013_APPENDIX:イオとサラ、帰宅中電車内での会話
■APPENDIX:イオとサラ、帰宅中電車内での会話。
「いったい何をしたんだ?」
「何を、とは?」
「これまで不正をして、上手く私腹を肥やしてた輩があんな簡単にやらかす訳がないだろ」
「分かりますか?」
「分からいでか。つか、レベルを見れば一目瞭然だろうに」
「あの鑑定オーブでは私たちのレベルが高すぎるため、エラーによりレベルは表示されません」
「あー、オーマのより質が悪いのか。そういや、場末のダンジョンのギルド事務所とかだと、粗悪品しか置いてなかったな。もしかしてレベル3桁までしか測れなかったりするのか?」
「えぇ。どうも地球だとその粗悪品が標準品となっているようです。その結果、実に分かりやすくくだらないことを云ってきたんですよ」
「ん?」
「ライセンスを受け取る際に賄賂を求められました。直接的な言葉は避けていましたが。付け込むのに丁度よかったんでしょう」
「あー。俺の容姿での難癖か」
「えぇ。まぁ、至極真っ当ではあるのですが、条件は満たしているわけですから、後の実戦研修での結果如何でライセンス取得を決定するのが筋というものでしょう。白カードはあくまでも仮ライセンスなわけですから。まぁ、今回の件で、正規ライセンスを即時発行して貰えましたから、良しとしましょう」
「これまでも似たようなことをしてきたのかねぇ」
「していますよ。そこは確認済みです。ですので、私たちの為に贄となってもらいました。ちょっと自制心と判断力を緩めてあげたら、あの通りでしたから」
「やれやれ。つーか、そんなに金を持っているように見えたのかねぇ」
「“神令”を知っていたようですので。資産家だと思ったんでしょうね」
「設定のほうか。そういや八咫烏とかどうなんってんだよ? 思わず目を剥いたぞ。もらった資料には概要的な記載がなかったけど」
「皇家並の歴史を持つ神職の家系です。それも荒事専門の。ディバインボルトの方も似たようなものとなっています。もちろん、双方とも表には一切でない活動をしてきた、ということになっています。というか、そういった組織がかつてありましたので、それの宗家、皇家暗部の元締めとしました。都市伝説として語られている家は、実際には大昔に断絶していますので、そっちは無視できますしね。現在そう騙っているのは簒奪者どもの末裔です」
「なるほど。だが現状では実在してなかったんだろ? 八咫烏は。それを実在させたのかよ。どんだけ情報操作したんだ?」
「……ライラ姉さんの無駄なこだわりです。25年前の災害で半壊。3年前の災害で壊滅滅亡、としています。現状、暗部としての八咫烏は再編されていますが、質はお察しですね。CIAとかKGB、MI6みたいなものです」
「都市伝説じゃなかったのかよ。……で、そこに俺たちが帰還したと。神令の名は知られてるみたいだけど、その裏家業的なほうはどうなの?」
「ほぼ為政者に限り知っている感じとなります。いわゆるアンタッチャブルファミリーですね。ライラ姉さんも変な凝り方をしたものです」
「まぁ、なにか狙いがあるんだろうよ。もしくは、後々必要になるかもしれないっていう、保険的なことだろう?」
「ライラ姉さんにそんな計画的なことができるとは思えませんが」
「いつも思うけど、ライラさんに随分と辛辣じゃないか?」
「トーカ姉様と比べると、どうしてもライラ姉さんはポンコツにしか思えませんので。聞くところによると、ことあるごとにトーカ姉様にお説教されているそうですので」
「そう聞くと、そのトーカさんに一度会ってみたくはあるな。
で、話を戻すが、こんな騒ぎを起こした理由はなんだったんだ?」
「ライセンス取得後の問題軽減です。姉さんも自覚していますが、その容姿によって引き起こされるトラブルを減らすためです。
善意によって引き起こされるトラブルは、今回の件で激減するでしょう」
「あー、確かにそうなるか。一応、組織側には牽制してきたけど。予定通りドラゴン素材を置いてきたぞ。ついでに丸々三頭納品する準備があるとも云って来たから、まぁ、こっちを侮ることはないだろ。あとは冒険者――じゃなかった、探索者連中ってことだが、そのために模擬戦の様子は配信したんだろう?」
「えぇ。ですからアレの上役たちが慌てて来たんですから。もっとも、入り口は私がロックしていたので、入れませんでしたが」
「可哀想に、真っ青になってたじゃん。……あぁ、神令の名も影響してたんか」
「監督不行き届きですから、この程度で済んで良かったと感謝されたいくらいですね。私たちに関与した服務規程違反者はこれでふたり目ですし」
「他にもあったのかよ」
「施設の利用申請をした際に、係員に許可なく【鑑定】を受けました。【鑑定】タレント持ちでしたね。恐らく好奇心旺盛な性格に性癖も加わった結果、タレントとして発現した悪い事例ですね。好奇心と知識欲から発現した【鑑定】持ちの者でなければ、容易に他者のプライベートを覗き見しまくるというものです」
「モラルの欠如してる輩か。ストーカー予備軍の予備軍ぐらいの感じか?」
「そうですね。きっかけがあれば、コロッと犯罪者になりますよ。……現状も犯罪者みたいなものですが」
「ま、ライセンスは得られたんだからいいだろ。それにサラも小宮間を処せてご満悦だろ? ……なにをしたのかは知らんが」
「泣かせることができて楽しかったです。ダンジョンでの演習も免除になりましたし。これからは好きにダンジョンに潜れます。引率付きでのダンジョン遠足がなくなりましたから一安心です」
「あー……面倒そうだったからなぁ。んでだ。最初に潜るのはどこのダンジョンにするんだ? やっぱり自宅近くの千間坂ダンジョンか?」
「いえ、松戸ダンジョン辺りから潜りましょう。小中規模ダンジョンなんですが、モンスターの構成がアンデッド、それもゾンビがメインです。問題がひとつありまして、すべて魔獣型です」
「うわ、受肉型しかいないのかよ」
「しかも小中規模であるため、かなりの頻度でダンジョンから流出しています」
「あー……酷いなそれ。それを変更するわけだな。コアをとっかえて」
「そうです。実入りも少なく、不人気ダンジョンです。周辺地域は過疎化が進んでおり問題となっています」
「そりゃそうだ。異臭は酷いし、倒しても実入りはないしな。誰も腐った肉なんていらねーよ。本当にただの腐った肉だから、錬金素材にもなりゃしない」
「ということで、頑張りましょう。ほぼすべてを魔物型へ変更します。ドロップも下級ポーションあたりを設定しておけば十分でしょう」
「やれやれ。悪臭対策に、ガスマスクでもつくるか」
「おねがいしますね」




