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暴走×少年×少女  作者: あしなが
一巻

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 何本かイッちゃうって、何がですか……なんて怖くて聞けない。


「マジどんまいだよな、オサゲさん」

「俺たち、シラフの冬馬さんを相手するだけでも怖えのに、キレた冬馬さんを相手にするなんて信じらんねえよ……」


 こそこそと、強面さんたちの声が聞こえる。


 ど、どうしよう。胃が痛くなってきた。


「冬馬さんが学校に来たら、俺たちも注意しておく。死にたくなかったら、極力出会さないように気をつけろ」


 お喋りな上に、意外と優しいらしい翡翠さん。さっきまでド偉そうな王様に見えていたのに、急に神様に見えた。なんて素敵な人なんだろう。


 そんな彼の隣にいるミクさんは「俺はぜってえ嫌」とか言ってスマホをいじっていた。なんて薄情な人なんだろう。


 同じく。寝転びながらエロ本を読んでいるリュウくんは「俺もやだなー」とか言っていた。この人に関してはもう何も言うことはあるまい。


「今日はもうここには来るな。極力目立たないように過ごせよ」


 翡翠さんにそう言われて、私はその溜まり場とやらからようやく解放された。


 目立たないように過ごすのが得意な私にとって、それはお安い御用な話だ……。


 と。言いたいところだけど。


「ほらあれが……」

「ああ、例の……」

「昨日、泰司さんをさ……」

「まじかよ。嘘だろ」

「そんな風には全然見えないのにな……まさか、あの地味な姿は仮の姿なのか?」


 ジロジロと。昨日の今日で、学校中の注目の的になってしまっていた私は、たくさんの視線を浴びていた。め、目立たないようにって、一体どうやってするんだっけ……?


 青い顔で教室に向かっていると。


「あ、オサゲちゃん」


 後ろから声をかけられた。


 振り返るとそこに見えたのは、誰よりも長身で、だらしなく制服を着た……。


「と、トラくん……おはようございます」

「おはよー、どこいくの?」

「えと、教室に……」

「ふーん? リュウは? 一緒じゃないんだ?」

「え? あ、はい……」


 小さく返事をすれば、彼はそれにまた「ふーん」と言って、周りを見回した。


 すれ違う人や、立ち止まって話をしている人。


 その人たちのあらゆる視線を体中に受け止めながら、私は俯いていた。トラくんは、よく顔を上げてみんなのことを見回せるな。私には無理だ。


「ねえ、オサゲちゃん」

「はい」

「このくらいの身長でさ、髪の毛がブルーシルバーっぽい感じの、そんでちょっとつり目みたいな……なんかこの人危ないなーって感じの人に会った?」

「い、いえ……そんな人には……」


 ブルーシルバーってことは、青の混ざった銀色ってこと、かな。そんな派手な頭をした人に会っていればすぐにわかるはずだけど……。


 首を振った私に、トラくんは「そっか」とメッシュの入ったその髪をくしゃくしゃと掻いていた。


「もしもさ、そんな人見かけたら、すぐに逃げてね」

「え……」

「じゃないと、明日から病院行きかも」

「え、びょっ!?」


 衝撃の言葉に固まっていると、トラくんが「あのね」と口を開いた。


 と、同時に。


「お前ら、邪魔だ! そこ退け、殺すぞ!」


 ドカァッ、とまるで何かを思いっきり廊下に叩きつけたような音がして、私はびくっと肩を揺らした。な、なんだろう……?


 一気にざわめきの増した廊下では、その音の先を確かめるように、みんなが視線を向けていた。


「あれ、神山さんじゃね……?」

「うわ、やべえだろ! なんで今日あんな機嫌が悪いんだよ!?」


 焦った様子の生徒たちの言葉に固まってしまう。


 かみ、や、ま……ってもしかして……。


「わー、冬馬さん。今日は学校来んの早すぎでしょ」


 「俺だって今来たところだってのに」と、抜けたことを言いつつも、少し焦りを見せるトラくん。


「早く出てこい、オサゲ頭の地味女あああ!」


 大きく声を張り上げるその人は、廊下に置いてあるあらゆる物を蹴り飛ばしては、様々な人の制止を振り払って暴れていた。


 『オサゲ頭の地味女』ってきっと、私のことだ。


「オサゲちゃん、ちょっと早くここから逃げた方がいいかも」

「に、逃げるって……」


 一体どこへ!?


「ほら、とりあえずこっち」

「え、で、でも、あの……!」


 トラくんに腕を引かれたと同時に、学校中に響き渡る予鈴。


 もつれそうになる足を踏ん張らせながら、「じゅ、授業がっ」と口にすれば。


「オサゲちゃんさ、自分の命と授業、どっちが大切?」

「え……」

「ほら行こう」


 普段なら絶対に並べることのないそれを、天秤にかけられてしまい固まるしかなかった。


 トラくんが、「わり、退いて」と周りで固まっていた生徒たちの間をすり抜けていく。その場にいる生徒たちの視線が私とトラくん、そして向こうで「どこだ!」と暴れている……恐らく〝神山冬馬〟という人、それぞれに向けられていた。


 ああ、どうして次から次へと、問題が起きるんだろう。


 この学校に来たのは、もしかして間違いだった……?


 ぐいぐいと引っ張られて、私はあっという間にその場から離れた。一階まで階段で降りて、すれ違う先生達に、「走ったら危ないぞー」とだけ注意された。


 すると、ふと腕を引いていたトラくんが急に立ち止まった。お蔭でその背中に顔ごとぶつかる。い、痛いです。


「オサゲちゃん……あんた、このままもう帰った方が良いかも」


 振り返ったトラくんがそう言って、玄関口のある方を指した。


「え、でもまだ……」


 授業が残っているし、とぶつけた顔を摩っていると、「今はそれどころじゃねえだろ」と彼は呆れたように溜息を吐いた。


 そ、そんなことを言われても……今まで人生で授業なんて、サボったことなんてないし、何も言わずに帰っていいのかもわからないし、荷物は全て教室にある。寮の鍵だって、教室だ。


 どうしたらいいんだろう、と困っていれば、「トラー」と聞き覚えのある抜けた声が聞こえて、私たちは揃ってそちらへ顔を向けた。


「なーにしてんの? あ、オサゲちゃん、さっきぶりー」

「リュウ、良いところに!」


 あの〝溜まり場〟とやらから戻ってきたらしいリュウくんが、こっちに向かって歩いて来ていた。


「今、冬馬さんが、二年の教室んところで暴れてるんだよ」

「げ、マジ?」

「今からオサゲちゃんには帰ってもらうから、面倒だけど俺らで行って、一旦足止めしよう」

「えー、無理だよ。暴れてる冬馬さん、何度殴っても倒れないんだもん。ゾンビを相手にすんの、俺怖いよ」

「仕方ないだろ。泰司さんも来てないんだったら誰にも止められないんだし……行くぞ」

「ええー」


 トラくんに引っ張られて、無理やり連れて行かれるリュウくん。


「オサゲちゃん、助けてえ~」


 助けを求めるように、私の方へと腕を伸ばしてくるリュウくん。


 ずるずると連行されていく彼に何も言えずにいると、先ほどリュウくんが歩いてきた方向から……。


「何、んな所でつっ立ってんだよ」

「あ、み、ミク……さん!」


 ど、どど、どうしよう。


 まさかリュウくんたちが行ってしまった傍から、ミクさんに会うなんて……!


 気まずい空気が漂う。冷汗が止まらない気がした。


 だって私は確実にこの人から嫌われている。


 それがわかっていながら、私はこの人とどう接すれば良いのだろう。普通の人と接することさえ苦手なのに、この人といきなり二人きりで話すのはハードルが高すぎる。


 なんて運が悪いんだろう!


「へえ、俺と話すのはハードルが高いんだ」

「………へ?」

「しかも、この俺と出会して運悪いなんて、そこらへんの女なら大喜びだってのに」


 随分なこと言うんだな? と片眉を上げる彼に、私はひっ、と息を呑んだ。




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