018_松戸ダンジョン攻略_③
特殊ゾンビとやらを実際に確認した。
どれも脳を焼かれ絶命――ゾンビ相手に絶命もなにもないが――している。
頭を潰せば活動停止するという映画、ゲーム仕様なのは実に対処しやすいといえる。なにせオーマのゾンビは、首無しでも活動するからな。どうやって周囲を知覚しているのかは不明だが。
【ホイッパー】。舌が異様に長い小男ゾンビ。本当に舌がとんでもなく長い。背丈より長いってどうなってんだよ。この舌を鞭のように使うとのこと。なるほど、だからホイッパーか。“カエル男”なんて呼ばれてるらしい。
【オッグ】。プロレスラーみたいな筋骨隆々な体格の男。無闇やたらに体当たりをしてくるだけのゾンビ。壁を背にして躱しまくっていれば自滅するらしい。ちなみに、オッグというのは、古いスラングで“後先考えない突進”というらしい。日本での通称は“ダンプ”。ダンプカ―が所以の愛称? のようだ。
【クリンガー】。小柄な爺婆。しがみついて来て首を絞める、もしくはへし折りに来る。別名“子泣き爺”に“子無き婆”。いや、子泣き爺は首を絞めはせんぞ。で、子無き婆はなんなんだ? 子供を亡くした婆が元ネタなのか?
【ガスホルダー】。高圧の腐敗ガスでまんまるく膨れているゾンビ。刺激を与えると爆発する。近くに居れば大ダメージ。遠くにいてもその腐敗臭により影響を受ける。こいつはそのままガスタンクと呼ばれている。
【ヴォゥミット】。吐瀉物。いわゆるゲロ吐きゾンビ。吐き出すものが硫酸レベルの強酸。いや、普通に胃に穴が空くだろ、そのレベルだと。さすがゲーム仕様というべきか? 通称は“酔っ払い”。とにかく臭い。
【バンシー】。周囲のゾンビの能力を増強し呼び寄せる。女性のみ。それも美女。バンシーは一般人程度の戦闘能力しかないが、その耐久度と頑健さは異常でバルク以上だ。倒しきる前にこちらが力尽きること必至であるため、見かけたら逃げること推奨とのこと。でなければあっという間にゾンビに群がられて死ぬことになる。とはいえ、足がかなり速いらしく、逃げるのも必死だそうだ。
【バルク】。大男……3m近い巨人ゾンビだ。暴れるピンク色の筋肉だるま。馬鹿げたパワーと耐久性だけが売りのゾンビだが、その強さは尋常ではない。なにせ戦車をひっくり返せるっていうんだからな。どんな膂力してんだよ。更にはロケランの直撃にも耐えるっていうんだから洒落にならん。ちなみに、“バルク”っていうのはボディビル用語で“筋肉量”って意味らしい。良くは知らんが。
【バルク】以外はすべて確認したわけだが。
「どれも姿が異形なんだが。【バンシー】は普通……というか、人形みたいな顔立ちの美女といえるけど、目が微妙にでかくてアレだな。顏の造りが二次元キャラっぽいな。……腐ってるけど」
「ゲーム仕様ですから」
「いや、それで済ませていいのか?」
「実際そうとしか云えませんしねぇ。あ、でも、ゲームや映画と違って、感染することはありませんよ。とはいえ腐肉ですから、口に入るとお腹を壊しはしますね」
「その程度なら朗報だな。ゲーム仕様の感染力を持ってたら、世界は終わってる」
「それはあの破滅神の望むところではなかったようですからね。永く搾取することが目的でしたから」
……本当、ロクなもんじゃないな、あの【緑】。死んでくれてよかったよ。
順調に階段を降りていく。
50階に到達したところで異常が起こる。というか、ダンジョンの階層がおかしなことになった。床が無い。というか、一面外壁と柱以外なにもない。
49階~46階までの床が軒並み抜けており、まるで45階からの吹き抜けのようになっていた。
柱だけが整然と並んでいる感じだ。もっとも、端っこのほうには崩れていない床が申し訳程度に存在してはいる。
「これは、45階まで飛び降りろってことかな?」
「そのようですね。でなければ、端に僅かにある足場を伝って階段まで行けということでしょう」
「階段は向こうだしな。……一応、壁沿いに張り付いて移動すれば、辿り着けなくもないな」
「……行きます?」
「行かない。このまま飛び降りるさ。……サラは羽根でも出すのか?」
「いえ、【落下制御】がありますから。姉さんは?」
「俺は念動で降りる。さっき受付でも浮いただろ。あの要領で降りられるからな」
「そういえばあの受付、姉さんが浮揚していたことに気がついていませんでしたね」
「そんなもんだろ。俺が暴れでもしなけりゃ気にもしないさ」
答えながら、俺は無造作に飛び降りた。【念動】で、頭上から自身を引っ張るイメージで下へと降下する。紐で括りつけられて降ろされてる、そんなイメージの方が適当か?
そんな俺の隣りを、俺と同じようにサラが降下している。
おっ?
「【バルク】がいるな」
「え? どこに――あぁ、見えました。始末しておきましょう」
降下で視点が下がったことで、サラにも見えたのだろう。端っこで待機している筋肉だるまの姿が。
知覚されない限り、いわゆるボス格のモンスターはああして完全な待機状態で棒立ちしているのが普通だ。
ワンダリングなヤツは通路をフラフラしているが、それらは基本雑魚だ。ワンダリングボスの噂を聞いたことはあるが、俺が遭遇したことは一度もない。
さて、【バルク】はどうなったかというと、他のゾンビ同様に頭ん中を焼かれて終わった。
「身も蓋もねぇなぁ」
「私だってまともに相手をしたくありませんから」
「そういや、映像があるってことは、確認されてるってことだな。ここまで来れたヤツがいるのか? いや、35階層だっけか? ってことは66階までしか来れた奴がいないんだよな? なんでだ?」
確かに地球の探索者レベルじゃ、ここまで来るのは至難だろうな。探索者の最高レベルが200に到達していないと聞いて愕然としたからな。
「3年前のダンジョン生成災害の際に、地上に何体か出現したそうですよ」
「あー……。普通に災害になってそうだな」
「戦車砲で吹き飛ばしたそうです」
戦車砲って……そのレベルで固いのか、アレ。面倒臭そうだ。
45階へと降り、俯せに倒れた【バルク】の巨体の脇を通り過ぎる。
階段を降り、最奥を目指す。
ここから先は、同様に床が抜け吹き抜けになったような階層がつづく。どうやら【バルク】が活動できるようにするためにこうしているようだ。
そうしてやっと一桁階に到達した。
2階、3階、4階が吹き抜けとなっており、今度は【バルク】が2体配置。さらには【バンシー】に加え、他の特殊ゾンビと雑魚ゾンビが多数ひしめいていた。
酷い状況だが、上から狙撃し放題……というわけでもない。
雑魚を1匹倒した時点で戦闘開始。【バンシー】が唄いすべてのゾンビが強化される。そこまではいい。空を飛ぶゾンビなどいない。だから上はまったく安全――なわけがない。
雑魚ゾンビ。それこそが砲弾としてそこに集められていた。そう、【バルク】が雑魚ゾンビを引っ掴み、投擲して来るのだ。
もちろん直撃などしようものなら、レベル5桁の俺だってそれなりのダメージを受ける。それに投げつけられるのは腐った死体だ。悪臭は酷いし、ヘタすると病気に感染する可能性だってある。病気や毒は、さすがにレベルでどうこうできんからな。あぁ、いや、こっちのゾンビ、少なくともここのゾンビは病気はないんだったか。
とはいえ――
「【天火】」
大量の落雷がゾンビ共を襲った。一面が雷光により一面が真っ白になる。そして雷に打たれたゾンビ共は、ことごとくが炎上した。
「走り回ってんな」
「これが一番穏便だと思ったのですが。ちょっと時間がかかりそうですね」
「魔法としてはどんなレベルだ?」
「最上位に入りますね。あれ、レジストできない限り燃え続けますから」
「うわぁ……」
「まぁ、レジストできずとも、対抗魔法で消化できますよ。掛けられた際の魔法強度を超えれば、【清浄】でも消せます」
「あぁ、そこまで凶悪じゃないんだな。……いや、最初の落雷で、ゾンビでもなけりゃ普通は失神すんじゃね?」
「そういう魔法ですから。気付く間もなく燃え尽きます」
しれっと答えるサラに、俺はドン引きだ。これだから魔術師は怖いんだ。実戦での魔術の運用に長けた魔術師は、まともに対処できん。誤魔化しと不意打ちを同時にやらなならんから、面倒なんだ。
すっかり灰で覆われた1階へと降り、階段へと進む。ときおり燃え残った骨のパキパキとした乾いた音が無駄に響く。
階段を降りた先は地下駐車場だった。
徘徊しているのはスケルトン。だが武装の類は一切していない。
「微妙に難易度が下がってないか? スケルトンは倒すのがクッソ面倒だけどさ。こっちだとオーマのスケルトンと違って多少は倒しやすかったりする?」
「いえ、オーマと同仕様です」
……バットで殴れば終わる仕様か。とはいえ、本当にしっかり骨を砕かないと、きちんと骨格標本状態に戻りやがるからな、こいつら。
俺はショットガンを乱射してればいいだけだが。とはいえ、ちっとばかりコスパは悪いんだよなぁ。スケルトンなだけに、結構な数の【魔法弾】がすり抜けるんだ。
【魔法追尾弾】を使えって? いや、それなら散弾じゃなくスラッグ弾の方の【魔法弾】を狙って撃てばいいだけだ。
俺は面倒なことは嫌いだからな。適当なエイムで当たる散弾でスケルトンを処理したいんだ。たいてい単体じゃなく複数で襲ってくるからな、連中。
まぁ、今回はサラにお任せだ。
そしてそのサラは、魔力を固めたメイス的なものを錬成し、スケルトン共を殴る突くとやりたい放題しはじめた。
普通、スケルトン相手に突きは悪手の類だが、持っている棍棒がかなりの太さであるため、突くだけでも普通に鈍器で殴られたのと同じようなことになっている。
叩かれバラバラになって床に転がったところを、丁寧に棍棒で砕いていく。
まさにボーンマッシャーだ。確か、あんな感じのフォルムの武器だったよな? ハンドグレネードのポテトマッシャーの親分みたいな形状だったハズだ。
やたらと丁寧に骨を磨り潰しているサラを眺める。
そうして骨共を片付け、地下2階へと向かう。
いや、ここはもう地下か。実際の所。まぁ、ビルというシチュエーションのダンジョンであるから、感覚的には1階の下からが地下だ。
で、その地下2階も駐車場となっているわけだが――
「……スケルトンがひしめいてるな」
「多いですね……」
「どうするんだ?」
「姉さんの【魔力剣】を真似ましょう。脊椎を破砕すればまともに動けなくなりますからね」
「……そういや、頭無しはいても、半身だけのスケルトンってのは見たことがないな」
「行動不能となった時点で、正しく死亡となりますからね。下半身だけであれば動けはしますが、戦闘能力は皆無と等しいものですので、同様に死亡判定となって終了しますね」
「そういう仕様なのね」
「それじゃ、始末してきますね」
隠蔽術式を解くや、サラは左手の手刀を水平に振る。同時に青白い魔力でできた長大な刃がその手刀から伸び、フロア全体を薙いだ。
スケルトン共すべてが綺麗に上下に分断され、床にカラカラと転がった。
「姉さん、素晴らしいですね、この魔法」
「【魔力剣】か? 瞬間的な使用にしないとコスパは酷いけどな。慣れりゃ使い勝手はいいんだ。威力も見ての通りだし、リーチも3メートルくらいと長いしな。ま、そんな近接戦用魔法なんざ作るのは、俺くらいだったけどな」
「……触媒用に魔法辞書を依頼した彼女は?」
「呆れた顔をしたあとゲラゲラ笑われた」
魔術師が近接戦闘をするってこと自体、おかしいからな、普通は。
落ちているスケルトン共の核、いわゆる魔石を回収して下へと向かう。
奥の壁に大穴が口を空けており、その先は下りの洞窟となっていた。
微かに赤味のある灯りがその洞窟内を照らしている。
ここから先が地下3階ってことか。ダンジョンの階層でいえば103層。
「なんか、ステレオタイプの地獄みたいな通路だな」
「そういうイメージなんでしょう。全体的に赤いですね」
「そういや、どこの宗教でも地獄では炎で焼かれる、っていうのがデフォみたいなもんだよな。仏典だと八寒地獄なんてのもあるらしいけど」
「八寒……また正反対な方向ですね」
「紅蓮地獄なんてところは、あまりの寒さで皮膚が裂け、噴き出した血が蓮の花のように凍り付くなんていうな」
「人間の想像力は豊かですねぇ」
あー。本物の神様方からすると、そんな感想になるのか。なんだか興味深いな。肉体なんてものを持っていなかったからか、ハクなんか顕現したばかりのときは、やたらとはしゃいでたからな。なぜかお汁粉の隠し味にいれた塩の効果に、異様な興味を示していたけど。
なだらかな下り坂を、なかば螺旋を描くように進んでいく。途上、フロア的な感じの崩れた床があったから、ここはある種の吹き抜け的な扱いなのだろう。
そうして距離にして400m程は歩いただろうか。大きく開けた円形のドーム状の広場に到達した。広さは野球コートくらいはあるだろうか。
最下108層。
その中央にいる、このダンジョンのボスと思われるモンスターは――
「……なぁ、サラ」
「なんですか? 姉さん」
「餓者髑髏ってアンデッドに入るのか?」
「さぁ? そもそも私は餓者髑髏なるモノを知りません」
おぉぅ、知らんのかい。
「ハーデスト地球のデータが押さえられませんでしたので。餓者髑髏に関しては、近代の創作妖怪であることは知っていますが、ダンジョン生成されたものがどういう種別なっているのかは不明です」
「あー、そういうことか。……まぁ、ここはアンデッドの巣窟ってことだから、これもアンデッドなんだろうなぁ。妖怪ってカテゴリーだと、アンデッドって感じじゃねぇんだけど」
ボス部屋入り口から出来うる限り観察する。
なんか下半身が埋まってんな。固定型のボスか? まぁ、上半身でこのサイズだと、全身が出ていた場合このボス部屋じゃ狭すぎるよな。
腰から上だけで、10メートルはあるだろう。
ふむ。あの手の範囲からするに、フィールド全体には届かないな。ってことは、遠隔攻撃はもちろんのこと、フィールドギミックなんかもありそうだ。ゲームじゃないんだから、安地なんて無いしな。
これ、地球の冒険者……じゃなかった、探索者だと、太刀打ちできないんじゃないか? 現代兵器を持ち込むにしてもサイズ的にかなり制限されるだろうし、爆発物の類は基本的に効きが悪い。というか、バラバラになっても元に戻るから無意味に近い。そもそもそんなもんを出した日にゃ、集中的に攻撃されて終わるしな。
そう、敵の展開している魔力装甲ってのを思い知らされるわけだ。
だからこそ、レベルで自動展開されている魔力鎧甲は優秀さが実感できるともいえる。同じものだからな。ただまぁ、手榴弾や対人地雷みたいに、鉄片だのベアリングだのを撒き散らす系統のものだったら、それなりにダメージは受けるんだ。幼児たちに無数の石を投げつけられる程度には。
効率を考えるなら、徹甲弾当たりを使っての銃撃が一番だろう。……だが仕留めるのに何発必要だ? 弾数を考えたら、現実的とは言えないな。
「どうやって倒すんだ?」
「押しつぶしましょう。姉さんもそうするのではありませんか?」
「そだな。俺なら、複数個所に楔を打ち込むように【念動】で実弾を頭蓋に穿孔して、真っ二つにかち割る方向だな。デカい岩なんかをカチ割る方法だ。俺の【念動】だと、このサイズを圧殺するのはちと無理だ。つか、押しつぶすにしても、かなりの加重が必要だろう? あの骨の太さだ。普通にトン単位で二桁くらいは耐えるんじゃないか?」
サラは眉根を寄せ、俺から餓者髑髏へと視線を戻した。
「……肉がついていれば簡単だったんですけどねぇ。さすがに厳しいというよりも、確かに押しつぶすのは無駄が多そうですね。予定変更です。姉さん同様、かち割りましょう」
サラがEXPに映し出される餓者髑髏の頭蓋を縦になぞりつつ、くっそ真面目な顔をした。
そう、いまドローンカメラが先行してボス部屋に入り、ボスたる餓者髑髏を色々が角度から撮影している。
ステルス能力――というよりも、攻撃能力が皆無である上に、自律ゴーレムとはいえ完全に科学よりであるためかボスが起動していない。
もしこれでドローンに爆薬なり、例の爆発するスマホなりが搭載されていれば、ボスが起動してドローンを叩き壊しただろうが。
……ふむ、存外、これは想定以上に有益な代物じゃないか? 販売するならダウングレードしないとマズいだろう。
普通に軍事利用されるぞ、コレ。
あとでハクに云っておこう。避けられる無用なトラブルは排除するに限る。
「それでは、そろそろボス部屋に入りましょう」
「俺は自衛のみに徹するから」
「姉さんがアレを仕留めるところも見たいのですが」
「リスポーンを待ってもう一度戦うか? リスポーンまでどのくらい掛かるか知らんが」
「ここのスパンは短いですよ。2時間くらいです」
「ってことは……遅くとも18時過ぎには戻れるか。初見だってのに4時間ちょいでほぼ攻略終了とか、どんだけ早かったんだよ」
「小中規模ダンジョンといったじゃないですか」
あぁ、確かに。ビルをモチーフとしている以上、そこまで1フロアが巨大化することはないからな。
ってことでボス戦だ。
ドーム状の広いフロアへと足を踏み入れる。サラは注意を惹くように真っすぐ突撃し、途中から左回りにサテライトし始める。
俺はというと、壁沿いを右回りに跳ねるように進む。
俺のいる位置まで餓者髑髏の手はそうそう届かないが、油断はできない。身を傾けて手を振るえば、俺を薙ぎ払うのは容易いはずだ。
まぁ、そうなった場合は普通に上に【BS】して避けるけどな。
さて、餓者髑髏はというと、その頭が無様に仰け反ったり俯かされたりしている。サラが重力魔法で頭を小突きまわっているのだろう。
餓者髑髏の頭蓋に、小さな穿孔痕が生まれている。眉間の辺りから頭頂部に向けて。
おそらく後頭部の方にも出来ている筈だ。
あれだ、大岩を割るのに、直線状に楔を打ち込んでいくのと同じ方法だ。
ときおり腕がこっちに振り回される。が、きちんと見ていれば避けるのは容易い。まぁ、俺みたいに、宙に避難出来るのであればの話だが。
サラはというと――頭の上に乗ってんな。なにやってんだ? あ、頭蓋骨が真っ二つに割れた。そのまま脊椎もつぎつぎと割れていく。
脳天唐竹割り! とでもいえるような感じで、餓者髑髏が綺麗に左右に割れた。そしてすかさずサラが頭蓋内と胸部にある魔石を回収した。
さすがにここまで綺麗にはできねーな、俺の技術じゃ。多分、割るというより、砕く感じで分断することになりそうだ。
「得られるものは魔石くらいですねー。頭部と心臓に当たる部分のふたつです」
「あ、心臓のほうはダミーじゃなかったんだ」
「双方いずれかが残っていれば、無限に再生するといったところでしょうか」
「面倒臭ぇ。つか報酬が魔石だけか。まぁ、骨だしなぁ。ドラゴンの骨並に武器特性があれば使い道はあんだけど……」
「どうでしょうね。上腕部と肩甲骨あたりは、大槌と大斧にできそうですけど」
「だなぁ。一応、全身分もっていくか。なんか埋まってた下半身の骨も転がってるし……。あ、虫歯とかねぇかな?」
そう問うと、サラが目をパチクリとさせた。
「虫歯ですか?」
「そう。トロルリングっていう指輪があってな。そいつはトロルの虫歯、穴の空いた部分に魔力を込めた宝石を埋め込むんだよ。で、歯の根っていうのか? そこが二股になっているだろ。そこをリングとして使うんだ。効果はリジェネ。弱化しているものの、トロルの再生能力を装備者に与える代物だよ」
「……餓者髑髏の奥歯だと、サイズ的にゴツイ腕時計型の腕輪になりそうですね」
……。
「まぁ、最悪、俺が【位相】で無理矢理指輪にするよ。半ば面白半分でだけどな。本質は一切変わらんから問題なし、むしろ1本から5個くらい造れそうだな」
「そこまでする必要は?」
「特にないな。まぁ、お遊びの範疇だよ。それじゃ宝物だけ回収して入り口前に戻ろうぜ。リスポーンするまで休もう」
「まだ飲食ができないのが残念ですね」
「それは諦めるしかないだろ」
ここでガスマスクを外す気にはなれん。
肩を竦め、俺は飢者髑髏の骨格をストレージに送る。そして最後に、足元に転がってい転がって来た大腿骨を担ぎ上げ、ボス部屋入り口へと歩き始めた。




