もないな。


 相当頑丈なハズのダンジョンオブジェである展示台もひっくるめて爆破したため、それらを盾としていたゴブリンはもとより、後方で突っ立っていた埴輪武者もまとめて殲滅してしまった。


 魔法によって吹き荒れた爆風の影響は酷いものだが、俺たちはまったく問題ない。


 爆風を受け流すように、念動で盾を張っていたからな。


 そしてサラはというと、この目の前の惨状に満足気な表情を浮かべていた。いわゆるドヤ顔というやつだ。


「……なー、サラ」

「なんでしょう、姉さん」

「埴輪馬に乗った埴輪武者なんて珍しいモンがでてきたわけだが、それをこうもあっさり蹂躙してよかったのか?」

「そうはいいましても、浅層のモンスター相手では無双しかできませんし」

「配信してるの忘れてないか?」

「……あ」


 あぁ、忘れてたんだな。


「ど、どどどどうしましょう!?」


 どうしましょうと云われてもな。


「あの埴輪は交戦記録とかあるのか? 俺はあんなモンスター初めてみたんだが。そういやレベルはいくつくらいだったんだ?」

「522でした。3階層のモンスターとしては異常な高レベルですね」

「そうだな。高くても300くらいのハズなんだが。特異個体か、それとも亜種の歴戦個体かね。あぁ、下から登って来た可能性もあるか」

「ちょっと調べてみますね」


 サラがEXPを操作し始めた。


「記録にはありませんね。埴輪武者単体であるなら、3層での交戦記録があります。まともなダメージを与えられず、撤退したようですが」

「あー、固かったんだな。素焼きの焼き物みたいな見た目してるが、あれ、ゴーレムの類だろ? 魔力で括られている以上、そこらの装甲車くらいの固さはあるだろ。現状の携帯兵器じゃ倒すのは厳しいだろうな」


 そんなことを呟いたところ、サラが凝視してきた。


「どした?」

「姉さんなら、どう戦うんです?」

「どうもなにも、突っ込んで銃でぶちぬく、もしくは剣で叩っ斬るが」

「装甲車ですよね?」

「高レベル冒険者ってのは、そういうのを普通にできるのが普通だぜ。あの山常でも……あぁ、いや。あいつだと凹ませるのが精々で、グレソはポッキリ折れそうだな」

「手厳しいですね」

「だってアイツ、パワーだけで技術がねぇんだもんよ。振り回すだけなら誰でもできらぁな。筋肉さえあれば」

「身も蓋もありませんね」


 ドロップ品を探して回収し、先へと進む。魔獣型であったため、回収するには血肉で酷い有様なところから拾うことになるが、もう慣れたものだ。死体を切り開いて魔石も取り出す。得られたドロップ品は刃毀れしたダガーと魔石のみ。手間に見合うかと云うと、とてもじゃないがそうとはいえない。ゴブリンが不人気な理由だ。だが実戦経験を積むには最適であるため、痛し痒しというところだろう。


 で、埴輪も魔獣型で死体……いや、残骸? は飛び散っていたが、魔石もドロップ品は無事だった。ドロップ品は100%でるとは限らないから、今回は運が良かったな。


「サラ、鑑定よろしく」


 埴輪がドロップしたと思われる、掌サイズの馬型の埴輪をサラに渡す。


「……これは、面白くはありますが、使い勝手はどうなんでしょうね?」


 ん? なんだこの反応は。


「なんだ? 変なもんだったのか?」

「変な物というか、馬ですね」

「馬なのは分かってるが」

「騎乗できる携帯馬、とでもいいますか。一定魔力を通すことで、普通の馬サイズの埴輪になります。効果時間は1分。ですが、騎乗している限りはその状態をキープできる、とのことです」

「おー。便利っちゃ便利だが、俺たちにゃ不要な代物だなぁ。売っ払うか」

「持ち運びできるゴーレム馬とか、まず浅層ではでませんよね。あの埴輪、どこから登って来たんでしょうね」

「もしかしたら中ボス枠だったのかもなぁ。ボスはボス部屋から動くことはねぇけど、中ボスは割と自由に動くからなぁ」

「あー。ワンダリングボスというやつですか」

「そうそう。といっても滅多に階層移動はしねぇんだけどな。そういや、4層からは探索が進んでいないんだったか。ってことは、モンスター溢れが起きてんのかも知れねぇな」


 モンスター溢れ、スタンピードなどとも呼ばれるダンジョン災害。ダンジョンから溢れだしたモンスターが周辺地域に被害をもたらし、さらにはそこで繁殖を始めるのだから始末に悪い。


 ダンジョンから外へと出るのは魔獣型モンスターのみで、そいつらはダンジョンから出た時点で生物として活動を始めるからな。


「モンスター溢れ……上野ダンジョンが大規模中の大規模なダンジョンでしたから、これまでそういったことが無かったのでしょうか?」

「だろうよ。広すぎる分、それだけモンスターの許容量も大きいんだろ。だがモンスター溢れが起きたら、基本の数以上の魔獣は強制的に排出されるからな。この規模のダンジョンだ。被害が洒落にならんぞ」

「……えぇ」


 サラがいまにも頭を抱えそうだ。そらそうだ。俺たちがモンスターを掃除するにしても、ガチで本気を出してやるわけにはいかない。


 いや、俺はいいんだが、サラは天使様だからな。モンスターの討伐速度なんぞ俺なんかじゃ足元にも及ばん。だがそれをさすがに配信するのは問題でしかないし、配信をせずとも異常な成果は問題だ。


 あー、いや。最悪、ゼルエルたちを動員すればどうにでもなるか。


 とにかく、未踏の4層へと下りてしまおう。



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