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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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23/54

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 ◇


「はっ、恥ずかしいです! 無理です無理! こんな格好、無理無理無理……! 」

「だあいじょうぶだって~! 案外似合ってるよ、ね?」

「こんな足さらけ出したら、しし、死にます!」

「……。たかだか膝上三センチで死なれたら困るよ」


 ぶんぶんと首を振って、スカートを下へ下へと引っ張る私にリュウくんが答える。


「それでも有り得ません! り、リボンも返して下さいっ!」

「それはだーめ。だってリボンない方がエロくて良い感じなんだもん。まあ、俺としては、ヤるときは制服着用を好んでるから、リボンあった方が逆に燃えるっていうのはあるけどね? こう、リボンだけが肌の上で揺れてる感じとかいいよね。ロマンあって」

「い、一体、なんの話を……」


 涙目になりながら、不思議そうな顔をしている私に「んまあ、とにかく」とリュウくんは話を元に戻した。


「スイたちにも見せようか」

「で、でも。顔も変な感じします……洗いたいです……」

「そりゃあ、メイクしてるし……って、触っちゃだめだめ!」

「うう……」

「泣くのもだめ! 崩れてお化けみたいになるから!」


 あれもこれもだめと言いながら、リュウくんは私の両手首を掴んで押さえた。


 集中してメイクしたいからと、隣の部屋でリュウくんに化粧をされて、更に制服も少しいじられてしまった。顔はむずむずするし、全身はそわそわとする。


 その上、途中「んー。結構いいな。このまま、ヤッちゃおっかな」とかなんとか、わけの分からないことを言って、制服を脱がしかけられたので、私は今、なんとなくリュウくんが怖くて堪らない。


 シャツのボタンを手慣れたように外された時はどうしようかと思った。


 警戒している私に「だから冗談だってばー」とか言ってヘラヘラしているけれど、全く信用ならない。この人は絶対に危険だ。


 伊吹……伊吹に会いたい。と、めそめそしていると、リュウくんは極力優しく「ほら、行こう」と手を引っ張った。


「さ、先に行ってくださいっ」

「そんな警戒しなくてもー」

「だってさっき……」

「ボタンを二、三個外しただけでしょー? なんてことなかったじゃん」

「そ、それはそうですが……」

「どんだけウブなの、オサゲちゃんって」


 やれやれと首を振る彼は、あっさり私の手を離して「早く来なよ」とそのまま廊下へ出て行った。



――――――――――

――――――



「……ど、どうなってんだ」

「何言ってんの、冬馬さん」

「俺のハニーちゃんは一体どこへいったんだ!」

「は? 目の前にいるでしょ」


 私を指差してそれを言うトラくんに、わなわなと震える冬馬さんは「いや」とすぐに首を振った。


「ハニーちゃんは従来、黒髪オサゲだって決まってんだよ……なのに、それなのに! なんなんだよ、このどこにでもいるような見てくれは!」


 大ショックを受けているらしい冬馬さんに、私は肩をびくっ! と揺らした。ぎらりと光る鋭い眼が私を睨みつけていて、あまりの怖さに足が竦んでしまう。


「まあまあ、よーく見てよ冬馬さん。オサゲも良かったけど、この髮も悪くないでしょ? 寧ろ可愛くない? 俺はこっちのがタイプ」


 垂れた目尻を下げながら、リュウくんは胡散臭そうな笑顔を作ると私の後ろに回って両肩に手を置いた。それだけで、かちんと身を強ばらせてしまう。


「三つ編みしてたからか。解くとウェーブがかかっていい感じじゃん」


 へえ、ふわふわ。と、目の前から私の髮を遠慮なしに触ってくるのはトラくんだった。


「えっと、あ、あの……」


 な、なんで私、こんなにされるがままに……!

 

 しどろもどろになりながら口を開いたと同時に、ぽりぽりと何かの咀嚼音が聞こえた。


「……伊吹、単刀直入に言うけど。俺はお前の姉ちゃんが、この学校のトップを務めるのはマジで無理だと思う」

「それはわかるけど。そもそもトップって何するの?」

「何って、そりゃここを統べるために色んなことをするんだよ。実力がなきゃ何も出来ねえし」

「実力って例えば、腕っ節が強いとか?」

「腕っぷし……? ま、まあ、うん。そんな感じかな」


 ソファに座りながら、いつの間にかくつろぎまくっている伊吹は、誰のものかもわからない煎餅を遠慮なく食べながら、コノエくんとの会話を楽しんでいた。


 我が弟ながら、ちょっとびっくりするほど優れまくっている順応力に頭が上がらない。


 むしろ伊吹の隣で、何やらトップについて説明しているコノエくんの方がだいぶ年相応に見えてきた。彼は絶対に高校一年生で間違いない。


「それにしても女の子って凄いよな。ここまで化けられるなんて、化粧が凄いのか、元が良いのか、もはやわかんないなー」


 じろじろと。トラくんが、下から上へ、上から下へ。何度も往復しながら見つめてくるので、不安や緊張のせいで私の顔色は更に悪くなった。


「ど? ミク、スイ。こんな感じでいい?」


 ぶるぶると震えながら、トラくんの視線と戦っていると。リュウくんが、ミクさんと翡翠さんに声をかけていた。


「あー?」


 翡翠さんとの話を止めて、ミクさんがやる気なさげにこちらを見る。じろりと向けられるミクさんの力強い眼が、恐ろしくて堪らない。私は硬直したまま、だらだらと冷や汗を流していた。その上。


「やっぱ、どっか地味なんだよな」


 舌打ち混じりに感想を告げられる。な、なんだかすみません……。


「辛口だなー、ミクたんは」

「あ? 俺は思ったことを正直に言っただけだ」

「あーはいはい。じゃあ、スイは?」


 ほら、どう? と、私の背中を押すリュウくんのせいで、翡翠さんが座っているソファへと一気に距離が近づく。


「……そうだな」


 口を開いた翡翠さんに、緊張感が更に増す。そのせいであわあわと目が回った。


 だ、だめだ。よくわからないけど、彼が相手だと違う人の倍以上緊張してしまう。なんていうか、偉い人の前に立っている気分とでも言えばいいのだろうか。そんな感覚に陥ってしまう。


 ああ、もう本当に帰りたい。


「ほらほら見てよー。オサゲちゃんってばさ、けっこうメイクも似合って……」


 後ろからぐいぐいと背中を押してくるリュウくん。


「え、あのっ……!」


 これ以上進んだら、ソファの腕置きにぶつかりそうなのですが!


 と。立ち止まろうとした、ら、足が何もないところで躓いた。


 後ろを振り返ろうとしても間に合わず、「あ」と言うリュウくんの声だけが後ろから聞こえた。


 翡翠さんの向かい側に座っていたミクさんは、珍しく焦ったような表情をしていて。


 世界がスローモーションに見える。


 私が倒れ込もうとしている先に、目を見張った様子の翡翠さんが見えた……。


 のが最後。


 私はぼふっと彼の元へ倒れ込んでしまった。


 室内が一気にシンとなる。張り詰めた空気を全身に感じた。


 目の前からやけにいい香りがする。何の匂いだろう、って思う暇もなく、私はこれでもかってほど顔を真っ青にさせた。


 こここ、殺されるっ!!


「ご、ごごっ、ごご……!」


 ごめんなさいっ!!


 と、顔を上げて謝るべく慌てて口を開いた、矢先のこと。


「お、オサゲ! おっまえ、何してやがる! 早くスイから退けろ!」


 胸に感じる、微かな違和感。


 怒っているミクさんの怒声がはるか遠くに感じる。


 私は、恐る恐る自分の胸元に目を向けた。


「聞いてんのか! おい!」


 え。


「おいって、オサゲ!!」


 え……。


「早く退けって言っ……」



 瞬間、ばっ!! と。


 急に私の身体を押してソファから立ち上がる翡翠さんに、今の今まで怒っていたミクさんが、ぴたりと口を止める。


 放心状態のまま固まっている私は、状況を理解するのに時間を要していた。


「す、スイ……?」

「………。ちょっと出てくる」

「あ、ああ……?」


 どこか様子のおかしい翡翠さんに、首を傾げつつミクさんはそう返事をする。


 翡翠さんはクールな表情のままさっさと歩き出すと、外に出るのかと思いきや。


 バンッ! と。


 そのまま開いてもいない扉に、顔からぶつかっていった。


 その場にいる誰しもがその目を疑う。


「えっ、す、スイ? だ、大丈夫……か?」

「……問題ない」


 トラくんの問いに、扉にぶつけた顔面を手で覆いつつ、そのまま廊下へ出ていく翡翠さん。


 口調こそは、いつも通りだけれど。


 問題有りまくりのその行動に、今し方翡翠さんに声をかけたトラくんは「え、スイだよね? あれ」と自分の目を疑っているようだった。


 全員の視線が翡翠さんの出ていった入口付近に向けられている中、


 私はソファの上で未だ放心状態だった。


 …………。


 わ、私……う、生まれて初めて男の人に胸を触られてしまった。


「……っ!」


 は、恥ずかしすぎて死にたい……!





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