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008_探索者免許を取得しに行こう


 ダンジョンの中枢。ダンジョコアの挿げ替えは簡単だった。


 ボス部屋の隠し扉を潜り抜け、中枢部屋へと入ると、これ見よがしな台座の上にキューブ状のダンジョンコアが角を下にしてクルクルと回っていた。


 そいつを無造作に引っ掴んで台座から少しばかり持ち上げ、その下に新しいダンジョンコアを突っ込むだけだ。


 この時、元のダンジョンコアを台座から完全に退けてはいけない。


 視覚では見えないが、台座とダンジョンコアとを結ぶ導線のようなものがあるとのことだ。それが切断するとダンジョンがよろしくない形で崩壊するため、絶対にしてはいけないらしい。


 で、その繋がっている導線に新規のダンジョンコアを、サラが容赦なく突っ込んで台座に置いて仕事は完了。


 ふたりいれば簡単だな。だが俺ひとりだと、体格の関係でちょいと面倒やもしれん。


 ……ふふ、腕が短すぎるんだ。



★ ☆ ★



 あの小ダンジョンを4周ほどして戦闘勘はどうにか整えた。その後、サラがボス戦を行い、人の姿での戦闘能力を確認した。


 ということで、いま俺のところには黒蒸気竜が5体、素材としてストックされている。内一体は装備作成に使うから、まるごと4体残っている。1体は残しておくとして、3体は売っ払うとしよう。


 さて、オーマと地球、どっちで売るかはサラと相談するとしよう。






 それから1週間。俺はと云うと、図書館へと通ってここ四半世紀の情報を、ざっくりと頭にいれてきた。まぁ、付け焼刃だが。


 問題なのはその大半が新聞からの情報なんだよな。正直、どこまで信頼できるのか不安であるが、まぁ、起きた事実、事件に関しては嘘はあるまい。


 世情に関しては以上だが、それ以外は家電量販店やホームセンターなんかに行って来た。いや、どうにもIHとやらに慣れなくてな。まぁ、使うしかないんだが。


 なにあれ。『行き過ぎた科学は魔法にしか見えない』なんていうが、あれはまさにソレそのものだろ。いや、科学の産物なのは分かるんだが。電熱とも違うんだろ? それ用のフライパンなり鍋なり使わなくちゃならないんだから。


 ……理解が追いつかん。


 まぁ、いい。俺は技術屋じゃないんだ。知らずとも安全に使える知識だけあればいいだろう。


 ふふ、本当に浦島太郎状態だというのを実感する。テレビの薄さにだって驚愕したし。それに対し、サラはかつての状態を知らないから、普通に受けれ入れている。IHはさすがに意味不明だったらしく、バーベキューセットなんて持ち込んだりしてたわけだが。そのサラよりも俺の方が驚いているという有様だ。


 まぁ、そんなドタバタも漸く落ち着いた。正しい生活のあり方に慣れた……というか、取り繕うことができる最低限のレベルにはなったというところだ。


 とりあえず、現状のこの有様でご近所づきあいをしなくて済むというのはありがたい。


 なにせこのマンション、入居しているのは実質俺たちだけなんだよ。


 一応、賃貸となっている部屋はすべて契約済みとなっているが、そのすべては公共機関や企業となっている。


 ……どうやら近場にできているダンジョンのせいらしい。ほとんど社宅、というか、契約企業がウィークリーマンションみたいな感じで使っているため、人の入れ替わりが激しい――と、サラが云っていた。


 ダンジョンの周囲……何キロだか忘れたが、そこは危険区域として人の居住が禁止されている。このマンションはそのエリア外ギリギリの所に建っている。

 範囲内の店舗などはそのまま使用可能であるが、基本的に通いとなる。そのため、そこで働く従業員用の居住地としての需要があったというわけだ。


 とはいえ、エリアギリギリであるこの辺りの一般人は皆非難しているため、人通りは少ない。いるのは探索者相手に商売をしている企業や店舗の関係者くらいだ。


 結果として、活動時間の開始が遅い俺はほとんど顔を合わせることが無い。


 隣駅周辺はここにダンジョンが出来ていることと、近場でありながら安全性が高い場所ともあって景気が良く、発展しているんだけどな。


 そしてこの1週間、サラはなにをしていたのかというと。


「姉さん、来週、探索者ライセンスの取得に行きましょう。なんとか各種情報操作が期日までに間に合いました」

「了解した。なにか試験とかあるのか?」


 車の免許とかと一緒なら結構面倒なはずだが。試験の場所も固定だから、場所によっては遠出となるだろう。


「いえ。講習だけです。試験もありません。形式としては各都道府県で3ヶ月に一度、希望者を集めて行っています。一応、国家資格となりますね。そうですね、アレです、調理師免許と同じようなものでしょうか。なぜか試験は平日の水曜日に行うことになっていますが」

「あー。そういや、各県ごとで試験内容が違うって聞いたな、調理師試験。神奈川と東京が難しいからって、一時的に住民票だかを移してそこで受けるとかなんとか。神奈川で取得した調理師免許は箔がつくんだって、馴染みの料理屋の大将が苦笑してたな」


 しかし講習だけか。


「実戦経験はともかく、訓練もなしにダンジョンに放り込むのは問題じゃないのか? 魔物、魔獣とはいえ、それを殺すのはハードルが高いぞ。屠殺場とかで牛だの豚だのを潰すのに慣れているような者ならともかく、そこらの一般人には難しいだろ」

「一応、講習後にベテランの探索者の庇護の元、比較的安全なダンジョンで実戦を行うようですよ。その際の状況如何によっては、探索者ライセンスの発行が取り消される場合があるようです。それまでは仮免許ということですね」

「あー、なるほど。それならさほど無茶でもないか。オーマのギルドとさほど変わらん。まぁ、あっちは冒険者なんぞ基本使い捨てだが」


 冒険者なんざ、食い詰め者が行きつくハイリスクローリターンな仕事だからな。


 俺みたいにダンジョンにガキの時分から住みついて剥ぎ取り屋(スカベンジャー)なんてやってるのなんざ、狂ってるとしかいいようがない。


 まぁ、そうでもしなきゃ生きられそうになかったんだが。


 俺以外の外れは……多分、いいように使い潰されただろうからな。ダンジョンから出た頃には、誰も見なかったし。もしかすると、幾人かは売られてあの男爵に還元されていたのかも知れない。


 ま、俺は外れって分かった瞬間に逃げてダンジョンに飛び込んだけどな。とはいえ属性持ちだ。洗礼で前世を思い出してなかったら、どうなってたんだか。考えたくもない。



 ★ ☆ ★



 翌週の水曜、俺たちは都内に向かって電車で移動していた。


 正直、見てくれが北欧女子である俺たちは異様に目立つ。やたらと色白でプラチナブロンドとなればなぁ。実際、ブロンドの人口比率ってかなり低かったはずだしな。


 恰好は一般的な女児な恰好だ。


 いや、もう慣れたよ、女児の恰好も。サラと買いものに行ったわけだけど、真っ先に向かったのが子供服だし。なにより、靴のサイズを確認して、なんともいえない気持になったし。気持が沈むって、ああいうのをいうんだな。

 ……いや、装備の靴は自分の足に合わせて皮を変形させたからさ、サイズなんて測っていないんだよ。


 まさかこんなところで自身のちっこさを実感させられるとは……。


 セミロングの髪はローツインテ―ル。白のロングパンツに黒の長袖シャツにキャップ。ほとんどストリートキッズみたいな恰好だ。もちろん、サングラス(ミラーシェード)を装備している。ちょっとばかり細工をしているがな。


 左のレンズは『魔法辞書』化した魔石。右のレンズは『魔法発動体』。いや、素通しだから、レンズとはいわんか。

 魔石を【位相】で加工した特別性のミラーシェードだ。あ、フレーム部分はもちろんミスリルだ。施してあるのは【鑑定】の上位互換である【解析】だ。


 そう。オーマだと一部の王侯貴族とギルドの中央が持っているだけの希少品のアレだ。


 使用した魔石のサイズは中。出力は標準レベルであるから、高レベルのモノに【解析】を掛けても弾かれるだろう。俺の持ってるダンジョン産の【解析】アイテムと比べるとやや劣化な代物だが、【鑑定】アイテムとしては上物といったものに仕上がった。


 ちなみにサラは近所のゆるふわ系お姉さん風のカジュアルな恰好で、同様に【解析】仕様の眼鏡を掛けている。あぁ、【位相】を使えば色ぐらいはどうにかできる。魔石は総じて赤黒いが、色を抜いたところで変質したりするものじゃないからな。


 魔力を通さなければただの伊達眼鏡だ。問題ない。


 そうそう、ダンジョンに潜るような恰好ではないのは当然だ。あんな恰好、そこらを歩くには目立ちすぎるし、なにより物騒だ。


 それらの装備は、サラの引っ張っているキャリーカートと、俺の持っているアタッシュケース(ジュラルミンケースならぬミスリルケース)に入っている。


 ダンジョンができて法整備がされたそうだが、銃刀法は緩和されたものの撤廃されたわけじゃないそうだからな。


 千寿に到着。乗り換えて秋葉へと向かう。そこから山手線で目的地の品川へ。


 品川にダンジョン探索者管理する組織、JDEAの本部がある。


 ダンジョン出現当初は自衛隊を主体としてダンジョンを攻略、安全管理をする予定であったものの、いかんせん、出現したダンジョンの数が多過ぎる。


 自衛隊だけでは手が回らないと、警察組織、猟友会にも協力を要請するもまだ足りない。


 結局、民間より志願者を募集しダンジョンを攻略、というよりは、ダンジョンより出現する害獣(・・)駆除(・・)するという名目で、法整備が為された。


 そしてダンジョン庁が設立。


 更に一般の害獣(モンスター)駆除を行う者たち、通称〔探索者〕を管理する組織として〔日本(Japan)ダンジョン(Dangeon)探索者(EXplorer)(Assoc)(iation)〕、JDEAがその下部組織として発足。


 で、このJDEA、分かりやすくいうと冒険者ギルドだ、まさしく。なんか小難しい名前になってるが。


 このJDEAが日本国内にあるダンジョン管理の実務を行っている。というか、探索者の管理と、ダンジョンより産出される各種物品や素材の検閲やらなんやらをやっている。


 ほかにもいろいろとあるらしいが、下っ端の探索者には関係ないことだ。


 なに、探索者はダンジョンに潜って、モンスターを殺してドロップ品だの素材だのを集めて、JDEA、或いは依頼をJDEAに出している企業に販売するだけだ。


 そんなJDEAの本部がある品川で探索者講習は行われる。


 そしてサラが『絶対にトラブルが起こります。楽しみです』とかおかしなことを云っている。


 いや、ライセンスを取得しに行くだけだぞ。講習後、実戦演習的なことを、指導教官とつきそいの探索者とでパーティを組んでダンジョンに潜ってするだけだぞ。


 それも演習は予定を組んで後日だろ?


 講習で問題なんぞ起きようがないと思うんだが?


 そう云うと、サラは素晴らしい笑顔でこう云った。


「ちゃんと調べてきましたから。問題なく不正が行われます」


 いや、サラ、それは問題だろ。


「組織的ではないことだけが救いですね」


 そんなに酷いのかよ!!


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