05
「は、転校生?」
「知らねえのミク。あの洸瞑院から俺たちの学年に来るって、すごい噂になってたじゃん」
「洸瞑院って、……まさか、あの超金持ち学校のか?」
「そう。……あ。ってことは、オサゲちゃんって何、もしかしてお嬢様?」
メッシュ頭の彼が私を指差して、まるで答えを言い当てるような口調で告げた。それに何故か金髪の彼が「いや、ねえだろ」と即答した。
「お嬢様がこんなダサいわけねえし、あんな馬鹿力でもねえだろ」
「いやいやそれは偏見がすぎるって。お嬢様って護身術とかしてるイメージあるし」
「じゃあ、リュウはこいつがお嬢様だってマジで思うのかよ」
「んー、まー。本当に洸瞑からの転校生っていうんなら、そうなんじゃない?」
「てか、なんでうちみたいな学校に? それが一番謎なんだけど」
私の顔を覗き込むようにして前屈みになりながら、メッシュの人は首を傾げる。じろじろと見られている。ここにきて、こんな風に見られたのは何度目だろう。そしてその度に石のように固まってしまうのも、何度目か。
「あ、それで、何だっけ。さっきなんか言いかけてたよね?」
「あっ、それで……職員室にい、行かないと……いけないのですが……」
「職員室ぅ?」
メッシュ頭の彼の後、金髪の彼が「馬鹿じゃねえの、お前」と、呆れたような顔で告げた。
「状況わかってんのかよ」
「……じょ、状況、ですか?」
今の状況は、正直な所よくわからない。知らない部屋で、明らかに生きる世界の違うような人たちが取り囲んでいるこの状況を、理解できるという方がおかしな話だ。
「マジで信じらんねえ、こんな女に俺も泰司さんも……」
「まあさ、職員室ぐらい行っても問題はねえだろうけど」
メッシュ頭のその人が私を一瞥する。
「たくさんの人前で、泰司さんをヤッちまった代償はそれなりに大きいし、あんたさ、結構ヤバイ立場にいるってことは、頭に入れといた方がいいよ」
「や、ばい……?」
いつまでも座っていられないのでなんとか立ち上がると、ソファに座っていたクリーム頭の彼がへらへらとした口調でこう続けた。
「どうする? もしもさぁ、学校中が『マツキタの頭交代だー』って騒ぎになってたら。はは。まあ、それはそれでウケるけどー」
「全くウケねえよ、アホかお前は」
「言ってみただけだって。ミクたんったら怒りっぽいんだから」
「きもい、その呼び方やめろ」
口の悪い金髪の彼と、どこか掴みどころないクリーム頭の彼の会話を一応耳に通すも、訳が分からず。
「んま、取り敢えず、あーと、なんだっけ? 職員室? 行きたいんだっけ?」
メッシュ頭のその人が、声をかけてくれる。この人はまだ、話が通じる人かもしれない。
びくっとしつつも、頷けば、「ふーん。じゃあ、案内してやるから、来なよ」と、そのまま扉へと向かっていった。
「あ、なに勝手なことしようとしてんだトラ。お前、もしもこのオサゲ女が、演技してたらどうすんだよ!」
「はいはーい。そんときはそんときー」
金髪の彼の話は適当に流しつつ、メッシュ頭の彼は私を置いて、さっさと部屋から出て行った。すたすたと歩いて行きすぎでは……?
ぽつんと立ち尽くしている私に、クリーム頭の彼が「行かないのー?」と首を傾げていた。
「えっ、あっ、はい……し、失礼しました……」
鞄を持って、そろそろとドアの方に歩いて行く私に舌打ちをする金髪の彼。その鋭い眼光にぎくっと肩を揺らせば、彼はけっと顔を逸らしていた。
こ、この人には、これから先、どうか出会うことがありませんように!
そう願いながら、私はその部屋を後にした。