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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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「あれ? 紫ちゃんじゃん。珍しいね、なんで学校にいんの?」

 

 白々しく首を傾げる彼へ、彼女は「小野町……」と面倒くさそうに名前を呼んだ。


「そういやあんた、このクラスだったっけ?」

「そうだよ。酷いな、俺は紫ちゃんのクラスきちんと覚えてるのに」

「きも」

「相変わらず口悪いねー。顔は可愛いのに」


 へらりと笑いながら、空いていた隣の席に腰かけてリュウくんは言う。


「で、なんの話してんの?」

「何って、別にふっつうの話。ねえ?」

「あっ、はい……」

「デートとか聞こえたけど。っていうか、キミら知り合い? 知らなかったんだけど」

「さっき私がナンパした」

「へえ、紫ちゃんが?」

「まあ、どんなやつか気になったわけよ。この学校のトップがどんなもんか」


 立ち上がる彼女は「それに」と言葉を続けた。


「伯父さんに頼まれたからね」

「校長に? なんて?」

「そりゃあ、仲良くしてあげろ。的な?」

「へえ」

「まあ、私の好みじゃなかったら、そんなもん聞かなかったけど」


 私を見て、彼女は整った顔でにっこり微笑むと。


「バッチリタイプ。ウサギっぽいところとか」


 彼女が、先ほどの私のように手を握ってきて、思わずびくっと身体を震わせる。


 その反応に満足したように、彼女はこう言葉を続けた。


「ほら、こういうところ。こんな可愛らしい反応してくれる子なんて、早々いないよね。ほんと、ゴリラ女とかじゃなくてよかった」

「Sだよね、紫ちゃんって。っていうかゴリラ女って何?」

「いやいや、どこぞの垂れ目には負けるわ」

「どこの垂れ目って誰のことですかー」


 語気を強めてにこにこと続けるリュウくんを、彼女は横目で睨むと彼の座っていた椅子に思いっきり蹴って「てめえだよ」と悪態をついた。


「じゃあ、私行くわ。いくら天才の私でも、テストの範囲くらい聞かないと来週、死ぬし」

「あ、紫ちゃんもそれ目的で今日来たんだ?」

「まあね。……それじゃあまたね、ウサギちゃん」

「……え? う、うさ……?」

「私のことは紫で良いからー! デートしようねー!」


 戸惑う私を置いて、彼女は可愛らしい笑顔を見せながら教室から出ていった。


 込み上げる嬉しさに、私は口元を手のひらで覆う。


 ウサギちゃんと呼ばれたことは、この際どうでも良かった。


 デート、お出かけ。


 デート、遊び。


「~~っ」


 も、もしかしたら、私! 初めてのお友達というものが出来たのかもしれない!


 くうっと嬉しさを噛み締めていると、リュウくんが『危険だなあ』と言わんばかりの目を私に向けていた。


「まさか、紫ちゃんがオサゲちゃんに目をつけるとはねえ……」

「リュウくん、お知り合いですか……?」

「うん、まーね。てか、紫ちゃんのこと、知らない人いないと思うよ?」

「ああ……美人さんですもんね」

「まあ、それもあるけど。それ以前に、校長の姪っ子だし。それをひけらかして、校内で自由に生きてるしね」

「…………えっ! 校長先生の姪御さんなんですか!?」

「あれ? 名前聞かなかったの? 苗字ですぐに気づくと思ったけど?」


 リュウくんは首を傾げて私を見る。


 た、確かに……! 有松って言ってた……!


 だから、私が女の子のお友達が欲しいことも知ってたんだ!


 両手を合わせて、なるほど……と納得している私に、リュウくんは珍しく呆れた顔をして口を開いた。


「まあ、気をつけなよ。あの子、どっちもイケる口だから」

「何がですか?」

「だから、男も女もどっちもイケる口なの」

「?」

「……もういいよ」


 諦めたように微笑むリュウくんに、「そういえば」と私は視線を移した。若干伏せられた彼の垂れ目が、「ん?」と私に向けられる。


「黒のトップ、って、私のこと……です、よね?」

「ああ、なんだ紫ちゃん。そんなこと言ったんだ」

「この絵の、ここです。上から三段目くらいの段からの人達をまとめてそう呼ぶって、言ってました」

「どれどれ?」


 椅子を近づけて、私の机を覗き込むリュウくんは「あーそうだねー」とやる気なく答える。


「確かにそう呼ばれてるかも」


 私の机にぐりぐりと落書きを始めるリュウくんは、大して気にもしてなさそうに答えた。


「リュウくんは、これで言うとどの辺なんですか?」

「俺ー? 俺はねー」


 ピラミッドの一番上、の少し下。


 一番目と二番目の狭間と言わんばかりのそこを丸で囲む。


「この辺……」

「へえ……」

「が、理想」

「理想!?」

「うん。だって、一番楽そうな位置だし」


 ヘラヘラと私の机で頬杖をつきながら落書きを再開していた。


 リュウくんって人は、いまいち掴めない。


 いつものらりくらりとしていて、一体何を考えているんだろうと思う。


 例えばミクさんとかなら、すぐに表情に出てわかりやすいけれど、リュウくんはあまり表情を……いや表情というか、どこか自分の作った空気を崩さない感じがある。


「はい、出来た」

「! わあ、お上手ですね? 怪獣ですか?」


 机に描かれた即興の絵に、私は思わず拍手をしたくなる。


 トラくんの時とは大違い。失礼だけど、彼の絵は本当に至極壊滅的だったから。


「がおー」


 可愛らしい怪獣に吹き出しをつけて、言葉にしながらその台詞を書くリュウくん。


 その楽しそうな姿に、「リュウくんって」と小首を傾げた。


「絵、描くの、好きなんですか?」

「…………え?」


 目が点になる彼に、私はもう一度訊ねる。


「好きなんですか? 絵」

「っいや、そんなには……」


どこか不意をつかれたというリュウくんは、少し戸惑ったようにシャーペンを置く。


「そうなんですか……じゃあ手先が器用なんですね?」

「え?」

「メイクも上手いですし……あ! そういえば、私のヘアゴム……」


 思い出したように声を上げれば、リュウくんは「あ」と自分の腕を見た。


「これ?」

「あ、それです!」


 手首についた紺色のヘアゴムを差して首を傾げている彼に、私は頷いた。


 ああ、やっと髮の毛が結うことが出来る……!


 予備は家にあるけれど、今は持っていない。


 髪の毛は結っていないと心が締まらない気がして、どこか慣れない。


 ふわふわするというか、地に足がついてないというか。とにかく気が気じゃない。


 表情が思わず明るくなる私に、リュウくんはいつものように目尻を下げて、


「俺が結ってあげよう」


 なんて、笑顔でいらぬ提案をして私の背後に回った。


「え!? いや、いいです……!」

「なんで? いいじゃん。俺、女の子の髮触るの好きだし」

「いえ、でも……!」

「えー、そんな拒否られると傷つくなー? オサゲちゃん、俺のこと嫌い?」

「い、いえ、嫌いかと聞かれましても……」

「嫌いなの?」


 どこか切なげな声が背後から聞こえて、私は角が立たないように「だ、だからですね」とそっと続けた。


「そういう意味では……」

「じゃー、いいじゃん!」

「!!」


 どうやら、何を言っても無駄らしい。


「やっぱり、髪の毛綺麗だね。さらさらだー」


 一日に二度も、男の子に髪の毛が触られることがあるものなのだろうか。


 ぎこちなく固まっている私と、その髮を鼻歌交じりに触っているリュウくん。


 信じ難い異様な光景に、クラスの人たちの視線が戸惑いの色に変わる。


「なんだ、あれ……」

「どうしたんだ。小野町」

「っていうか、あの小野町を付き従えてるあの女って、やっぱりすげえんだろうな」

「髪の毛まで結ばせてさ、こえー」

「…………」


 聞こえていないとでも思っているんでしょうか。


「俺を付き従えてんだってオサゲちゃん。うけるー、最強だね?」


 へらへらと笑いながら、リュウくんは私の髪の毛をいじっている。笑い事じゃないのに。


 そして結び終えると、リュウくんは「うん、可愛い」なんて言って私の頭を撫でた。


 ……び、びっくりした。一瞬、頭でも叩かれるんじゃないかと思った。


 授業が始まると、珍しく教室でリュウくんも授業を受けていた。


 そして、何事もなくあっという間に昼休みになり、驚くほど平和な時間が過ぎていった。





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