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028_上野ダンジョン攻略_①


「姉さん、本日は上野へ行きましょう」


 朝食中、サラが突然今日の予定を云った。


 昨日JDEAであれこれやって来たばかりだというのに元気なことだ。


 というかだ――


「昨日の契約やらなんやらの関しては、なにも問題ないのか?」

「大丈夫です。ドラゴンの保管……保全? に関して聞かれましたが、ラノベ等であるような、アイテムボックス的能力のある大容量バッグがあると嘯いておきましたので」


 おいおい。大丈夫かそれ?


「一応ダンジョン産出品でいくつか実在していますから、問題ありません。実在しているものも、その容量はちょっとした納屋程度の収容量がありますから、ドラゴンの1、2頭入るものがあっても怪しまれはしません」

「あぁ、そんなのがある……んだ? そこまでのサイズはオーマじゃ聞いたことも無い……」


 俺はハクの方に視線を向けた。


「なんで私を見るのかな? 大丈夫、嘘じゃないし、私たちが情報操作したわけでもないよ。さすがに嘘を事実にするために、そんな代物を適当にばら撒いたりしないって。ちなみに、それらの物品はすべて国家所有だね。サラのもっていることにしてあるやつは、黒竜ダンジョンなり銀腕ダンジョンなりのボス報酬とでもいえばいいよ」


 そう云って彼女はパニーニを齧った。彼女はこのところこのホットサンドがお気に入りだ。彼女の興味は『食』、それも食べる方ではなく調理の方面に向いているようだ。すくなくとも現状は。


 サンドイッチを押しつぶすようにして焼く? 代物なんてハクに作ってもらうまで知らなかったからな。


 なんでも、こうしたほうが食感による美味しさが増すとかなんとか。まぁ、俺としては美味しければよいのだ。


「あ、そうでした。一応、報告を」


 ホットミルクの熱さにたじろいでいたラクが手を挙げた。ハクが情報収集、操作、精査の為の助っ人として新たに呼んだ天使様だ。


「方々からあれこれ煩わしい勧誘が来ていますが、すべて蹴っておきました」

「勧誘?」

「勧誘です。勧誘と呼ぶには微妙なものもありますが。幾つかのクランと企業から打診がありました。双方共に探索者としての勧誘です。それ以外には国家からのものですね。日本とスコットランドからです。ライラのやらかしが原因とはいえ、関わり合う必要は一切ないのですべて蹴ってあります。黒竜討伐の動画の影響は思いのほか大きいようですね」

「あー……。金の生る木が欲しいって連中ね。うん。どうでもいい」

「権力による強制も心配しなくていい。すでに対処した」


 この妙に凛々しい雰囲気の彼女はサキエル。遅れて合流した天使様だ。役割はなんといえばいいんだ? 刑罰の執行者? 俺たちの活動を邪魔する輩を黙らせる役割の天使様だ。

 なにせ来た時の最初の言葉が『JDEAの専務だか常務だかを粛清してきた』だったからな。山常の飼い主だった元政治屋だ。なにをどうしたのかは知らないが、こいつは役職を辞任して行方をくらましている。そのせいでJDEA上層部は少々混乱しているようだ。


 あ、行方不明となっているわけだが、始末したと云うわけではないようだ。単にビビり散らかして遁走した結果とのこと。尚、潜伏場所はハクとラクが特定しているとのことだ。


 ……ん?


「サキ、もしかして天使と神令は関りがあると宣言でもしたのか?」

「いや。ある種の洗脳を施した。我らに関するくだらない考えを持とうものなら、直後にその考えを忘却する。結果として、我らに下らぬことを実行することはできない。さらに“神令は我らの手駒”と認識させてある。そもそもライラがそういう家系だと情報を植え付けてあるからな。よって、迂遠な方法でも手を出してくることはなかろうよ。あのような下衆な輩ほど命に執着するものだ」


 あー、神様が実在すると分からせたわけね。そらビビり散らかすわな。


「まぁ、そういうのは任せるよ。そういうのの対処は苦手だ。んで、サラ、上野ダンジョンはどんなダンジョンなんだ?」

「大規模浅深度ダンジョンとなります。上野動物公園と周辺美術館、博物館を含めた広範囲のダンジョンとなります。深度はおよそ40階層となります」


 ん?


「およそ?」

「はい。ダンジョンそのものは現状もあの破滅神の勢力下となっています。そのため、外殻と一階層の高さからの憶測でしか測れませんので。松戸ダンジョンはビルがモチーフともあり、階層が規則的でしたのでほぼ正確な階層数を割り出せましたが」

「あー、そうこうことか。しかし大規模にしても、相当でかいな。動物園だけならともかく周囲の美術館だのもとなると、ちょっとした町レベルじゃないか? そんなのオーマでも数えるほどしかなかったし、確か深さも10層前後だったはずだ。それが40層って、下手すると探索に年単位で掛かるぞ」

「ある程度はマップが完成しているので、3層までは問題なく進めます。そこから先は手さぐりとなりますね」

「さほど進んでないんだな」

「情報収集とその統合がされ始めたのが、2010年以降ですから。上野は広い上に厄介なことになっているため、探索は進んでいません」


 あー。2000年のダンジョン生成災害を考えると、10年で組織やらなんやらがまともに機能し始めたわけだし、早いというべきか。動物園と周辺の美術館やらを含めた広さとなるとなぁ。でも厄介な事ってなんだ?


 疑問に思いサラに確認する。


「美術館や博物館ではイベントが行われたりするじゃないですか。海外の美術品を借り受けての展示会とか」

「あー。あるな」

「そういった展示会、過去に行われたものも含めてダンジョン化の際に参照されたようで」


 ん?


「恐竜展というものがですね……」


 ちょ、嘘だろ!?


「え、まさか恐竜がモンスターとして生成されたりしてんのか?」

「……はい。幸い、ダンジョンの出入り口のサイズの関係上、魔物溢れで外に出てくるのはラプトルのような小型のものだけですので被害はほぼないのですが、ダンジョン内は難度が高くなっています。現状、記録上ではラプトルとプロトケラトプス、シャモティラヌス以外は確認されていませんが、不明である4層以降には大型の恐竜が闊歩していると思われます」


 うわぁ……。


「まぁ、魔法とか、理不尽なブレスなどは吐いて来ないので、対処の面倒さはありません」

「そら物理攻撃だろうけどなぁ」

「あぁ、あと、ゴブリンとオーク鬼がいますね」

「は? いや、なんでゴブリンとオーク!?」


 思わず俺が問うと、サラは真面目な顔で考えるように首を傾けた。


「……緑色だからじゃないですかね?」



★ ☆ ★



 電車に揺られ、北千寿で乗り換え地下鉄で上野へと向かう。


 上野駅自体は危険区域内にあるため、一般人の利用は出来ないように制限されている。


 不定期的に魔物溢れが起こるのだから、それも当然だろう。まぁ、上野ダンジョンはいままで一度も起きてはいないようだが。

 上野駅も周囲を壁で覆っているため、その様相はまるで砦のように変貌している。


 いや、砦と云うよりは刑務所のほうが近いか。


 上野には何度か来たことがある。そう、数えるほどだ。個人的には御徒町が都内に出る際にはよく環状線への乗り換えに使ったな。


 いや、地下鉄仲御徒町での乗り換えをすると、電車料金が若干安くなるのだ。仲御徒町と秋葉原とで料金の区間が丁度変わるんだよ。けち臭いと云うなかれ。貧乏学生は削れる出費は僅かでも削るのだ。例えそれが数十円だとしても!


 と、それはどうでもいいか。


 上野だが地下鉄上野駅と環状線の上野駅が完全に結合するように改築されている。というか、駅の出入りが一ヵ所にされているようだ。


 やや薄暗いホームをテクテクと進む。この先の階段を登り改札をでた先がJDEAの事務所となっているとのことだ。

 もはや駅という感じではないな。この駅に関しては、その管理は鉄道会社ではなく、JDEAが代理で行っているというし。


「一般人の立入を禁じているとは聞きましたが、徹底していますね」

「そうなのか?」

「えぇ。駅に関してだけのようですが。上野ダンジョンは最上層……地上部もダンジョン化しているため、その周囲を塀で覆っています。とはいえ、その塀をよじ登って越える阿呆が年にひとりふたりいるそうです。主に一般外国人であるようですが」


 俺は目を瞬いた。


「馬鹿なのか?」

「どうなんでしょうね。5mの高さ、上部には有刺鉄線が設置されているところを乗り越えて無理矢理渡り、転落しては大怪我をして救助されるのが常のようですが」

「いや、本当になにやってんだよ」

「迷惑系配信者と云うのは業が深いですね」


 深いが不快に聞こえたのは気のせいか?


「つか、5mから落ちてどうなったんだ? 普通に怪我はしてんだろうが、死んだりしてないのか?」

「何度かそういう事件があってから、塀の内側にクッションのようなものを敷き詰めたようです。転落防止のネットなどを設置すると、それを土台にモンスターが外に出てしまう可能性がありますから、次善策というか苦肉の策というか。JDEAとしては無駄な出費ですね」

「しかし、探索者になりゃいいものを。なんでそんなことをしてまでダンジョンに入りたいかね」

「それは上野が世界で唯一だからです」


 む?


「現状【恐竜】が闊歩しているのは上野ダンジョンだけです。他所にも恐竜系のモンスターが出現するところはありますが、他はすべてスケルトンとなっていますから」

「あー……。生物の体を成しているのがここだけなのか」

「はい。とはいっても、学者が想像した復元図に基づいた姿ですから、実際の恐竜と同じかと云うと疑問ですけれどね」


 そういや、羽毛が生えていたっていう説もあるんだったか? ここのモンスターとしての恐竜の資料は見たが、見る限り映画の【ダイナソーアイランド】みたいな感じだったな。


 つか、それを映像に収めようってことか。


「食われるとか思わないのかね?」

「自分だけは大丈夫と思うんでしょう。きっと」


 自動改札を抜け道なりに進むと、すぐにJDEA上野ダンジョン事務所へと到達する。


 自動ドアを通り抜ける際、サラが「簡易な認識阻害を掛けます」と云った。


 事務所内には何人か探索者詰めていた。なんでこの時間に事務所でたむろしているのかは不明だが、関わり合いになるのはごめんだ。


 いや、俺たちの容姿が容姿だからな。俺は完全なお子様な有様だからともかく、サラは大問題だろう。


 たむろしている連中も、軽薄そうな男性探索者ばかりだしな。パーティの面子探しかもしれないが、それならメンバーの募集をJDEAに願えばいいだけだ。そうすれば管理課の連中が斡旋をしてくれるんだから。


 彼らを尻目に真っすぐ進み、受付に入ダン許可を取り付ける。ライセンスを提示し、ギョっとされるのはもう諦めるしかないんだろうな。


 問題なく許可を取り、更衣室で着替えダンジョンに向かう。


 砦と云うか要塞というか、そんな物々しい有様に変貌した上野駅から出ると、見えるのはこれまたコンクリの壁だ。


 なるほど、こいつが5mの壁か。こいつをよじ登るとすると、鉤爪のついたロープとかを使ったのかね。さすがに梯子なんぞを持って歩いてたら目立って捕まるだろうからな。


「そういや今日は配信をするんだろう? 【アダム君】は出さなくていいのか?」

「あ、そうでした。いま準備します」


 問うと、サラはゴロゴロと引いていたキャリーバッグからマナクラフト【アダム君】を取り出した。


 マナクラフト。魔力を利用してフヨフヨと自律浮揚する魔道具、いやさ機械だ。ドローンだっけか? それと近いものいえるだろう。


 いや、ドローンは自律行動とかできないから、こっちのが上だな。稼働時間も無制限みたいなものだし。


「配信は10時から開始しましょうか」

「はいよ。あー……あと7分ってところか」

「今日はどのあたりまで探索しますか?」

「マップがほぼ出来上がってる1~3層はまっすぐ抜けて、未踏査の4層から探索すればいいだろ。18時で撤収な」

「時間で決めるのですか?」

「大規模ダンジョンなんて、一気に探索を進めるもんじゃねーよ。それに、ここで一気にクリアなんてしてみろ。余計に面倒事が起こるってもんだ。せめて10回くらいに分けてやらんとダメだろ。松戸みたいなシンプルなダンジョンならともかくも」


 そういってやると、サラは目を細めて考え込むように口元に手を当てた。


「……そうですね。やっかみは面倒でしかありませんからね」

「そういうことだ。そろそろハクと連絡をとったほうがいいんじゃないか。それともダンジョン内に先に入るか?」

「先に中に入りましょう。ゲート通過を配信するのも問題ですしね。ライセンスが映るかもしれませんから」


 【アダム君】がふわりと頭上にまで浮き上がり、その姿が消える。いや、実際には消えたわけじゃない。認識阻害の魔法であって、光学迷彩でも透明になったわけでもないからな。だからカメラなどの映像機器にはしっかりと映し出される。


 さて、これで準備は整ったな。それじゃ、上野ダンジョンの攻略をはじめるとしよう。


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