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009_腐ってやがる


 俺たちはJDEA本部で探索者講習を受け、あの見慣れた【鑑定(簡易)オーブ】で能力判定をし、現在【仮探索者免許証】の発行待ちだ。


 通称【白カード】。これを本カードとするには、探索演習を1度行ってからとなる。


 基本的に18歳以上で健康になにも問題がなければ、免許証は発行される。


 実際の所、オーブでの鑑定はちょっと不安ではあった。


 いや、いまのこの体で鑑定を受けた場合、どう反応がでるのか分かったもんじゃないからな。


 特にサラ。……天使様だし。


 何かしらの偽装工作でもしてんのかと思って、待機中に訊いてみたんだよ。


「いえ、そんなことはしていませんよ。簡易鑑定はもちろん、詳細鑑定でも私たちの本質部分まで視ることはできませんから」


 なるほど。秘匿したい部分を視ようとされても、視られようがないってことか。こっちがイレギュラーすぎて。


 それにしても遅いな。


 58人いた受講者の殆どは、もう仮免許を受け取り、演習希望日を係の者に伝えて帰っている。


 一応、この不毛な待ち時間の間に、探索者必須のアイテムとなる探索者端末の説明があったが。というか、普通に企業が複数来てプレゼンをするとは思わなかった。


 来ていた企業は6社。いずれも有名どころだ。通信機器では一線級だろう。……ただ、外国企業4社のうちの2社は、俺たちには問題外だが。


 つかこれ、こないだ買ったスマホが無駄になるんじゃね? あ、機種交換扱いになるのか。


 しかし遅いな。






 遂に俺たちふたりだけとなり、10分ほど経過してからサラが呼ばれた。


 そして更に待つこと20分。


 いやいやいや。どうなってんだよ。


 そんなことを思っていると、サラが係の者と思われる女性と戻ってきた。


「姉さん、問題です」

「……ボケた方がいいか?」

「なにを云っているんですか、姉さん」


 サラはそういうと、連れ立ってきた女性に視線を向けた。


「姉さん。姉さんのライセンスは発行されないそうです」


 サラが無駄に真面目腐った顏で云った。


 なにを企んでるんだ? 絶対に面白がってるだろ?


 まぁ、乗ってやるか。


「ふむ。ってことはだ、サラもライセンスの取得はできなかったのか?」

「いえ、私は問題なくライセンスを渡されました」

「おかしいな。確か日本での成人は20歳からと記憶しているし、探索者資格は18歳から取得できるはずだろう? 心身ともに健康で重犯罪歴が無ければ」

「免許の取得するには取得資格が必要となります。また、それら資格を不要とする例外事項もありますが、あなたはそのいずれも満たしておりません。ですので、ライセンスの発行は却下と成ります」


 俺は首を傾げた。


「サラ、意味がわからんのだが?」

「はい、同じく」

「俺は22だぞ」

「えぇ。そうですね」

「再度確認するが、探索者資格は年齢制限と、心身の健康状態、そして犯罪歴がないことだよな?」

「そう、記載されています」

「そのいずれも俺は満たしているんだが?」

「そうですね。なにも問題があるはずがありません」

「それなのにこんな狂ったことを云ってるのか?」

「はい」

「こんなに無駄に時間がかかったのに?」

「はい」

「これだけあればこっちのことなんざ調べられんだろ」

「ですね」

「にも関わらずそれを怠って、人のみてくれで却下するってか?」

「無能ですね」

「無能以下だろ。無能なら規定に沿ってとっととライセンスを発行してる」

「なるほど、それは確かに。欲に満ち満ちた悪意を感じますね」

「侮辱をするのは止めてもらえませんか?」


 彼女が苛立ちを隠しもせずに俺たちを睨みつけた。


 俺とサラは胡散臭気な視線を彼女に返した。


 彼女はたじろいだ。


「だったら俺にライセンスを発行しない本当の理由を云え、女」

「あなたのような子供を探索者にはできない」

「……なるほど。【鑑定】結果を全否定し、法的に証明されている事実でさえも無視するのか。ならば、これまで【鑑定】結果をもとに探索者にした奴は、全員ライセンスを失効しないといけないな。

 それとも、なにかしら問題があったのか? 【鑑定】結果を信用して。規定を無視して個人の思い込みで決定しているんだ。なにかあるんだろ?」


 だんまりかよ。


「わかりました。では、試験をしましょう。戦闘能力が存分にあれば問題ないのでしょう? ここには演習場もありますし、なにより試験官を行えるJDEA専属の探索者もいるでしょう?」


 サラがあからさまな笑顔(演技)で提案した。


「演習場はそう簡単に使えません」

「問題ありません。別件ではありますが、使用申請をしてありますので。本日の午後2時より2時間使えます。延長も問題ないと聞いています。なにせ使う探索者がいないらしいですからね」

「そりゃそうだろ。低レベルダンジョンの浅層で実戦訓練なんざ事足りるからな。しかもそれなら、僅かながらでも金にもなるんだ」

「えぇ。ですので施設を使いたい放題です。JDEAも使用料を得られるわけですし、損をするわけではありませんからね。えぇ、このあいだの姉さんみたいなことはしないんです」


 俺はそっぽを向いた。


「ということで、早急に試験官を準備してください。なんでしたら、あなたが試験官をしてもいいですよ。レベル37Bクラス探索者さん」


 そういうサラの瞳が妖しく揺らめいた。



 ★ ☆ ★



 演習場はJDEA本部の裏手にあった。外見的には国技館とか武道館のような感じだ。


 屋根があるのは……まぁ、街中だからな。魔法だのなんだのをドンパチやるとなると、外から丸見えなのはよろしくない。暴投した魔法を止めるためにも無くてはならないだろうが……。


 この建物の強度的にはどうなんだ?


 中に入り、照明に照らされた演習場にはいる。


 各種施設は充実しているようだが、演習場自体は普通に地面が剥き出しのフィールドだ。いわゆる競技場的なものと変わりない。広さ的には野球コート一面くらいは十分にはいるだろう。


 もっとも演習場以外の施設のほうには、人はほとんどいないようだ。まぁ、閑古鳥が鳴いているところに人を置くのは無駄金だからな。


 よって、飲食施設は閉まっているし、演習場に併設されている探索者用の装備関連のショップももちろん閉まっている。


 ……いや、これ、採算取れてないだろ。なにかしら金を生み出すイベントなりなんなりを企画しないと、ただの金食い虫だぞ。


 これが赤字を垂れ流す箱物行政ってやつか。


「姉さん、着替えますか? 試験官がここに来るまで、まだ時間があります」

「あー。それもそうだな。この恰好じゃアレか。つーかサラ、装備一式を持ってきたのは、これを予見していたからか?」


 問うが、サラはニコニコとした笑顔ばかりだ。まぁ、側でアレ……小宮間とか云ったか、聞いているからな。






 ということで着替える。とはいえフル装備ではない。上はコートは無し。マスクと帽子も無し。

 得物はショットガン2挺のみ。レッグホルダーには薬を差し込んでおいた。まぁ、俺が使うことはないだろう。

 あとは最低限の消耗品を詰めこんだウェストバック。これは不要だろうが、着けていないとどうにもしっくりこないからな。


 なんというか、銃を装備したバーテンダーみたいな恰好だな、これ。どうにもコートと帽子がないと締まらない。


 まぁ、いいか。見た目的には軽装だが、いずれも黒蒸気竜の革を用いた代物だ。そこらの金属鎧なんぞよりも高性能だ。


 脱いだ服をバッグに詰め込み、俺は更衣室を後にした。


 演習場にもどると、試験官は到着していた。


 大柄な男。背丈は190くらいか。軽装鎧に身を包み、背には大剣。


 面差しを確認する。


 若いな。二十歳前後ってとこか? 【解析】眼鏡に魔力を流す。


 21歳か。【(Power)】の属性持ち。外れの類だなぁ。力が上がるといっても、あれ、リミッターが外れるだけだしな。いわゆる火事場の馬鹿力を意図して発揮できるってだけだし。しかも時間制限付きみたいなもんだ。身体が強化されるわけじゃないからな。長時間使おうものなら、体が壊れる。


 【(Strength)】だったら当たりに入ったんだけどな。こっちなら骨格に筋肉、腱も魔力強化されるから、体が自分の力で壊れることも無い。


 レベルは59。新人相手の試験官としては妥当……なのか? いや、低過ぎね? オーマならまだひよっこ扱いレベルなんだが。21なら冒険者となってそれなりに期間が経っているだろうし、ただの無能だぞ、これ。


 大抵、冒険者になって1年で3桁を目指すんだし。1年やって90以上いけば冒険者として深層までいけるだけの才がある、という目安だしな。


 それ以下なら、せいぜい中層の上部くらいまでを探索して、日銭を稼ぐって感じか。ダンジョン内で生える植物関連の採取依頼は後を絶たないからな。とはいえ、それを専任でやる冒険者は少ないから需要はある。


 それなら浅層のみで日銭稼ぎ目的の冒険者は多いかというと、これまたごく少数だ。たいていは身の程と安全を無視し、一攫千金を目指して深みへ進み命を落とす。


 この辺りが、冒険者になる奴は狂ってる、なんていわれる所以だ。


「待たせな。それが試験官か?」

「言葉遣いがなってないな、ガキ」

「姉さん。ここは日本です」

「うん? あぁ、日本語だとそういう言い回しはしないんだったか。悪いな」


 空とぼけつつ、男に再度視線を向けた。


 この程度で怒気を出すとか。演技でもなさそうだし。大丈夫なのか? こいつ。冒険――いや、探索者か。探索者として以前に、人として残念過ぎやしないか?


 俺は眼鏡を外してサラに渡す。戦闘時に着けていられるほど、強固には作っていないからな。


「おい、本当にコイツが相手なのか?」

「えぇ。身の程を思い知らせてやってください」

「本人の前でそういうことをいうかね」

「俺はガキだろうと手加減なんてしねぇぞ」

「はいはい。そういうのはどーでもいいから」


 あー、面倒臭ぇ。


 俺は肩をすくめた。


「じゃ、とっとと試験を始めるぞ。そっちも暇じゃないんだろ?」


 俺はふたりから2、30メートル程離れた位置にまで移動した。


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