表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴走×少年×少女  作者: あしなが
二巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/54

53




「……仕方無い、ウサギちゃん。今から冬馬さん家に送ってあげる」

「え?」

「昨日、邦木から連絡がきてたんだよ。遊び終わったら送ってって。今からじゃクトコウのやつらのせいで遊び歩けないし、蔵木たちに話もあるしさ」


 さらりとそう言って退ける紫さんに、私は疑問に思っていたことを尋ねてみた。


「紫さんって、翡翠さんたちと仲良いんですか?」

「え? ああ、仲良いっていうか……この前、〝黒〟の話はしたよね?」

「はい」

「その中のメンバーに、一応私も入ってんだよね」

「はあ……そうなんで……ええっ!?」

「この前も音楽室にいたし……さすがに気づいてたかと思ってたけど……」


 あはは、と小さく笑う紫さんは「やっぱ気づいてなかったかー」と私の隣を歩いた。


「まあ、その反応も無理ないんだけど。ウサギちゃんが来る前まで、女なんて私一人だったし」

「ど、どうして、紫さんが……?」

「ああ、まあ、なんていうの? 後処理班っていうか……」

「後処理班?」

「泰司さんたちが何かしでかしたら、学校側の人間に揉み消すよう交渉する役目って感じ? 叔父さん、私には弱いし」


「それに」と紫さんは続けた。


「私、ちょっとした情報屋みたいなことしてんだよね」

「情報屋……」

「だからなんて言うか、仲が良いわけじゃなくて……私は泰司さんたちにとったら良い駒でもあるし、要注意人物でもあるし、ある意味、不安材料でもあるって感じ?」


 少々考え込むように言って、ふんと鼻で笑う紫さん。その言い方がどっちつかずで、どうでもよさげなのが言葉の端々で伝わった。


「適当に色んな所から情報仕入れて売ってたら、なんかどんどん顔広くなっちゃって。だからさっきのやつらに顔を見られたのはまずいっていうか……、つっても八神に見られたのはまずい以前の問題だけど」


 ぶつぶつと、段々と声が小さくなっていく紫さん。


 そんな彼女の声、というか内容は、今の私の耳には届いていなかった。だって。


 ああ、なんて、なんて。


「情報屋……!」


 かっこいいのだろう……!


「す、素晴らしいです!」

「えっ?」

「なんだか映画でよく見る女スパイみたいな感じです! すっごくかっこいいです!!」

「え、ああ、ほんと……? っていうかこの手はなに……?」

「私もやってみたいです、情報屋!」


 紫さんの手を両手でぎゅっと握り締めてそれを言えば、彼女は少々狼狽えつつ空色の瞳を揺らしたあと、呆れた、とばかりに吹き出した。


「そんなこと初めて言われた……。変わってるね、あんた」


 くすくすと笑い出す紫さんは、その勝気な態度からは想像出来ないほど可愛らしいもので。


「名前……たしか小宵、だったよね」

「あ、はい……」

「うん、小宵。改めて、よろしくね」


 私から握っていた手を、逆に握り返して彼女は告げた。


 同時に、私の目からは涙が溢れた。


「うわっ、何!? 急にどうしたの!?」

「は、初めて、お友達、名前をっ」


 うわあああっ、と目元を腕で拭いながら、私は空を見上げた。


 初めて出来た女の子のお友達から、初めて名前を呼ばれた。


 私にとっては、信じられないほどの嬉しい出来事だった。


「ちょ、ちょっと泣き止んでよ! なんでそんなに派手に泣く必要があるの!?」


 泣かれることには慣れていないのか、戸惑ったようにあたふたしている紫さん。


 それでも涙が止まらない私の後ろから。


「あらら。どーして、泣いてんのかなー?」


 私の両頬を潰すように手のひらで包んで、誰かが上から顔を覗き込んで来た。


 その飄々とした声色と、色素の薄いクリーム色をした髪の毛ではっと気づく。


 目の前の垂れ目がニヤリと細くなって、「んー」と私の唇に目掛けて何かをしているのが見えた。


 …………。


「わあっ!?」

「小野町、いきなり何してんだ。捕まりたいのかよ」


 私は咄嗟にそれを寄けて、紫さんの背中に回る。


 そんな私たちを見て、私服姿のリュウくんは「あは」と笑った。


「だって、紫ちゃんがオサゲちゃん泣かしてるから、慰めてあげよーと思ってさ?」


 惜しいね、とばかりに親指を舐めて、「あとちょっとだったのに」とその色気のある目元を細めていた。ひええ、と思いながら私は紫さんの背中に再び隠れる。


 それを見て、リュウくんはケラケラと笑った。本当に心臓に悪い冗談ばっかりする。


 どっどっと心臓がうるさいので胸を押さえていると、紫さんは呆れたように「別に泣かしてないし」と溜息を吐いていた。


「まー確かに。その様子を見ると、紫ちゃんはあんまり悪くなさそうだね?」

「だから泣かしてないって」

「本当にー?」

「うっざ。つか、小野町も今から、冬馬さん家?」

「そうだよ」

「暇人だな」

「人聞きの悪いこと言うなあ」


 そう言って、リュウくんは真っ白な塀を沿ってまっすぐに歩くと、近くにあった大きな門に手をかけていた。


「リュウくん、どちらへ?」

「どちらって、冬馬さん家だけど?」

「……え?」

「ここ、冬馬さん家」


 門の中を指差してそれを言うリュウくんに、私は「え? え?」と塀とリュウくんを交互に見て、そして彼の傍へ駆け寄って驚愕した。


「え…………」

「相変わらず冬馬さん家でかいなー。つか、綺麗」

「紫ちゃん、来るたびにそれ言ってるよねー」

「一流ブランドの会社ともなると、こんな家、ポンポン建てられるんだから良いよね」

「つっても紫ちゃん家も大きいじゃん。羨ましい」

「さすがにこんな大きくないわ。蔵木ん家のが比べようがあるでしょ」

「スイん家はまた規模がねー」


 ペラペラと会話しながら歩いて行く二人の背中を、茫然と見つめる。


 人は見かけによらぬものと、転校してから常々思ってはいたけれど、


 こんな大きくて豪華な塀の向こう側に、冬馬さんの家があるだなんて考えられなかった。


 冬馬さんは一体、何者なんだろうか……?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ