たま
……むかしむかしのお話です。
この世界では、たまをこしらえることが一番の目標でした。
まあるいまあるい玉を…。
つやつやかがやく玉を…。
見たこともないような色の玉を…。
大きな大きな玉を…。
玉をこしらえて、たまにすることがすべてでした。
玉をこしらえるためには、協力することが必要でした。
みんなで集まって、より良い玉をこしらえようとがんばっていました。
より良い玉を作るという目的のために、一途につとめていました。
一つの美しい玉が完成すると、それはたまになって生まれていきました。
ひとつのたまになることができた喜びに満ちて、命を謳歌するために地上に降りてゆきました。
みんなが集まり、玉になって、たまとしてこの世界から旅立ちました。
命を堪能したたまは、喜びを纏ってこの世界に戻りました。
喜びを纏ったたまは、再び命を得て地上に向かうことがありました。
喜びを纏ったたまは、次はもっといい玉を作りたいとバラバラになることがありました。
何度も何度も繰り返しているうちに、少しずつ…世界は変化していきました。
みんなで集まって玉をこしらえるのではなく、理想の玉を完成させることを考えて必要なものを選ぶようになりました。
どんな玉が完成するのかわからなかった時代は終わり、作りたい玉を目指して不足なものを探すようになりました。
不足なものを求めるものもいましたが、不足していないもので補填して良しとするものがあらわれました。
協力して玉をこしらえることをせず、無理やり引き込んでたまに至らせるものもあらわれました。
努力をして自ら丸くなり、小さなたまになって生まれていくこともありました。
みんなで集まって玉をこしらえるのではなく、たまを完成させるために工夫をすることが主流になりました。
いくつもいくつも玉になって、たまとしてこの世界から旅立っていきましたが、いつしか、たまになれたことに喜びを感じていた時代が終わっていました。
利用された怒り、大きくなれなかった後悔、美しいたまに対する嫉妬、満足できない仕上がりで生まれなければいけない諦め…。
妥協することで小さな不満が発生し、たまの輝きをにぶくしていきました。
小さな小さな不満は、玉がたまになるたびに蓄積していきました。
たまが命を終えてここに戻って来ても、不満は消えることがありませんでした。
いつの間にか地上には、不完全なたまを持つ命があふれるようになってしまいました。
あちこちに不満が漂うつまらない場所を見下ろしながら、玉をこしらえることをやめるものが増えていきました。
玉になれないものがくすぶっている世界で、玉になろうともがいているものがいます。
玉になれないなら仕方がないと、不完全なたまになって地上に降りるものがいます。
玉になれなかったせいだと、不満を蓄えたたまがこの世界に戻ってきています。
この世界は、もうだめかもしれません。
この世界は、もう駄目なのでしょう。
……残念で、なりません。




