表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/54

17


 ◇


 学校に登校してから、平和な一時間目を終え、二時間目の授業に入ろうとしていた時のこと。


「これからお前には、トップらしい振る舞いをしてもらわないとならねえ」


 いきなり教室にやって来たミクさんが、私の机の上にばんっと手のひらを置きながらそう告げた。


 ちょうど教科書を机の中から取り出そうとしていた私は、「は、はいっ!?」と驚きで、教科書を地面に落としてしまった。


「今後、他校のやつらに目をつけられても、なんだ、その、地味な部分とか、弱そうな所がバレちまう前に、お前を誰が見ても強そうなやつにしてやる」

「は、はい……」


 小さな返事をしながら、教科書を拾おうか拾うまいか悩みつつおろおろしてしまう。


 教室にいた人たちは、こちらに向かって、好奇の目を向けてくる。


 廊下を歩いていた人たちも、私たちのいる教室の前で足を止めて「おい、あれ」と中を覗き込んできた。


 また……こうしてまた、私の周りから人が引いていく。


 この人といい、リュウくんや、トラくんや、彼らと出会ってから、私の友だち100人作ろう作戦は、より遠くなった。初めから望み薄だけれど。


「ん? あれ、教室が妙にうるさいと思ったらミクたんか。おはよー」


 へらりと挨拶をするリュウくん。どうやら今登校してきたらしい。もうお昼も近いので、遅刻どころではない。


「リュウ……? あー、そういや、お前このクラスだったな」

「えー、忘れてたの?」

「まあ、ちょうどいい。お前が思う女のトップはどんなやつだと思う」


 ミクさんは問いかける。すると、リュウくんは「そんなの決まってるでしょ」と当然のようにこう答えた。


「色気がある人だよ、ねえ?」

「……へっ」


 手馴れたように私の三つ編みを手に取ったので、ぎくりと肩を強張らせてしまう。


 そんな私を見つめ、悪戯でもするような顔でにっと口角を上げてるリュウくんは、こちらが何も言えないとわかっていながら、わざと身体を寄せてきた。


 私の座る椅子の背もたれに手のひらを乗せて「何、オサゲちゃん。無視?」と、身を屈めてくる。


 ひえ、と石のように固まった私を見て、ミクさんは「それなら、いっそのこと」と溜息を吐いた。


「一発ヤるか」

「…………。え、ミク、何それマジ?」

「ばーか冗談だよ。誰がこんな色気皆無のオンナ抱くか。金積まれたって勃たねえよ。つーか色気云々で、トップの座が決まるかってんだ」


 驚いた様子のリュウくんに、ミクさんは下品極まりない言葉をつらつらと口にすると「さて」と私に目を向けた。


「じゃあ、行くぞ」

「え……ど、どこに……あの、授業は……?」

「授業? アホか、それどころじゃねえ。俺がお前をトップと認めた以上、やってもらわなきゃなんねえことが山ほどあるんだよ。ぐだぐだ言ってねえで、さっさと来い」


「特訓だ特訓!」と言う彼は、先に教室から出ていく。


 と、特訓……って……一体、何の……?


「妙に気合が入ってんね、ミクたんったら」


 全くついていけずにいる私の肩を、リュウくんは軽く叩くと「ま、頑張ってね」と他人事のように告げた。


 だ、だから、一体何の特訓でしょうか……。






 と、思ったのがちょうど一時間前だったと思う。


「だーから、声が小せえんだよ! 腹から出せ!」

「す、すみませんっ」

「背筋は曲げんじゃねえ! 伸ばせ!」

「は、はい」

「あーまた声が小せえ! アリかミジンコか、てめえは。ナメてんじゃねえぞ!」

「な、舐めてません! ほ、ほら……! 何も舐めてなんかいません、よく見てください!」


 泣きそうになりつつ、大きく口を開く。


 何も舐めてなんかいないのに、どうしてこうも、この人は私に対して『舐めてる舐めてる』って……。


「はあ? アホかてめえは。そっちの舐めてるじゃねえよ! つーかやっぱナメてんじゃねえか!」

「だっ、だから! 舐めてなんかいませんって! よく見てくださいってば!」

「口ん中見てどうすんだよ、いい加減にしろ!」


 ミクさんと言い合いをしていると、リュウくんが「うわー……」と引いたような声を上げた。


「何あの二人。なんか不毛なやり取りしてない?」

「つうか、オサゲちゃんはあれ。本気でやって……るんだろうな、たぶん」


 そんなリュウくんに、なんだありゃというような顔でトラくんは答えた。


「そうでしょ。冗談言えるような子じゃないと思うー」

「〝ナメる〟と〝舐める〟を普通間違えるか?」


 腕を組み、わけがわからないという顔をするトラくんに、リュウくんは「でもさぁ」と少し目を細めて言葉を続けた。


「ああいう、可愛い声で舐めるって言われると、少しゾクッとするよね」

「きっしょ。生粋の変態だな、お前は」


「やだ、トラくん言葉きつい」と、リュウくんが傷ついたふりをした時、室内の扉がガラァッ! と乱暴に開いた。その音の先にいたのは……。


「チッ、黒川の野郎……後で絶対ぶっ潰す……」


 ぶつぶつと呟きながら、怒気の孕んだドス黒いオーラを背中に背負った、あの危険人物冬馬さんだった。


 リュウくんが「あ、冬馬さん」と名前を呼べば、冬馬さんは睨むように彼を見て、そうして獲物を射抜くような鋭い目つきで周囲を見回し……。


 私と目が合うと、ぱっとその鋭さを消し去った。


「ハニーちゃんじゃねえか」


 今の今まで纏っていた、ドス黒オーラはどこへやら。心なしか目は嬉しそうに輝いている気がする。


「何してんだ、どっか戦いにでも行くのか?」


 た、たたかい……?


「いっつも戦ってるだろ? ほら、悪の手先ルビーちゃんとか」

「…………」


 る、ルビーちゃんって、誰?


「どうした? 違うのか?」


 ハスキーな無駄にいい声で、「ん?」と私へ近づいてくる冬馬さん。


 その顔は今日も勿体無いほどきらきらと煌めている。


 この人、相変わらず見た目にそぐわず変な人だと思う。


「あの……えと」


 と、答えに迷っていると、あっという間に冬馬さんは近くまでやって来ていた。


 その距離と言えば、人と会話する程度の距離では収まらず、


 身を屈めて、私に向かって顔を近づけてくると「今日も相変わらず可愛いな」と真顔で告げた。


 もう、本当になんなんだろうこの人。いちいち近い……!








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ