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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻
4/54

04





「――――ってえ、許さねえからな。その女!」

「とか言ってー、ミクたんが弱いからいけないんでしょー?」

「うっぜえよリュウ! お前はちったあ、黙ってろ!」

「女の子に無抵抗で殴られた上に倒れるなんて、ダサすぎて笑えるー。俺だったら恥ずかしくて、顔なんて出せないよ」

「お前、それ泰司さんの前でも同じこと言えよな。あ?」

「あはは、無理。俺、命惜しいもん」

「惜しいもん、じゃねえよ。気持ち悪いな」


 ぎゃあぎゃあと言い合う騒がしい声が聞こえて、私は薄っすらと瞼を開いた。


 埃っぽい匂いと、硬い感触に気が付いて、私ははっとして起き上がった。ゆ、床に寝転がってたの私……!


 っていうか、ここどこ! と真っ青な顔で辺りを見回そうとしたら、私のすぐ近くを歩いていた誰かが、「あらー」と立ち止まった。


「起きたのー?」

「ひっ!」

「どしたの、なんで怯えてんの?」


 急に私に目線を合わせてくるその人。ふわりとした甘い香りに、後退りをすると背中が壁に当たった。そんな私を頬杖を突きながら「んー?」と見つめてくる。


 目尻の下がった色気のある目と、口角の上がった血色のいい唇。ゆるーくウェーブのかかった、クリーム色の髪の毛に目がいく。少し緩く空いたボタンの空いたシャツからは、きらきらしたネックレスが見えて、やけにお洒落な人だなと思った。


 は、は、派手……!!


「あー? 起きたのかてめえ!」


 そんな彼の後ろから、見覚えのある金髪の彼が拳を握り締めて、こちらに向かってやって来ていた。


「こーらミク。女の子にそんな言葉使ったらダメだって。もう少し穏やかに行かないとモテないよー」

「別に、お前みたいに女子ウケしようとしなくても、俺はモテるからいーんだよ。……つうか、さっさとそこ退け!」

「えー。どうしよっかなー」

「鬱陶しい! 子供みたいな嫌がらせしてんじゃねえよ。さっさと退け」

「だってこの子怯えてるじゃん、子鹿みたいにずーっと震えてるよ?」


 「可哀そうに、ねえ?」と緩い声を上げながら、その人は私を覆うようにして壁に手を当てていた。必然的に胸元が近づいて私はごくりと唾を呑み込んだ。な、ななんで、こんなに近いの、この人!


「あ、ああ、あの……!」


 唇を震わせれば、クリーム頭のその人は「あれー?」と首を傾げた。


「顔青いけど、どうかしたの? というかこういう時、普通、顔赤くしない?」

「ち、ちか……近……」

「っていうかさー、このおさげって地毛? なんかすっごい綺麗なんだけど、髪とか染めたことないの?」

「っ、ひえ!」


 結っている髪を自然な動作で掴まれて、びたん! と背中を壁に擦り付ける。と、彼はきょとんと目を丸くして、「あっはは!」と笑っていた。


「何それ、カエルみたーい」

「こんの垂れ目! 退けろって……言ってんだろーが!」


 すると、後ろから金髪の彼が思いっきり足を振り上げたのが見えて、私は「きゃっ……」と小さく悲鳴を上げそうになった。


 ところで。


「おらミク、何しようとしてんだお前」

「おわっ!」

「おー、トーラ!」

「なーんだ、リュウか。何、お前らまた喧嘩してんの? いい加減、飽き……って、誰それ」


 眉間を寄せるその人。色を抜いたような茶色の中に、金色のメッシュが入り混じっているのが印象的な髪色をしている。細身だけれど、たぶんかなりの高身長だ。


 そんな彼の斜め後ろの方では、尻餅を付いている金髪の彼が「痛え……」と唸っていた。見えた限りでは、片手で金髪の彼の襟元を引っ張って、後ろに払ったように見えた。……んだけど……気のせい、だろうか。


 というか、今そこで尻餅をついている金髪の人といい、すぐ傍にいるこのクリーム頭の人といい、すっごい派手な髪の毛の色だ。


 今まで生きてきた中で、こんな奇抜な髪色の人と出会う機会なんてなかったから、驚きを通り越して……なんていうか、感銘を受けるような、感動してしまうというか。



「ん? 誰ってこの子?」

「なんだよ、リュウ。また女たらし込んでたのか。そりゃあ、ミクも怒るわ」


 悪い悪い、と謝りながら、金髪の彼を引くその人に、クリーム頭の彼は「えー」と笑いながら一度私を見た。な、なんで私を見るんだろう……?


「いきなり襟引くんじゃねえ、いちいち力強いんだよお前は!」

「だから悪いって言ってんじゃん。つーか、リュウ。女の趣味変わったのな。なんつーの? いつもより地味じゃね?」

「えー」

「『えー』じゃねえよ、リュウ。なんで、てめえはさっきから否定しねえんだよ。わざとだろ」


 舌打ち混じりに金髪の彼が言う。それを見ながら、リュウと呼ばれている彼は、私から離れるようにして立ち上がった。


 やっと呼吸ができる気がする。よく知りもしない……なんだかちょっと怖そうな人とあんな至近距離なんて……あと少し長かったら、また失神していたかもしれない。


「え、リュウが連れ込んだんじゃないの?」

「違うよ。連れ込んだのはミーク」

「あー、なんだミクか。………お前、女の趣味変わったなぁ」

「ばっか、違えよ! そういう目的でこんなだっせー女、連れてくるわけねえだろ、勘違いしてんな!」


 だ、だっせーって、面と向かって言われたのは初めてだ。悲しいような、でも嬉しいような気持ちになって、彼を見ていると、クリーム頭のリュウ、という人が私を見て「あれ、なんで感動してるの?」と不思議そうだった。


「あのな、よく聞けよトラ。信じられねぇかも知んねえけどこの女。さっき泰司さんを、ヤッちまったんだよ」

「…………は?」


 彼は少しだけ止まると、「冗談だろ」と笑いながら手を振った。


「いや、冗談じゃねえから」

「は? じゃあ、どうやって」

「このバカでかい鞄で、何度も殴ったんだよ」

「何人で?」

「一人で」

「ひとりぃ?」


 メッシュの人は「いやいや嘘だろ?」と今までで一番大きな声を出して、「マジなんだって」と金髪の彼が真面目な口調で続けた。


 途端、信じられないというような目を向けられる。どこを見たらいいのかわらかず、私はひとまず俯いた。


「それでね、トラ。なんかさっき、ミクがこの子の実力試そうとしたんだけど、一発ビンタでKOだったみたい。だからさっきまでそこで倒れてたんだよー。ダッサいよねえ」

「うるせー、一言多いんだよてめえは」

「だって事実じゃん」


 「ねえ?」と何故か私に話を振るようにして、ケタケタと笑うクリーム頭の彼は、近くにあった椅子に座って、傍にあった机の上に肘を載せていた。


「あ、これ誰のー? 一本ちょーだい」

冬馬(とうま)さんの」

「げ。……まあでも、バレないっしょ」

「殺されても知らねーよ」

「だいじょーぶ。冬馬さん、俺には優しいから」


 メッシュ頭の彼ににっこり微笑むと、彼は机の上に置いてあった白い箱を手にした。


 そして、そこから白色の、何か細いものを取ると……って、あれは……。


「……ばこっ」


 普通に出したつもりだった声は、小さくてあまり通らなかった。


 たばこ、と言ったつもりだったのに……。


「つうかさ、泰司さんがこのー……えっと、なんだっけ」

「オサゲ」

「この、オサゲちゃんに本当にヤられたとして、それってスイとか、冬馬さんとか、知ってんの?」

「スイにはさっき言った。今、泰司さんの様子見に行ってる。冬馬さんはまだ。つかあの人、今日来てすぐ帰ってったし」

「まー、冬馬さんにはまだ言わない方がいいなー。つかさ、泰司さんをオサゲちゃんが倒した時って、周りに人は?」

「たくさんいた」

「あっちゃー、マズイなそれ」


 メッシュ頭の彼が呟くと、「ああ。だから俺はこうやってひとまず連れて来たんだよ」とうんざりと金髪の彼が私を睨んだ。それに私はびくっと肩を揺らしながらも、「あ、あの」となんとか口を開いた。


「なんだよ」

「わ、私、その今日、この学校に来たばかり、でして……」

「あー、噂の転校生かー」


 煙草を口にくわえていたクリーム頭の彼が「なるほどねえ」と呟いた。



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