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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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 そして、〝その時〟は私が思っていたよりも早くきてしまった。


「おいオサゲ。余計なことは言うなよ? 練習通りにしろ」

「は、はい……」

「なんとか、スイ達が来るまで持たせろ。絶対に隙見せんじゃねえぞ。わかったな?」


 そう言って、ミクさんが私の背中を軽く押す。私は泣き叫びたい気持ちになりながらも、ゆっくりと歩を進めた。


「やぁっと、トップのお出ましかな? ……って」


 赤髪のその人が、本当に待ち侘びていたとばかりに口を開いて私を見る。


 そして、見た途端に目を見開き、「はっ、なんだよお前っ!」と盛大に吹き出した。


「おいおい、こんな変なのがマツキタのトップ? 嘘だろ!? なんだよそのサングラス! だせえ超だせえ!!」


 ぎゃははは! と、腹を抱えて笑う赤毛のその人に合わせて、周りにいた他の人達も笑い出す。


 指を差しながら思いっきり馬鹿にされて、わんわんと泣きそうになった。


「ってか、マジでトップが女とか!! 何かの間違いだろ!? 見ろよ! あの貧弱な体! どうなってんだよマツキタ! まさか藤山のヤロウも、女になっちまったんじゃねえの!?」

「んだと、あの赤毛猿っ……!」

「ミク!」


 今にも走って向こう側に殴り込みに行きそうなミクさんを、トラくんが声を上げて止める。


「チッ……早く行けオサゲ! これ以上、馬鹿にされんじゃねえぞ!」


 イライラした様子でミクさんが、後ろから無茶を言う。


 そ、そんなことを言われましても……!


 勇気を振り絞って歩を進めるけれど、あ、足が震える。


「まっさか、本気で俺とやる気かよ……?」


 口元を緩ませたまま、赤毛の彼は周りの人達と目を見合わせながら、私の方に向かって歩いてきた。


 ああ、神様っ! どうか無事に、終わりますように……!


 心の中で祈りつつ、私はある程度距離をとったところで立ち止まって、「ぁ、あのっ!」と声を上げた。


「ああ?」

「あの、いや……お、おいっ! て、てめえら、まっ、まさか……! け、けけけ、喧嘩を売りに、き、きたんじゃ、ななっ、ないだろうなあ……?」


 練習通りに言おうとしたのに、言えない。声が震えて、さらには裏返ってしまった。ああ、最悪だ!


 途切れ途切れの怯えきった声に、ミクさんは頭を押さえて、トラくんは「ダメだこりゃ」とリュウくんと顔を見合わせていた。


「ばかオサゲ……今はその台詞じゃねえだろ……」


 呆れきったミクさんがそんなことを言っているとも知らずに、私は練習で覚えた言葉を必死に並べた。


「う、うちの学校に、負けるとか、おも、思ってんのかよ……」

「…………」


 私の言葉に、その場にいた人達が固まる。


「……〝勝てるとか〟だよオサゲちゃん!」


 そして後ろからリュウくんの声が聞こえて、私は「あ、え……?」としどろもどろになりつつ、言葉を訂正した。


「う、うちの学校に、勝てるとか思ってんのかよ……!」


 声を張り上げたがすでに時遅し。


 しばらくの沈黙の後、赤毛の彼が盛大に吹き出した。


「ぶっ!! なんだこいつ!! ビビりまくりじゃねえか!!」


 あーっはっはっは! と、人差し指で私を指しながら、ゲラゲラと腹を抱えて笑っている。


 背後ではミクさんが、本気で怒っているのか、指をパキポキ鳴らしているのが聞こえた。


 ああ、終わった。本当に終わった。


 私の命はどうやらここまでらしい。


 前方にはゲラゲラ笑う赤毛の彼で、後ろには恐らく般若の形相をしたミクさん。


 どうあがいても万事休す。溜まった涙ももうそろそろ落ちてきそうだった。


 恐怖に震えながらスカートを握り締めると、ちょうど冬馬さんからもらった栄養ドリンクの存在に気付いた。


 あ、そうだ。ポケットに入れていたんだった。


『元気出るし、ものすごいパワー溢れるから』


 と、言っていたトラくんを思い出す。


 ほ、本当なのかな……?


 未だに腹を抱えて笑っている相手側の人たちを横目でみながら、私はポケットから栄養ドリンクを取り出した。


 もう、後戻りは出来ない。


 今の現状をどうにかするには……この栄養ドリンクにある、秘めた効力に、全てをかけるしかない!


 深呼吸をしながら、蓋を開けて、私は意を決してそれを豪快に飲んだ。


 そんな私に気づいて、目の前の赤毛は「は? 何してんだお前」と半笑いで声をかけていた。


「あ、リポD飲んでる」

「え、あんな場面で飲む!?」

「オサゲ、お前ってやつは……」


 私が何をしているか気付いたリュウくんにトラくんが突っ込むと、ミクさんはもうこめかみを押さえるどころか、頭を抱えていた。


 あ……。


「…………」

「………っ、ぶ!」

「…………」


 どうしよう、気持ち悪い。


 口元を押さえる私に、彼らはどっ! と盛大に笑い転げた。


「わっはははは! お前、俺を笑い殺す気かよ!!」


 ヒーヒー! と、もう涙まで流している赤毛に続いて、その仲間達も盛大に笑っていた。


 手元から栄養ドリンクの入っていた小瓶が落ちていく。


 コロコロ、と。足元に小瓶が転がっていくのが、途切れそうな視界で見えた。


 気持ち悪い。気持ち悪い、頭が……。


 ぐるぐるして――。



「頭おかしいだろ! いきなり何しだすかと思えばこいつ……」

「……、よ」

「……は?」

「黙れよ、この赤毛猿」

「は?」

「何、笑ってんだよ」

「いやお前こそ、何いきなり……」

「黙れつってんだよ、聞こえなかったのか?」


 私に胸ぐらを掴まれた赤毛は、突然の出来事に目を見開いて「へ?」なんて素っ頓狂な声を上げていた。彼の仲間たちは呆然となり。


 そして何より。


 私の後ろ側にいる、ミクさんトラくんリュウくん……その他、強面さん達が一番驚いていた。


「あー……最悪だ、頭がぐるぐるする。……気持ちわりー……」

「な、何すんだこのアマ! 手ぇ、離せっ……」

「うるせーって」


「言ってんだろ!」と、その赤毛の頬を思いっきり殴ると、横に思いっきりその身体が吹き飛んでしまった。


 その場にいた全員が、面白いくらいにタイミングを合わせてその行方を見ている。


 目まで点にしている彼らを無視して、私は「ってえ……」と、殴った衝撃できた痛みに手首をぷらぷらさせながら、倒れ込んでいる赤毛に歩み寄った。


 サングラスを取ってその赤毛の顔を見下せば、彼は後退りしようとした。


 から、その身体を踏みつけて、どこにも逃げないように押さえつけてやった。


「うぐっ」と見苦しい声を上げたそいつに、舌打ちをして「なんだ、弱いのな」と吐き捨ててやる。


「っ、て、てめえ! さっきまでのは、全部演技だったのか!?」


 口端から滲み出ている血を手の甲で拭いながら、起き上がろうとする。


 名前は……ああ。そうだ。確か……。


「新島」

「っ」


 起き上がろうとするその男の身体を更に踏みつけて、身体を屈めて肩を押す。


 近づいた顔に、そいつは少し頬を赤く染めた。なんだその気味の悪い顔は。


「誰が演技するって?」

「は、お、お前だよ……!」


 さっきまでの威勢はどこにいったのか。あまりの弱さに拍子抜けしてしまう。


「誰がてめえみたいなミジンコに、演技なんかするかよ。ふざけんな」

「っ、み、ミジンコ!?」

「そうだろ。ウチの学校の強いやつらいない時に、こんな抗争しかけてきて……弱えクセに、卑怯者とか、ミジンコ以下だっつってんの。わからない?」

「お前っ!」


 カッと顔を赤くした新島は、私の手を掴もうとした。けれど、それをすぐに避けると、私はその右手で男の頬を今一度殴った。


 ら。


「あ、気絶した」


 いとも簡単に気絶したもんだから、「なんだ、つまらないな」と身体を上げた。サングラスを新島とかいう、見た目だけは立派な弱っちいカスに投げ捨てて、私は首を鳴らした。




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