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言いがかり


 ―――バンッ!



「おい!これはどういうことだ!」



 ノックも無しに部屋へとやって来たアクレシア公爵は、私に向かって怒鳴り付けた。



 (うるさいな。セドルが起きちゃうじゃない)



 そう思いながらも実際にこの部屋にセドルはいない。今日アクレシア公爵がこの部屋に来ることは前もって分かっていたので、レミアと別の部屋にいてもらっている。



「どうかされました?」


「しらばっくれるな!お前の仕業なんだろう!?」


「いきなりそう言われましても、なんのことだかさっぱり…」



 (まぁ、本当は知ってるけど)



 私は何も知りません、と言わんばかりの表情で頬に手を当て小首を傾げた。



「お前のせいでリカルドが!」


「リカルド、とは…?」


「俺とマリリンの子だ!」


「まぁ!おめでとうございます!無事にお生まれになったのですね」



 マリリンとはアクレシア公爵の元婚約者もとい、愛人だ。



「はっ、白々しい!よくそんなことが言えたな!内心は嫉妬に狂っているんだろう?お前は俺のことを愛してるもんな。だから汚い手を使ってリカルドを嫡男にさせないようにしたんだろう!?嫡男変更の届けを王宮に出しに行ったら却下されたんだぞ!」



 (なんで男ってずっと自分のことが好きなはず!なんて勘違いできるんだろう)



 俺のことを愛してる、なんて笑ってしまいそうだ。



「はぁ、何をおかしなことを言っているのですか?公爵様とマリリンさんのお子さんは、法律で嫡男になれないと決まっていますよね?」


「そんなことは知っている!だからリカルドを俺とお前の子として届け出たんだ!それなのに却下されるなんてお前が何かしたとしか考えられない!」


「そう言われましても私は何もしていませんよ?そもそもセドルがいるのに公爵様はなぜそのようなことを?」


「そんなの愛していない女との子より、愛している女との子を後継ぎにしたいからに決まっているだろう?そんな当たり前のこともわからないのか」


「…私のことを愛していないのですか?」


「当然だ。お前のせいでマリリンと結婚できなかったんだからな!」



 アクレシア公爵の言う通り、この結婚はルルーシュのわがままが発端であることに間違いないし、断れなかったのもわかる。だけどその代わり公爵は莫大な資金と権力を得ているのだ。



「でも公爵様は私との結婚で利益を得ているではないですか」


「わがままなお前と結婚してやったんだ。私が享受すべき当然の権利だろう?」


「お約束が違います」


「…なに?」


「マリリンさんと別れることが条件だったはずです」



 元婚約者(マリリン)と完全に別れることを条件に多額の資金を援助し、皇族の縁者として扱ってきたのだ。それなのに関係を断たず、ましてや子どもまで作り、さらにはその子どもを私との子どもとして扱うなど到底許されるわけない。



「そんなのお前が黙っていればいいだけだろう?」


「私がお父様に伝えればすぐに…」


「それは無理さ。なんせお前の手紙は握り潰すように使用人に言ってあるからな」


「じゃあ、今まで出した手紙は」


「捨てたに決まっているだろう?」


「…手紙が一通も届かなければ、家族が怪しむはずよ」


「たしかにそこは心配していたが、どうだ?現に今まで何も起こっていないということは、お前のことなんてどうでもいいと思っているんだよ。わがままな娘がいなくなってよかったって、きっと俺に感謝してるさ。くくっ、お前の家族は薄情だな!」



 まさか私の家族まで貶すなんて思ってもいなかった。この男は自分が国力が倍以上違う隣国の皇帝陛下より偉いとでも勘違いしているようだ。



「…あなたって救いようのないバカなのね」


「はっ!なんとでも言えばいいさ。お前はな、俺にとってただの金づるなんだよ。だけど俺は優しいからそんなお前をわざわざ抱いてやって子どもまで生ませてやったんだ。感謝しろよな!」


「……」


「だから俺の感謝に報いるために一筆書くんだ。“リカルドは私の子だ”とな!さぁ、書け……っ、なんだ貴様は!」



 アクレシア公爵がズカズカと部屋に入り込み無理やり私の手を掴もうとしたが、私の後ろに控えていた騎士が公爵の前に立ち塞がった。



「ちっ!お前、生意気にも護衛なんぞ雇ったのか?」


「護衛じゃありません。私の身内です」


「身内だと?…ああ、そういうことか。こいつはお前の浮気相手か。身内のように深い関係なんだな?」


「……」



 (え、この人何言ってんの?)



 身内という言葉の解釈が斜め上過ぎる。アクレシア公爵は顔はいいが頭は悪いようだ。



「はん!図星か。わがままだけじゃなくふしだらな女だな。…おい、そこのお前!公爵の俺の前で顔を隠しているなんて無礼にも程がある!すぐさま顔を露にして跪け!」



 アクレシア公爵はニヤニヤしながら騎士に命令をした。騎士との不貞を自ら明かすなど馬鹿だと思っているだろう。それに私の弱味を握ったことで、これからも私をいいように使えると思っているに違いない。

 しかしそんな未来は訪れることはないのだ。



「おやめください。この人は紛れもなく私の身内です」


「まだ言うか!不貞をばらされたくなければさっさと」


「だーかーら!この人は私のお兄様です!」


「……は?お兄様?」


「お兄様。このままだと話が進まないのでお顔を見せてもらえます?」


「はぁ、仕方ない。可愛い妹の頼みは断れないからな」



 籠手を着けた手で私の頭を撫で被っていた兜に手を掛けると、兜の中から銀髪碧眼の男性が現れた。銀髪は大変めずらしく、隣国皇室の証だということは広く知られている話だ。



「ぎ、銀の髪…」


「公爵様。こちらは私のお兄様です」


「可愛い妹が世話になったな。アクレシア公爵よ」




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