008_APPENDIX:EXP = EXplorer's smartPhone
■APPENDIX:EXP = EXplorer's smartPhone
EXPと聞いて真っ先に思い浮かべるモノはなんだ?
ゲーム好きなんかは〔EXperient Point〕、即ち〔経験値〕を思い浮かべるんじゃないか?
かくいう俺もその類だ。ゲーム好きだったからな。いや、いわゆる格ゲーに登場するキャラの動きなどは興味深かったりするんだ。実際に同様に動けるかと云うと、できるかぁっ! となるものも多いが。
まぁ、いまは【念動】を利用して呪文化した【BS】や【GS】、【GM】なんかあるから、物理法則を無視した無茶な動きもできるんだが。
と、話が逸れた。
EXPと云えば経験値、と、俺は真っ先に思ってしまうわけだが、探索者としてはそうではない……ようだ。
〔EXplorer's smartPhone〕。探索者用の携帯端末だ。
基本スマホと一緒だが、それとは桁違いに頑丈に造られている。そしてエマージェンシーコールがついていることが決定的に違う。
救援要請の信号発信機能だ。結構な優れものらしく、自身の場所も含め、スイッチひとつで自動的に発信されるそうだ。階層情報はもとより、ダンジョンマップがが確定している階層であるなら、要請者の位置もリアルタイムで表示できるとのこと。
つまり、救援者が救援要請者を探して回る必要がないわけだ。
こんなのは地球ならではだよなぁ。
オーマでこんなシステムがあったらロクなことにならないぞ。要救助者を殺して身ぐるみを剥ぐような輩がほとんどだし。
そういう悪党を見つけては暗殺して、食糧だのを調達してた俺もロクなもんじゃないがな。
さて、このEXPだが、ほぼ6社で市場が独占されている。これが日本国内となるとほぼ2社に限定されるようだ。つまりこの2社が勝ち組ということだな。
俺は初めて聞いたが、日本は極東のガラパゴスなどと呼ばれるほど奇妙な状況になる土地であるとのこと。どういうことかというと、世界の市場状況と日本の市場状況は著しく解離しているのだとか。
なにをいいたいのかというと、世界市場でみれば2強に数えられるほどの企業の片割れが、日本だと忌み嫌われているということだ。
……まぁ、何故かというと、その理由となりそうな話を聞くと納得なのだが。
「爆発するんですよ」
サラが云った。
そう。日本で敬遠される理由だ。
「爆発って、爆発するようなパーツが使われてんの? 携帯なんざ爆発するようなもんじゃないだろ。実際、他所のは爆発なんてしてないんだろう?」
「バッテリーがゴミなんです。加えてパーツ配置に問題があるため発熱が酷く、それが原因で増々バッテリーが爆発しやすくなってます」
……待て、それは完全に構造欠陥じゃねーか。つか、その云い回しからして、バッテリーが普通に爆発すんのか? なんでだよ。
「さすがのクオリティですね」
そんないい笑顔で皮肉をいうなよ。
「ということで、生鮮食品を扱ってるんじゃないかと誤解しそうな企業ロゴの最大手海外メーカーか、安心の国内メーカーかの2択です。国内メーカーのほうが若干劣るのでしょうか? とはいえ、市場評価はさほど当てになりませんからね」
「除外したやつの評価は?」
「評価というよりも、起こされた訴訟云々から信用なりません。死亡事故も起きていますし」
「なんで携帯端末で死亡事故が起きるんだよ。おかしいだろ。どんだけ爆発させてんだ? ちゃんと品質チェックとかしてんのかよ?」
「そういうとこです。信用なりませんので除外です」
あぁ、なるほど。納得しかできねぇ。
「パイナップルとバラ、どっちがいいですか?」
「……企業のロゴか?」
「そうです」
「丈夫な方で。機能は十分揃ってんだろ? 性能差なんて五十歩百歩だ。だったら荒事により耐えられる方がいいよ」
「了解です。ではバラの方で」
「国産のほうが頑丈か?」
「そちらに特化した機種があるようです。若干重いので、人気はいまいちですが」
「あー。でもまぁ、俺たちには重さなんて些細なもんだろ?」
「そうですね。重さなんてどうとでもできます」
「それじゃ、それでよろしく」
「では、新規契約をしてきますね」
しかし実際のところ、一番の問題点ってのは――
俺がスマホをまるっきり使い熟せないってことなんだよなぁ……。まぁ、通話さえできればいいか。
そんなことを思い、俺はひとつため息を吐いた。




