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012_はじめてのライブ配信:正しCh主は不在である


 なんでこうなった。


 新しい妹分はいくらなんでも無茶が過ぎないかな?


 いや、興味はあるけれどさ。実際のところ、こっちの地球の技術にも興味津々だけどさ。


 私は第四世代準神の一柱。此度【青】様に招集され、すでに地球に降り立っている最新の妹分である試作第五世代準神であるサラカエル(役目名)のサポートを行っている。


 私の役目名はサハクィエル。なんでも地球の伝承だか神話だかの天使の名を借りているとのことだ。どういう理由でこの名となったのかは不明だが、少なくともライラはノリノリで私にこの名を押し付けた。


 いずれライラの前で覚えていたら、このことについて問い詰めてやろう。


 さて、現状だ。


 なぜか私がサラの開設したチャンネルでのライブ配信の実況……解説? をすることになった。


 いや、私は裏方なんだけど!? いろいろと拵える方面でのサポートで来たはずなんだけれど!?


 まぁ、状況からして、サラが現場で実況できる状態じゃないのは分かるけど。


 でも初回からこれって、問題なんじゃないかな?


 サラが程度の低い咎人を催眠誘導しているのは問題じゃないのかって? バレなきゃ問題ないない。こちとら天使様こと準神やぞ! それにこう云うらしいじゃん。「悪人に人権はない」って。


 さ、て、と。丁度イオちゃんは着替えに向かったね。お、サラがカメラを回し始めたか。それじゃ、始めるとしようか。


 えーっと……ん? 新人の個人チャンネルだっていうのに、何人か待機してる。ほとんどゲリラ配信で誰も来ていないだろうから、誰かくるまでタレ流しにしようと思ったのに。


 ひっそりと上げておいたアノ動画のせいかな?


 それじゃ、アバターを準備してと。




 ……第一声、どうしようか?



 ★ ☆ ★



『あー。あー。音声は大丈夫ですかー? 聞こえてます?』



:はじまた

:聞こえてるよー

:声かわいい



 7人とか、告知も何もまったくしていないのに、これは多いといえるな。というか、よく嗅ぎつけて来たな。平日の昼間だって云うのに。


 チャンネル登録者には通知が行くんだっけか? まぁ、いっか。


 各々の名前を呼びつつ、来てくれたことに感謝の言葉を述べる。


 そして――


『いやー。どうせ誰も来ないと思ってましたから、無言で垂れ流し放送しようと思っていたのに。当てが外れちゃいましたよ』



:ひでぇ

:それでいいのか、配信者

:草



『こちら、イオ×サラChでは、ダンジョン攻略の様子をメインに配信するチャンネルとなっております。

 まぁ、よくある探索者の配信ですね。そういえば、魔術師クラスってまだ未確認なんでしたっけ? サラが専業魔術師系クラスですから、魔法に興味のある人は、ウチの配信を追うのもいいかもしれませんね』



:魔術師!?

:魔術師!

:えっ、マジ?



『本当ですよー。魔法を使いまくっていれば、後天的にでも魔法使いのクラスに成れますから、魔法使いになりたーい! っていう人は、ウチのチャンネルをチェックしとくといいのではないでしょうか。

 こないだイオちゃんが魔法の基礎の基礎に関する説明動画を撮影しましたから、編集が終了次第、UPしますよ。

 ところで、実は現在、最大級の問題が発生しているんですよ!』


 私は声を大にして云った。


『私はイオでもサラでもないのだ』



:ちょっ!?

:どういうことだよ!

:なんで!?

:誰!?



 あはは。予想通りみんな狼狽えてる。


『私ですが、ハクと申します。本来は表に出ない裏方、装備開発役です。なので、こうしてアバターを使っての配信をしています。

 後日販売する商品の紹介動画も先ほどUPしましたので、そちらを見て頂けると幸いです。

 商品のひとつをいま紹介しましょうか。これはまだ動画で上げてない奴です。いま、ワイプで映っていますが、この映像を撮影している機材、自律型撮影用ドローンがそれです。試作機の形状はこちら。……映像出たかな? うん、でてるね。

 さすがにこれをハンドメイドで販売とはいかないので、提携企業を探している状況です。多分、本日イオとサラが契約したEXPのメーカーに打診することになるでしょう。蹴られたら蹴られたで、仕方ないので会社を起ち上げます。JDEAを巻き込めばどうにでもできるでしょうし』



:自律型ドローン!?

:なんかしれっととんでもないこと言ってない?

:自律型って、AIで制御してんの?

:そんなレベルのAIってもう実用出来てたか?



『AIじゃないですよ。先ほど魔法云々といったじゃないですか。ゴーレム……というよりオートマトンの類ですね』


 そう答えたところ、コメントが一気に騒がしくなった。


 あ、あれ? なんか視聴者が凄い勢いで増えてるんだけど。あっという間に3桁になって、4桁に届きそうな勢いだ。なんでだ???


 と、ぐずぐずしてると模擬戦がはじまっちゃうな。


『話を戻しまして、現在の状況を簡単に説明します。

 イオとサラが探索者免許取得のための講習を受けたところ、仮免許の発行は行えないとイオちゃんが云われ、発行して欲しくば誠意を見せろ、と要求されたのが事の始まりです。そこからサラが「では、戦闘能力があることを証明すれば問題ありませんね。模擬戦をしましょう」と提案し、ここ、JDEAの演習場に来ていると云うわけです。

 いやー、本当は配信テストも兼ねて、JDEAの演習場を紹介するだけのはずだったんですけどねぇ。まさか不正行為摘発配信になるとは』



:いやいやいや、おかしいよそれ

:仮免許は講習を受ければ無条件でもらえるはずだぞ

:誠意を見せろって、どこの893だ

:あれ? あれ山常じゃね?

:なんでいるんだ? あいつ免停中だろ?



 おや、聞き捨てならないコメントが。


『探索者に免停とかあるんですか? なにかしら問題を起こしたら、普通に刑事事件とかで取り締まられると聞いていますが。

 ダンジョン内は別に治外法権というわけではありませんし』


 なんとなしに訊ねてみると、意外にも返答のコメントがあった。この手のことは外部に周知されるようなことはないと聞いているのに。


 ……なるほど。集団での脅迫、恐喝行為を行ったと。ただ、ダンジョン内での戦闘後、共闘した別パーティとのトラブルでのことで、戦利品の分配の際の行き過ぎた行為とされたため刑事事件とはされず、されどこれまでにも同様のトラブルを起こしていたためのペナルティとのこと。


 ……JDEA、さすがに処分が甘くないか?


 まぁ、イオちゃんが云っていた、オーマでの冒険者たちのやり方からすると可愛いものだけど。


 あ、イオちゃん来た。


 たちまちコメントが騒がしくなる。


 あの容姿から変な誤解が蔓延しないよう、簡単に紹介をしておこう。


『いま画面に入って来た彼女がイオちゃんです。イオちゃんとか私、云ってますけど、彼女の年齢は22歳です。ちなみに、口が非常に悪いです』



:なんだと!?

:マジ!?

:合法ロリ

:合法!

:ch登録しました



『……なにか不穏な感じがしたのは気のせいですかね? えー、今回の不正が行われる原因となったのは、彼女の容姿のせいですね。カモれると思ったんでしょう。まったくもって愚かにも程があります。講習での鑑定で彼女のことは分かったでしょうに。無能としかいいようがありませんね。まともな者なら、イオちゃんとサラのステータスをみて難癖をつけようとか思いませんよ。恐ろしい。彼女……小宮間には存分に後悔してもらいましょう。金を毟るべくカモる相手を間違えたと』



:え?

:え?

:どういうこと?

:なんか怖いんだけど



 模擬戦がはじまった。


 それまではイオちゃんの声を可愛いとか、俺っ子だーとかコメントは賑やかでしたが、たちまちそれが止まる。


 軌道は追える。でもまさに目にもとまらなぬといえる速度で山常の死角を取り、可愛らしい声で「Bang!」という姿に、皆が絶句したのだろう。



:ぅゎょぅι゛っょぃ

:なにが起きた!?

:速っ!!



『あれはイオちゃんのメインの戦闘技術ですねぇ。といっても、移動するだけの魔法らしいですよ。で、先ほどまで使っていたショットガンは銃の形をした魔法触媒、要は魔法を使うための杖です』


 お?



《ちょこまかちょこまかと……。動くんじゃねぇっ!!》

《……ひでぇ注文だな》



 イオちゃんが心底呆れたような顏で、棒立ちに。


 煽ってるなぁ……。


 そして大剣で派手に殴られ、ゴムまりのように吹っ飛び、数度バウンドして仰向けに倒れた。



『あー……派手にやりましたねぇ。……可哀想に』



:可愛そうにって!?

:ハクちゃん!?

:イオちゃんが

:通報、通報しろ! さすがにやりすぎだ

:通報した!!

:JDEA仕事しろよ!



『え? いや、可哀想なのは、あの山常とかいうほうですよ。イオちゃんは問題ありません。あんなへなちょこな攻撃程度でどうにかできませんって。多分、イオちゃん、これから試験を無視すると思うので』


 そんなことを云っている間に、イオちゃんが大きなため息をつきつつ、むくりと起き上がった。



:は?

:え? 無傷?

:つまんねって

:頭潰せって、怖っ

:イオちゃん!?

:もういいって

:うわ……

:あらためて聞くと、ひでぇな。



 まぁ、そうだよねぇ。ただ棒立ちになってひたすら殴られろなんて、どうみても戦闘試験じゃないよね。

 とはいえ、これでこっちの目的は半ば達成かな。あの暴虐は配信しているし、視聴者もイオちゃんの美幼女さもあって5桁を突破してるし。イオちゃん凄ぇ。



:なんか漫画の台詞いいだしたぞ

:山常がすげぇ残念にみえる

:……こんなのを怖がってたのか、俺

:いや、普通に強いからな、こいつ

:イオちゃんがおか……しい?



 リスナーたちが困惑する中、はじまる蹂躙劇。


 イオちゃんの宣言通りに、山常はなにもできずに、ぼてくりまわされている。


 ……鼻が潰されて、見てくれが2割り増しくらいで不細工になったねぇ。



:ハクちゃんがニヤニヤしてる

:ドSだ

:山常ってこんな弱かったっけ?

:いや、強いから好き勝手やってたんだよ

:それじゃ山常がドMってこと?

:ねーよ

:イオちゃんがおかしなレベルで強いんだよ



 んー?


『山常って強いんですか? イオちゃん、移動してるだけですよ。で、山常はこの様とか。見た限り、物語序盤に登場する強者ぶった口先だけのやられ役そのモノですけど』


 なんだか『草』とか『w』のコメントが。……えっと、これって『笑い』の俗語? ネットスラング、だっけ? なかなか興味深い。普通に言語をインストールしただけじゃ、言語を完全に理解できないとは。まだまだ学ぶことが多い。ふふ、実に楽しい。


 ふむ。……は? レベル60くらい? 嘘!?


『あのー、私がイオちゃんから聞いた常識とかけ離れてるんですけれども。


 イオちゃんはいいました。


「冒険者稼業1年でレベル100を目指すのが基本。100前後に到達できたならダンジョン中層以降も問題なく進めるだろう。だがそうでなければ、浅層で日銭を稼ぐ程度にしておけ。でなけりゃ死ぬだけだ。にも拘らず、深層に向かう馬鹿が後を絶たないから、冒険者は狂ってるって云われるんだよなぁ」


って。

 だからアレは200くらいはあるんじゃないかなぁって、私、思っていたんですよ』



:は?

:レベル100!?

:レベル100超えって何人いたっけ?

:世界で10数人しいないぞ

:いや、もう7人は引退してるから一桁だ

:200なんて存在しないよ、ハクちゃん



 ……うわぁ。


『あの、もしかしてレベル100超えって希少だったりします? ……うわぁ。だからレベル60程度であんなにイオちゃんを侮ってたんですねぇ。あっはっは。どうあっても山常とかいうのはイオちゃんに勝てませんねぇ。レベル差がありすぎます。桁がまるで足りませんって。あっはっは』


 山常が無様に這いつくばっている。って、ここでカメラがサラと職員……小宮間だっけ、を映し出した。そういえば小宮間はともかく、サラの姿――顔ががしっかり映るのはこれが初めてだな。


 うわぁ、またしてもコメントが。まぁ、ライラのこだわりで、私らは無駄に美女として作られてるからなぁ。



《「便所には行って来たか? 聖職者共へのお布施は? 震えてする命乞いの演技の練習は十分?」 ははは。覚悟はできたか?》



:やり返してる!

:イオちゃんwww

:台詞を変えてるwwwww

:かわいい



『イオちゃんらしいですねぇ。これまで連中にはさんざん殺されそうになったっていってましたからねぇ。イオちゃん曰く、聖職者と書いてペテン師と読む、だそうですよ』



:え?

:なにがあったんだよ、イオちゃん

:あ、魔法

:すげぇ、初めて見た

:……魔法を味わえる山常、羨ましい

:ドMがいるぞー 



『……模擬戦、終わったようですね。さすがイオちゃん。きちんと山常にポーションをぶっかけていますね。なんと優しい。さて、そのイオちゃんですけれども、日本に来る前に――』


《ハク姉さん、余計なことを云わないでください》


『おや、サラ。聞いていましたか。とはいえどこから喋ってはいけないのか聞いていませんでしたからね』


 サラがドローンを捕まえて、カメラを睨んでいる。なので、映像には……えーっと、ガチ恋距離っていうんだっけ? なサラのドアップな顏。


 コメント欄が大変な状況に。まったくもって美人は得ということだろう。まぁ、その分、厄介なモノも無制限に引き寄せるわけだけど。



《ここでのことを片付けましたら、きちんと説明しますので》


『それなら当日朝に配信の代行を頼まないで欲しかったですねぇ。ところでサラ』


《なんです?》


『まだ配信は終わっていませんよ』


 サラの顔がほんの一瞬強張った。この子、配信していることを一瞬失念したな。


《視聴者の皆様、私、サラと申します。自己紹介等は後日動画をUP致しますので、よろしければそちらをご視聴ください。こちらはこれから少々JDEAの方々とお話することになりそうですので》


 そういってサラがカメラを施設の出入り口に向けた。


 なんだか出入り口の金属製の扉がドカンドカンと叩かれているのがわかる。怒声も響いていることから、JDEAの上層部が慌てているのだろう。


 さっきリスナーが通報したって云ってたし。画面からすれば、イオちゃんが殴られる画というのはとてつもなく悪いはずだ。“愉悦に浸る大男に大剣で殴られる幼女”。普通に犯罪――どころじゃなく、イメージが最悪だもの。


 あんなのを重用してたとなれば、JDEAの評判は落ちるも落ちるというものだ。


《ハク姉さん、あとはお願いします》



 サラはそういってカメラを切った。


 さて、あと少しばかりリスナーと雑談をして、配信を終わらせるとしよう。


※次回は明後日となります。

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