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「兄…?まさか皇太子、殿下…?」



 私はちゃんと伝えたが、まさか本当に身内だとは思ってもいなかったのだろう。アクレシア公爵は突然現れた皇太子に驚きを隠せないようだ。



「そうだ。久しいな公爵」


「お、お久しぶりでございます…」


「あら。公爵様はお兄様のことご存じだったんですね」


「ルルーシュ。公爵とは結婚の挨拶で顔を合わせているから知っていて当然さ」


「あ、そういえばそうでしたね」


「ああ。…それで、公爵?先ほどのことはきちんと説明してくれるんだろう?」


「あ、いや、えっと…」


「私の世界で一番大切で可愛い妹に対しての発言、どういうことかしっかり説明してくれるよな?」



 笑顔で穏やかに話しているが、目は笑っていない。兄は相当怒っているようだ。



 カイラス・ド・ファンダル。

 彼はゲームの舞台であるここヴィスト王国の隣の国、ファンダル帝国の皇太子だ。ゲームには『皇帝と皇太子の協力を得て、アクレシア公爵家を潰すことに成功した』との一文にしか登場しないモブキャラである。モブなのでどんな容姿をしていてどんな性格なのかはわからなかったが、彼はイケメンでシスコンだった。

 容姿はファンダル皇室の証である銀髪に母親譲りの琥珀色の瞳で、前世で例えれば国宝級と言われるであろう端正な顔立ちだ。ちなみにルルーシュの瞳は父親譲りの瑠璃色である。



「それは、その…」



 アクレシア公爵は必死に言い訳を考えているようだが、先ほどのやり取りはすべて聞かれているので無駄な足掻きである。



「なぜ愛人が本邸に住んでいて、妹が離れに住んでいるんだ?それに子どもまでいるなんて、私たちを馬鹿にしているのかい?」


「そ、そのようなつもりは…」


「では馬鹿にしていないと言うのであればどういうことなんだ?約束したはずだ。元婚約者とは別れ、今後一切関わらないと。それにこの約束は公爵自ら提案したことだったじゃないか。だから私たちは結婚を認めたんだ」


「そうなの?」


「ん?ああ。ルルーシュには黙っていたけど、本当は私も父もこの結婚には反対していたんだ。いくら可愛い妹の願いでも信用ならない相手に嫁がせるつもりは毛頭なかったからな。公爵には婚約者もいたし、ルルーシュを説得する予定だったんだ。だけど公爵から婚約者とは別れるから結婚を認めてほしいと言われてね。そこまで言うのであればと最後は私たちが折れたんだ。だけど結果は私たちの考えが甘かったと言わざるをえない。まさか皇族との約束を違える人間などいないだろうという慢心があったようだ」



 (あ、これは嫌みですね)



 要するに兄は皇族との約束を守らなかったアクレシア公爵を馬鹿だと言ったも同然だ。



「こ、皇太子殿下!これには事情が」


「ほう。それは一体どんな大層な事情なんだ?しっかり説明してくれるよな?」


「そ、それは…」



 (いや、もう無理があるでしょ)



 私に暴言を吐き、私の家族を貶し、愛人の子どもを嫡男にすると言い切ったのだ。今さら取り繕ってももう遅い。



「公爵」


「は、はい」


「この国では正妻の子ども以外は後継ぎになることはできないと法律で定めていることは知っているな?」


「…はい」


「では公爵は法律を犯してまでも愛人との子どもを後継ぎにするつもりだったのか?」


「あ、あれは、言葉の綾といいますか…」


「そんな言い訳が通じるなんて、思ってはいないよな?」


「っ…」


「そもそも、嫡男変更の届け出を受け付けないように指示したのは私だからな」


「なっ!」


「正確に言えば指示したと言うよりは、こちらの王太子殿に相談したら親切に対応してくれたのさ」


「王太子殿下に…?」


「ああ。王太子殿は公爵が法律を犯すのではとひどく心配していたぞ?」


「あ…」


「まぁ結局王太子殿の心配は当たってしまったがな」



 まさか王太子に知られているなど思ってもいなかっただろう。公爵の顔色はすこぶる悪い。



「ど、どうすれば…」


「なに、心配はいらないさ。公爵が私の望みを叶えてくれるのであれば、王太子殿に今回のことは見逃すように頼んでやってもいいぞ?」


「っ!本当ですか!?」



 いくら貴族の頂点である公爵でも国の法律を犯せば罰は免れない。それに法律を犯したことが知られてしまえばアクレシア公爵家の信用はガタ落ちし、一度落ちた信用を取り戻すのは簡単なことではない。しかし兄の望みを叶えれば貴族社会で生き残ることができるのだ。当然公爵は藁にも縋る思いだろう。



「ああ、本当さ」


「あ、ありがとうございます!そ、それで皇太子殿下の望みとは…?」


「妹と離婚すること、セドルの親権を放棄すること。どうだ?簡単な望みだろう?」


「…それだけでいいのですか?」


「ああ、構わない」


「わ、わかりました」


「ではこの書類にサインしてくれ」



 事前に用意しておいた書類に公爵のサインをもらう。これで私とセドルはアクレシア公爵家とは無関係の人間だ。



「よし。これでいいだろう」


「あ、あの」


「ん?なんだ?」


「王太子殿下には…」


「ああ、ちゃんと伝えておくから安心しろ」


「は、はい!」


「それと今まで援助した金は返さなくていいし、愛人と結婚したければしても構わない」


「あ、ありがとうございます!」


「ただ今後一切私たちと公爵は無関係だということだけは忘れるな。じゃあ行こうか」


「はい、お兄様」



 こうして私たちは公爵邸を後にしたのだった。



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