009_APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話_①
■APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話
「課長、取り急ぎこちらの書類に目を通してください」
「なんだ突然。……演習施設の使用許可申請? これはウチに回ってくるようなもんじゃないだろ」
「その申請者が問題です。周知しておくようにと回ってきました」
「申請者? ……なんて読むんだ? 珍しい苗字――!?」
「……」
「神令……まさか『カミヨ』か!?」
「はい」
「だがあの一族は、3年前に断絶しただろう!?」
「えぇ。ですが、28年前……最初のダンジョン生成災害の3年前に、当時の当主の娘がひとり、スコットランドへと婚姻により移住しています」
「神令サラ、20歳。というと、その嫁いだ娘の子供か」
「その嫁いだ家もとんでもない家です。こちらを」
「ディバインボルト?」
「そのまま日本語に訳すと【神の矢】ですね。神令と同様、いわゆる神職の家系です。といっても、ドルイドのような原始宗教の系譜ですね。3年前に断絶しています」
「断絶って、ここにひとりいるだろう?」
「神令サラと、その姉のイオは神令家に養子縁組しています。神令家に跡取がなかったことと、ディバインボルト家の方の存続がほぼ不能になっていたというのが理由のようです。というよりも、あちらの土地と人を見限ったという感じですね」
「どういうことだ?」
「キリスト教の一派……といっても、キリスト教会からは認められていない教団ですが、そこと抗争状態にあったようです。異端審問、いわゆる魔女狩りです。数々のデマを流布された結果、ディバインボルト家は地域社会から孤立させられ、弾圧を受けていました。そこの馬鹿共はそうやってディバインボルトを抹殺して、箔をつけようとしたみたいです」
「おいおい、いまだにそんなことする輩がいるのか?」
「いました。幸いにもと云うか、不幸にもというか、3年前の第2次世界ダンジョン生成災害でその教団は壊滅、構成員は全員死亡、もしくは行方不明となっています。ですがディバインボルト家は、既に姉妹を残し全員死亡という状況でした」
「姉妹以外は殺された? おいおい、冗談じゃなしに神罰じゃないのか?」
「課長、冗談を云っている場合ではありません。オカルトがリアルであると、四半世紀前に証明されたようなものです。そして人が妄想をこじらせて作り上げたモノではなく、自然崇拝の末に生まれた代物は現実です。神令家とディバインボルト家は、そのリアルにおける血筋のサラブレッドです。そして神令イオと神令サラはそれに相応しき能力をもっていると思われます。少なくとも、神令サラは持っています」
「確認したのか?」
「施設の使用申請と撮影申請に来訪した際、確認しています。まだ探索者ライセンスをもっていませんでしたが、次回の講習を受けて取得するとのことでしたので、ライセンス取得確認後許可をするということで、申請を受けたそうです」
「それなら特に問題も無いだろう? 心身ともに健康で犯罪歴もないんだろう? 撮影ってことは、ネット上で公開するってことか? それなら願ったりじゃないか。あの施設、できて1年経つがいまだに利用者は数えるほどだろ? 宣伝の足しになる上、こっちの懐は痛まない。施設管理課の連中は万々歳だ」
「こちらを。申請の際に確認した神令サラの鑑定結果です。スキル持ちが勝手に鑑定をしたわけですが、しっかりと露見していました」
「おいおい。許可を取らずにやったのか?」
「指示ではありません。ソレの悪癖です。然るべき処置をします。厳重注意と減給ですね。期間を3ヶ月にするか6ヶ月にするかで、施設管理課の森田主任と早川課長が揉めています」
「なにをやってんだあいつらは」
「こちらを。そのバカから聴き取りした神令サラの鑑定結果です。途上で『マナー違反ですよ。服務規程にも違反しているのでは?』と牽制されたことで、彼女の違反が露見しました。情けない話です」
「はぁ……。クビにしちまえといいたいが、【鑑定】持ちを手放す訳にはいかんか。つか、神令を知らなかったか。まぁ、表舞台には絶対にでてこなかった一族だからな」
『神令 サラ 20 assault mage (月)』
「走り書きにしても字が酷いな。……知らないクラスとスキルなんだが。メイジ……魔術師なんてクラス、初めてじゃないか!」
「彼女はスキルを属性と呼んでいたようです。見たことも無いそれに驚いていたところ『私の属性がなにか?』と云っていたと」
「属性? 【月】はスキルじゃないのか? いや、スキルだとして【月】ってなんだって話だが」
「違うようです。詳しくは、彼女が探索者となった時に聴き取りすればよろしいのでは。このバカのお詫びの名目がありますし」
「……あぁ、胃が痛くなりそうだ」
「日取りは次の探索者講習日でいいでしょうか?」
「頼む」
「では、その日に約束を取り付けます」
「丸志摩の最中も用意しておいてくれ。12個入りのヤツ」
「経費で落ちませんよ? 多分」
「俺が出すから問題ない。あー、6個入りのも追加で頼む」
「はい?」
「俺も食いたくなったんだよ。半分やるからよろしく頼む」
「はい。失礼します」




