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020_配信をしよう_②


「あー、あー。聞こえていますでしょうか? イオ・サラChのサラです」

「おはようございます。イオです」



:おはようございまーす

:おは……あれ?

:思ってたのと違う!?

:というかなにこれ?

:草



 視線を感じ、隣に目を向けるとサラが思いっきり俺を凝視している。


 その驚いたような顔に、俺は首を傾げた。


「……え、姉さん、どうしたんですか?」

「なにがです?」

「口調が……」

「丁寧に話すのは当然でしょう?」


 サラがじっと見つめて来る。


「姉さん」

「なんですか?」

「口調を戻してください」

「なぜです?」

「気持ち悪いです」


 酷いな!!



:気持ち悪い

:気持ち悪い

:サラちゃん酷ぇ

:wwwww



 見ろ! 視聴者さんたちも酷いといってるぞ!


「前回のテスト配信の際に姉さんの口の悪さはもう知れています。今更です」


 あー……。そういや模擬戦の時はいつもの調子でやらかしてたからな。


「OK。了解。分かった。じゃ、こっからは普段の調子だ」

「そうです。それが視聴者が望んでいるモノ」

「なにを云っとるんだ」

「これが、これこそがギャップ萌えです!」

「……なんでこんな変な言葉ばっかり覚えちゃったかなぁ……」



:キャップ萌えwwww

:ギャップ……なのか?

:イオちゃんが頭抱えてる

:パペットで頭を抱えるのか

:でもなんでアバターがこれなの?

:そこはかとない教育TV感



 思わず額を押さえた。


「ところでだ、サラ」

「なんですか?」

「配信なんて分からんから、勉強がてらいろいろと適当に配信している方の動画を見て回ったんだが……この絵面はいいのか?」


 俺は画面上に映っている……アバター? でいいのか? を指差し問うた。


「かわいいでしょう」

「可愛いっちゃ可愛いが、どっからどう見てもパペットじゃねえか」


 俺とサラの姿は、手袋みたいに手に嵌める人形のアニメーションとなっている。いわゆるパペットというやつだ。いや、実際のパペットではないが。


 ボタンみたいな目で口がパカパカしている。髪に至っては太めの毛糸を使っているような表現の為か、ストレートヘアではなく、ドレッドヘアにしか見えない有様だ。


 そんなキャラクターが、ライブなんとかというソフトウェアで顔の表情をトレースし、動いているらしい。


 25年でどれだけ技術が進歩したんだ!? そもそもダンジョン生成災害で、その対策と復興に10年近くかかってたっていうのに、よくこういった方面の技術を伸ばすだけの余裕があったな!?


 日本の人口。2000年頃は確か1億ちょいだったハズが、今は6000万くらいにまで落ちているらしいし。いや、これでも回復したのか。


「今日は先日行ったダンジョン攻略の解説的なことをするわけじゃないですか」

「そだな」

「絵面的にですね、動画に映る私たちと、解説の私たちがまったく一緒と云うのもどうかと思いまして」

「そこまで気にすることか?」

「気にすることです!!」


 サラが断言した。


 ふむ。


「よし。こういう時は視聴者の皆さんに訊いてみようか。確か、アンケートが取れるんだろ?」

「取れますけど……。あ、コメントを見てください、姉さん」

「あん?」

「比較対象となる実写での絵面がなくてはアンケートに答えようがないと」

「なるほど。当然のことだな。良し、いますぐ絵面を変えるんだ!」

「えー……面倒ですからこのままでいいじゃないですか」

「アンケートを取るぞ」

「むぅ……」


 そしてパペットの絵面から、実際の絵面へと切り替わった。



:!!

:!?

:え……

:美幼女と美女



「では、アンケートを出しますね」


 サラがキーを叩く。


 なんだかコメントが凄い勢いで流れてるな。というか、なんでこんなに沢山視聴者がいるんだ? これが実質の初配信だろ? テスト配信のあれで人気がでると思えんし。こないだ自己紹介的なものをUPはしたが、目立つモノは黒蒸気竜討伐とマナクラフトの動画くらいだと思うんだが。


 あぁ、竜の討伐映像なんてそうはないか。それを考えると納得できなくもないか。


 そういや部屋の端……カメラに映らないところでモニターとにらめっこしているハクはなんなんだろう?


「……ハクはなにをしてるんだ?」

「問題のあるコメントの削除とかをしていますね。いわゆるモデレーターです」

「あー。アンチコメとかいうやつか。まぁ、さして気にすることもないだろ」

「そうですね。後悔するだけです」


 ……その後悔って、アンチコメをしている連中のほうだよな。何やらかす気だよ。


 ハクの方に目を向ける。ハクがドヤ顔でサムズアップしていた。


 まぁ、いいか。自業自得だ。


「んで、アンケート結果は?」

「……このままで」


 だろうなぁ。


「んじゃ、このままいくぞ」

「せっかく作ったハクが可哀想です」


 思わずハクの方に視線を向けた。


「私の事は気にしなくていーよー」


 そう云ってハクが肩を竦めてみせた。


「らしいぞ」

「むぅ」


 いや、なんでそんなにアバターにこだわるんだよ。俺たちは別にVtuber……だっけか? それじゃないんだぞ。


「わかりました。非常に残念ですが、今回はこれで行きましょう。ですが、いずれはVtuberのようにアバターを使って配信しますよ!」

「いや、そのこだわりはなんなんだよ……」


 なにが琴線に触れたんだろうな。


 思わず俺は眉根を寄せた。


「それでは、本日の本題と行きましょう。先日潜ったダンジョン攻略の記録映像を見ながらの解説となります」

「需要はないだろうが、攻略してきたダンジョンは【松戸ダンジョン】だ」


 そう云ったところ、急にコメントの流れる速度が上がった。



:松戸!?

:松戸って!?

:なんでそんな所行ったの!?

:松戸ってやばいの?

:日本一の不人気ダンジョン

:ゾンビの巣窟

:悪臭地獄

:うわぁ……



 コメント、やたら多いな。というか、いま視聴者は何人いるんだ? 新人のyourtuberとかだと、いいところ一桁が普通と聞いているんだが。


「はい。その【松戸ダンジョン】ですよ。そもそも松戸にダンジョンはひとつしかありませんよ。あのゾンビの巣窟です。もちろん、私たち以外の探索者はいませんでした!」

「日本一の不人気ダンジョンだからな。サラ、映像の方は編集したんだろ? そのままだと確か8時間くらいになったよな?」

「はい。編集済みです。延々とゾンビの脳を焼く絵面を見続けても面白くありませんし」

「まぁ、そうだな。グロ画像にならないのがせめてもの救いだよな。というか、アレ、解説無しだとなにが起きたか見てる人はわかんねーぞ」


 画面には攻略画像がメインで映され、俺とサラは左右別個にワイプ画面で表示されている。


 映像はダンジョン外観をあおる画面から上昇し、最終的にビルの屋上のようなダンジョン入り口を俯瞰するように映し出している。


 それにしても良く撮れてんな。ブレも無いから目が回ったり酔ったりすることもなさそうだ。



※次回は明後日となります。

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