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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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「ん? ああ、オサゲちゃんの弟くんだよ」


 いつの間にか私たちの近くまで戻ってきたリュウくんが言う。


「弟ぉ? ぜんっぜん似てねえな」


 ミクさんは伊吹をじろりと見ながら「で」と続けた。


「その弟とやらが、ここに何の用だよ」

「……脅されて連れてこられただけで、別にこれといった用はないですけど」

「は?」

「もう行ってもいいのなら、今すぐにでも教室に戻りたいんですけど」


「いいですか?」と、淡々と告げる伊吹に、ミクさんはしばし無言を貫いたのち、静かに口を開いた。


「……リュウ」

「んー? 何?」

「こいつがオサゲの弟なのは十分わかった」

「なんで?」

「そこはかとなくムカつくからだ! なんだこのすかした態度は!」


 わなわなと指を震わせるミクさんに、伊吹が「そんな態度、とったつもりはありませんけど」と続けようとしたけれど、「誰だ」と声が重なって聞こえていないようだった。


「お前を連れてきたとか言う、ふざけた野郎は!」

「俺だけどー?」


「え、何? どうしたの、喧嘩?」と。


 リュウくんのさらに後ろからやって来たのは、さっき室内に入っていったはずのトラくんだった。


「トラ、てめえか! この生意気な男を連れて来たのは」

「そうだけどー……って、なに? 弟くんが何かしたの?」

「いや。別に、何もしてませんけど」

「本当に何もしてないよー」


 伊吹のあとに、リュウくんがそう付け足したのを聞いてトラくんは「なんだ」と口を開いた。


「じゃあいいじゃん。ミクはなんでそんな怒ってんの」

「むやみに人を増やすな! なんでオサゲの弟を連れて来たんだよ」

「そんなの、実力主義のマツキタで、見込みのあるヤツがいれば、そりゃあ仲間に引き入れたくなるっしょ」


「何言ってんだか」とやれやれと首を振るトラくんに、ミクさんは「はあ?」と顔を顰めた。声にこそ出さなかったけど、同様に眉根を寄せた伊吹も同じように思っていたに違いない。


「実力って……なになにー? トラってば、まさかもう弟くんと喧嘩でもしたの?」

「いや、別にしてないけど?」


 楽しそうに訊ねるリュウくんに、トラくんは首を振る。


「じゃあ、なんでこいつの実力がわかんだよ。おかしいだろ!」

「まあ、そうなんだけど」


 ミクさんにそう答えながら、ちら、とトラくんは伊吹に目を向けると「なんか」と口元を緩ませた。


「身のこなしからして、ヤれそうだなって思って。現に俺が殴ろうとしたら、簡単に避けたし」

「は……マジ?」

「うん、それはもう軽々と」

「……こいつが」


 じろじろと、見定めるようにして見てくるミクさんに、嫌な予感がしたのか。伊吹は私に近づいて、「俺、本当に戻りたいんだけど」と確認を入れてきた。


 戻れるものなら、私だって戻りたい。伊吹の制服を掴んで「な、なら一緒に……」と小声で告げていれば「まあ」とミクさんが被せた。


「このオサゲの弟となりゃ普通なのは有り得ねえか」

「そうそ。そういうこと」

「トラを後押しするわけじゃないけど、もうすぐニシヨミも仕掛けてくるみたいだし」


 トラくんのあとにリュウくんが頷きながら、私たちにぐっと顔を近づけた。


「人員補給も良いと思うんだよね。泰司さん、来ないし」

「に、人参補給……?」

「人員だよ、オサゲちゃん」


 嘘でしょ、聞こえてたよね? と、笑顔で続けるリュウくん。


「人参補給してどうすんだ、ウサギかてめえは」

「す、すみません……」

 

 呆れたようにミクさんに言われてしまって、しおしおと頭を下げた。





 ◇



「はあ? ニシヨミが今日の内に抗争ふっかけてくるって!?」

「ああ、だからここにあいつらが来る前に、俺と冬馬さんは何人か連れて、ニシヨミに行ってくる」

「意味わかんねえだろ。なんでスイたちが……」

「新島からの指示だ。俺と冬馬さんは指名だったからな」

「なら、俺たちも……」

「いや、ミクたちは来なくていい」

「は、なんでだよ?」

「これは俺のただの予想なんだが……」


 何やら緊迫した空気が漂っているこの場所で、翡翠さんとミクさんは向かい合いながら真剣に話し合っていた。


 そんな彼らへ、私はソファに座りながら、ちらちらと目を向けていた。けれどもきちんと顔を向けられない。何故なら、私のすぐ隣で行われている……。


「で、てめえはハニーちゃんのなんなんだ」

「ハニーちゃん?」


 冬馬さんによる、緊急面談のせいもある。


 私の隣に座る伊吹は『何言ってんのこの人』という面持ちで、私に目を向けるが、私には答えようがない。だってこの人を、言葉で説明するのはどうにも難しすぎる。


 すると、私たちの前に座っていた、彼――冬馬さんは、偉そうに机の上に乗せていた足で、威嚇するように、だんっ、と力強く床を踏みつけた。


「無視してんじゃねえ、正直に答えろ!」

「いや、だからすみません。ハニーちゃんって、なんですか?」

「はあ? てめえ、男のくせにハニーちゃんの『ハ』の字も知らねえのか!」

「はい。知らないです。ハニーちゃんの『ハ』の字ってなんですか」

「信じられねえ、マジで嘘つくんじゃねえぞ!」

「いや、本当に知らないんです」


 不機嫌度MAXの域に達している殺気立った冬馬さんに、涼しい顔をして対応している伊吹が勇者すぎて怖い。信じられない。チャレンジャー過ぎる。


 少し離れた場所ではトラくんとリュウくんが「なんか面白い展開だねアレ」とか「弟くん強すぎ」とか言って楽しそうに見物してばかりで、助けようとはしてくれない。


 他の強面さんたちは、無関心を装っているのか。極力こちらを見ないようにして、離れたところに立っていた。


「チッ……おい。ハニーちゃん」

「っ、は、は、はい!」


 あ、ハニーちゃんで思わず答えてしまった。


「こいつは一体、お前のなんなんだよ」

「なん、なの……ですか」


 不機嫌そうに尋ねられて声が裏返りそうになる。びくびくしながらも「え、と……」と続けた。


「おっ」

「お?」

「弟、です……」

「は、弟?」


 訝し気に眉根を寄せた冬馬さんは、私と伊吹を見比べた。それもそうだ。私たちは似ていないから、そういう反応になるのは仕方のないことだ。


「……ハニーちゃんって、姉ちゃんのこと?」


 そこでようやく理解した伊吹が、小さく耳打ちをしてきた。私も取り敢えず「そう、なってるけど」と頷いておく。


「弟……」


 今一度呟く冬馬さんは腕を組んで何かを考え込むと、何かを閃いたように伊吹へ顔を向けた。


「つうことは、俺の義弟になるってことか」

「え……」

「へ……?」


 突拍子もないことを言われて、目を丸くする伊吹と私。目をぱちぱちとさせていると、先ほどまでの殺気はどこへやら。


 冬馬さんは「なあんだ、そういうことか」と勝手に自己解決してやれやれと首を振っていた。


「なら問題ねえ。お前だったら、俺のハニーちゃんに近づくことを特別に許可する」


 問題しかない。


 ついていけない私たちを置いて冬馬さんは偉そうに続けると、まるで王様の如く、また机の上で足を組み直していた。





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