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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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 トラくんも笑うし、リュウくんはそれこそよく笑う。


 ミクさんは意地悪な笑みしか見たことないけれど。


 冬馬さんも、多分、笑って、たような。


 泰司さんやコノエくんの笑った顔は、まだ見てないけれど。


 強面さん達とかも、思えば、ちゃんと笑ってた、気がする。


 私が前いた学校は、〝笑顔〟を作るって言うのかな……?


 媚を売るために、笑っているように見えてならなかったものだから。


 自然体で笑うって、こういうことなのか。


「? 小宵?」

「え? あっ、すみませんっ」


 ぼーっとしてしまっていたせいで、私は咄嗟に俯いた。


「い、え、あの……翡翠さんって、意外と喋ります、よね」

「そうか?」

「寡黙なのかと、思ってました」


 素直にそう告げれば、彼は少し間を開けて「なんだ」と言葉を続けた。


「嫌か?」

「いえ! そんなことないです! 私は、お話してくれる方がその人がどういう人なのかがよくわかるので、とても助かるといいますか……!」


 と、そこまで言いながら顔を上げると、目が合って少し恥ずかしくなる。


 私ってば、なんでこんな説明をわざわざ……。


「か、寡黙だと思ったのはですね、その、翡翠さんとあまり喋る機会がなかったからで、だって最後に喋ったのも私の胸を………!」


 言いかけてはっとした。


 なんてことだ。自ら地雷を踏んでしまった。


 だらだらと滝汗を流し真っ青になる私に、翡翠さんはと言えば、記憶を引っ張り出しているのか数秒ほど固まったあと、は、と目を見開いて、口元を押さえて顔を逸らした。


 ま、まま間違えてしまった……!


 不可抗力とは言え、私が胸を触られてしまったあの大事件は、翡翠さんにとって口元を押さえるほど気持ちの悪い出来事だったのかもしれないのに!



「ごっ、ごめんなさい翡翠さん! 私、翡翠さんの気持ちを何も考えずにっ……!」

「い、いや別に……あれは、仕方のないことだ」


 顔を逸らしたままの翡翠さんの言葉が珍しく詰まる。


 それすらも私のせいに思えてならない。


「と、いうか謝る必要はない。俺よりお前の方が、嫌だったろ……悪かった」

「!!」


 顔を逸らしたまま歩いて行こうとする翡翠さんに、申し訳ない気持ちが更に募る。


 なんてことだろう。悪いのは決して、翡翠さんではないのに……謝ってくださっている!


「いえっ、本当にあれは私が…………、ぎゃあ!? 虫!!」


 の、死骸が足元にまたもや見えて、私は悲鳴を上げる。


 その時、ちょうど爪先が滑ってしまって、前方にいた翡翠さんの方へ身体が傾いてしまって。


 どうした、と振り返ろうとした翡翠さんに、私の身体が倒れ込んで行く。


 その全てが、スローモーションに見えた。


 どしん、と倒れ込んだ先、良い香りが鼻腔を擽った。


 恐る恐る身体を起こせば、私なんかがこんなに身近で見るには勿体ないくらいに整った顔をした翡翠さんが、目の前にいた。


「こ、よい……」

「っ……」


 どうやら私は、意図せず翡翠さんを組み敷いてしまったようだった。


 「お前、大丈夫か」と私の腕に触れようとした翡翠さんが、地面に打ち付けた背中が痛かったのか少し眉を顰めた。


 それに私はサァッ……と全身の血の気を引かせて、即座に謝ろうとした、


 ところで。


 タイミング悪く、ギィィ……と、屋上の扉が開いてしまった。



 そこには、「は、何してんだよ。お前ら」と愕然としたような顔をしたミクさんと。


 そのミクさんの後ろから、「うっわ」とひょっこり顔を覗かせたのはリュウくんだった。


「うそうそ!? 二人、ナニしてんの~?」


 口元を手で押さえて、リュウくんが「うわうわうわ」と連呼している。


「なるほど、そっかそっか! オサゲちゃんが上か~!」

「てっめえ、スイに襲いかかって何してんだ……!」


 などと謎に大喜びしているリュウくんとは正反対に、どこぞの般若の如く怒り狂った顔をしているのはミクさんだった。


「ち、違うんです、これは……!」

「マジですっかり騙されてたぜ……お前ってやつは!」

「これは、あの……!」

「とんでもねえ痴女だったんだな……!!」

「!?」


 ち、痴女!?


「えー嘘、痴女ぉ? そうなんだ、あんな清純そうな見た目してエロいだなんて、最高のギャップじゃん! 何それ~! 俺そういうの大好き!」

「リュウは黙ってろ!」


 目をキラキラさせている変態リュウくんはさておき。


 ミクさんにとんでもないレッテルを貼られてしまい、私は、生きた心地がしなかった。


「ち、違うんです、これは事故で……」


 と。震えながら小声で説明する私の下。


 変わらず下敷きにされている翡翠さんが、顔を手のひらで押さえて、笑いを堪えているだなんて誰がわかるのだろう。


「隙あらば男を食おうだなんて……痴女オサゲには今後、監視が必要かも知んねえな……」


 真剣に呟くミクさんの中で、私は痴女オサゲに見事、昇格……否、降格した。


 これなら、まだ出来損ないのトップと呼ばれる方がマシだ。


 本気でいらない称号だと、心の底から思った。






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