022_APPENDIX:呪文使い/魔法使い/魔術師
■APPENDIX:呪文使い/魔法使い/魔術師
魔法を扱い実行するものを【魔法使い】と呼ぶが、【魔法使い】にはいくつか種別がある。
……。
いや、この云い方だと誤解されるな。【魔術師】、【妖術師】、【呪術師】というような種別ではなく、もっと大きな枠組みでのことだ。
……。
あー、どうにもうまく説明が出来てないな。とりあえず、それについての説明を始めよう。恐らく、聞きさえすれば「そういう大別か」と分かるはずだ。
まず、魔法を扱う者は、次の3種に大別される。
・呪文使い〔Spell Caster〕
・魔法使い〔Magic User〕
・魔術師〔Mage〕
この3種だ。【召喚術師】だの【死霊術師】だのは、魔法の方向性による種別であるから、上記3種とはまったく関係ない。あぁ、それと【属性】から得られる【能力】による魔法に関しては例外であるため、そういった魔法を扱う連中は魔法職からは基本除外される。
では、それぞれについて説明していこう。
■呪文使い
これは誰でも成ることのできる魔法職だ。そりゃそうだ。魔力さえあれば誰でも成れる。必須となる魔法触媒(魔法発動体と魔法辞書を備えた物品)さえあれば、誰でも魔法を使えるからな。
ただ【呪文使い】と呼ばれるようになるには、複数の魔法を状況に応じて的確に選択し発動することが条件といえる。
【呪文使い】の利点は、誰でも気軽に成れることだ。まさにゲーム的な魔法職と云っていい。どういうことかというと、店で魔法を買い、それを使う。これだけだからだ。修行だのなんだのは必要ない。
魔法触媒の魔法辞書に、買った魔法を刻む。そしてその魔法を発動するための呪文を唱えれば、魔法が発動する。簡単だろ。呪文を暗記しなくちゃならないのが面倒だが、魔法職としては非常にハードルが低いといえる。
そして欠点。これは魔法の威力、範囲が完全固定となることだな。いわゆるテンプレート魔法しか扱えない。これは魔法を手軽に扱うための代償だな。
■魔法使い
基本は【呪文使い】と一緒だ。しっかりと技量を磨けば【呪文使い】から成ることもできるクラスだ。
魔法を扱うために必要とするものは魔法発動体のみ。魔法辞書は必要ないのかって? それは自身の頭となるんだ。
そう、魔法そのものを自分で学び、身に着け、実行するのが【魔法使い】だ。
まさに修行して魔法を身に着ける、といった魔法職だな。だが、扱える魔法はテンプレート魔法に限定される。もっともテンプレート魔法そのままではなく、その制限が少しばかり緩和されているものだ。いや、応用が可能となっているというべきだな。
魔法の仕様自体は変わらない。【火球】であれば、火の球を生み出し撃ちだす魔法だ。【呪文使い】は威力固定で単発でしか発動できない。というのも、そういう仕様にテンプレート化された魔法だからだ。だが【魔法使い】であれば、【火球】は敵に向かって撃ちだし炸裂させるという点は一緒だが、威力、個数の増減が可能となる。
また、他の身に着けている魔法の機能を追加することもできる。普通の【火球】に【追尾魔法弾】の追尾能力を加えたりとかね。
魔法に関する論理だのなんだのをしっかりと覚え、理解し、その上で魔力操作だのなんだのを身につけなくてはならないから、【呪文使い】よりも遥かにハードルは高い。が、それらの技術を修め【呪文使い】から【魔法使い】となったなら、確実に一線級でダンジョン攻略をすることができるだろう。
もっとも、【魔法使い】のクラスとなるためには最低限、攻撃系、回復系、隠密系、探査系の魔法を身につけなくてはならないが。これに加え、防御系の魔法もあれば安泰だろう。
あぁ、これはあくまでもソロ活動の場合だ。パーティを組んでの活動を目指すのなら、一点特化にしてもいいだろう。砲台を目指すもよし、回復役や補助役を目指すもよしだ。
■魔術師
はっきり云おう。化け物だ。【魔術師】と呼ばれるクラスに成れるものは、まさに天賦の才と資質に恵まれた者だけだ。先の2クラスと違い、誰でも成れるというものではない。もちろん、魔法触媒だって不要だ。
【魔術師】は自身が想像する現象を魔力を用いて引き起こす存在だ。よって、魔法の形式なんてものは存在しない。
できること、というよりも出来ないことを列挙した方が早いな。
生命を生み出せない(自身の妊娠出産は別)。死者を復活させることはできない(死亡直後であれば可能な場合もある)。時間を操作できない。
……これくらいか? あと出来ないことと云えば、魔力が足りずに魔術を実行できない様な事だけだ。
例えば、月を地球に落っことすなんて無茶は不可能だ。さすがに魔力がいくらあっても足りない。
云っていることがかなり無茶苦茶だろう? 言い換えれば、そういったレベルの事でなければ【魔術師】はいかな事象をも引き起こすということだ。
【呪文使い】や【魔法使い】の扱う魔法は、唱える呪文から使う魔法を察知することが可能だが、【魔術師】の魔法――いや魔術は、基本的に呪文詠唱なんてものはないため、察知が困難なうえに、まず回避不能な事象を引き起こすため、まともに戦うことなどできない。
魔力を望んだ形に具現化するのが【魔術師】だ。そして【魔術師】が使う術は、魔法と違い画一化されていないため、“魔術”と“魔法”は別個のものとされている。
もしダンジョンで、魔法触媒と思しきものを持っていないのに魔法を使う人型モンスターと遭遇したら、なにも考えずに逃走することをお薦めする。戦闘を挑んだ場合、勝ち目の有無関係なしに、甚大な被害を受けることはほぼ確定だ。勝てたとしても撤退することになるだろうし、復帰まで時間もかかるだろう。それを考えたら、とっとと逃げた方が得だ。そうだろう?
近く、JDEAから魔法触媒と魔法が販売開始される。値段がいくらになるのかは知らないが、興味がある者は問い合わせてみるといいだろう。
あぁ、ただ、それらは工業製品ではなく、すべて手作業による製品であるから、もしかしたら受注生産となるかもしれない。手に入るまで少々時間がかかるかもしれないな。
そうそう、魔法に関してだが、ダンジョンから発掘されながらも死蔵されていた魔法陣、即ちテンプレート魔法の解析が進み始めたから、こちらも魔法触媒と同時に販売がはじまるとのことだ。【呪文使い】であるなら、気軽に成れるだろうから挑戦してみるのもいいだろう。
魔法を使い扱いに長けてくれば、ほどなくしてクラスが【呪文使い】となるはずだ。
★ ☆ ★
「……。こんなところでいいか?」
「はい。十分だと思います」
撮影内容にサラは実に満足そうだ。
しかしだな。
「思うんだが、魔法関連の話は俺じゃなくてサラの方がいいんじゃないか? サラは魔術師系クラスなわけだし」
「姉さん、世の中には需要と云うものがあるのですよ」
「うん。……うん? それは分かるが、なんの関係があるんだ?」
俺は首を傾げた。
「私なんかより、幼女な姉さんのほうが受けがいいに決まっているじゃないですか!!」
俺は額を押さえた。
いやいやいや、受けがいいってなんだよ。
「これがTPOというやつですよ!」
「いや、違うからな!」
なんでこんな微妙にズレた理解をしてるんだ?
「そういえば姉さん。姉さんは魔法と魔術、両方扱っていますよね?」
「ん? いや、魔法だけだぞ。正確には魔法と呪文だ。俺の使ってる【魔法弾】が魔術化していると思ってるのかもしれんが、あれ、単に魔法触媒を使わずに発動できてるだけだかんな」
「同時複数発動とかはそうでしょうけど、【魔力剣】に変化できるでしょう?」
「瞬間的にだけどな。1秒かそこらだぞ。結局はテンプレ魔法の【魔法弾】の変形に過ぎんて。魔術なんて呼べるレベルじゃないよ。変幻自在なわけじゃねーし」
「むぅ。……姉さん」
「なんだ?」
「魔術師を目指しませんか?」
「無茶いうなよ。触媒無しで【魔法弾】を使えるようになるのに、どんだけ時間がかかったと思ってんだ。俺にゃそっちの才はないぞ」
才があったら実用レベルになるまでに10年以上も掛からん。
「才が無いといいますけれど、それなら発動体無しで魔法を扱える訳がないのですが。自力発動できるほどの才があれば、ほぼ問題なく魔術師として大成していますよ」
「オーマでならな」
俺はサラに答えた。
そうか、そこで誤解されたか。
オーマと地球の違い。些細な事ではあるのだが、それが結果を大きく変えていると思える。恐らくは、地球では魔術師モドキな魔法使いが大量にでてくるだろう。
「地球とオーマでは違いがあるんだ。俺がこんな半端な魔法使いになったのは、俺が前世を思い出したからだ」
「……どういうことです?」
「こっちのエンタメだのサブカルだのが原因だよ。サラも観ただろ? 映画、ドラマ、演劇。内容も多種多様。リアリティ溢れるモノからSF、ファンタジー、ホラーとなんでもござれだ。もちろん、魔法が扱われる作品だってある。
地球にゃ地味ーな超能力者はいるが、お話にでてくるような魔法使いなんて実在しない。だから想像からそれらを生み出した。それこそ、彼らの修行過程までも含めてな。
恐ろしいことに、それらの知識ってやつがオーマでの実際の修行と微妙にズレてはいるが間違ってはいなかったりするものもあるんだ。ついでに、日本で学生時代に学んだ基礎的な物理、化学だのの知識がそれらを補った上、オカルトが親和性なんてものを持たせるんだ。結果、俺みたいな微妙なイレギュラーが出来上がったってわけだ」
「えぇ……」
「恐ろしいことにそれが事実だ。まぁ、俺の場合、それに加えて気孔について教え込まれてたこともあるだろうが。あれ、魔力操作に通ずるものがあるんだ」
「……気孔って、武術のほうの技術ですよね? 今度調べてみます」
「なんか、ロクでもない術が生まれそうな気がするんだが」
「大丈夫です。神の権能に比べたら可愛いものです」
「比べる対象が間違ってるだろ、それ」
「そうかもしれませんが、もう手遅れですよ」
「なにが」
「シャティさんが色々と試していますからね」
その言葉を聞き、俺は頭を抱えた。




